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第七話 旅路に危険はつきもの

 --某所ーー


「なるほど。仕方ないんじゃない。捕らえろとは言われているけど、死ねとは言われてないからね。それで、装備とか服装はどうだった?」


 男は馬車の中で、連絡用の魔術器で部下と話していた。

 馬車にしては内装が豪華で広い。ここにも魔術器が使われている。これだけで男は相当な身分かお金、またはその両方を所持しているのが分かる。


「そう。なら逃げなくてもよかったと思うけど。うーん。でも魔眼か。やっぱり危険か⋯⋯うんうん。分かったよ。こっちの方で上手くやっておくよ。ん? こっち? こっちは上手くいったよ。豊作だね。なんで集めてるかは僕にも分からないかな。うん? 気にしないでいいよ。それじゃあ、お互いがんばろうか」


 男は話を終え、魔術器をしまった。そして、愉快そうに笑って言う。


「こちらについてくれるかな? そうならなくてもいいんだけどね」



_______



トカゲを狩りつつ魔術を練習し始め五日経った。私は新たに二つほど魔術を使えるようになった。

 一つは不可視の斬撃。ただ、不可視の弾丸よりも危なっかしく使いづらいものになってしまった。

 弾丸の方は当たったらそれまでだ。弾丸とはいっても実のところ貫通しない。しかし、斬撃の方は範囲がよく分からない。なにせ見えないのだから。威力はかなり強いので今の私の切り札だ。

 二つ目は、これぞ異世界ものの定番。異空間収納だ。これができたときは思わず声を上げてしまい、マグノリアに心配されたものだ。

 ただし、こちらは今の所使い道がない。いろいろ理由はあるが、大きく分けて二つだろう。

 第一に私の荷物が少ない。着の身着のままで来たので(おまけに持ってた唯一の荷物は逃げる際に置いてきてしまった)手ぶらだ。背負うほどの荷物どころか、手に持つ荷物すら無い。

 ならば、マグノリアの荷物を持ってあげればいい。そう思うだろう? しかしだ。ここに、最も大きな理由がある。

 マグノリアはアイテムボックスなる者を所持している。そう。これが最大の理由だ。つまり、私がこんな魔術を使えるようにならずとも収納問題など無かったのだ。

 野営の様子を見て、持ち運びが楽になる魔術があるといいなと思い、一日かけて作った。しかし、よくよく考えれば、マグノリアは大剣もテントも持ち運んでいなかった。本来ならもっと早く⋯⋯というか出会ったときには気付かなくてはならないことだろう。いろいろあったんだ⋯⋯仕方ないだろ⋯⋯

 このことに気付き、マグノリアに聞いてみて、真相を知ったとき、私は膝を折った。マグノリアにさらに心配された。


 野営の準備も随分と慣れた。テントを張り、魔物除けの魔術器を作動させる。

 魔術器とは、まぁ、魔力を込めれば作動するものだ。詳しいことは分からないが、要するに術式が書き込まれた道具だと思えばいいらしい。魔力を流すだけで使えるので民間にとても広く普及しているそうだ。特に今作動させた魔物除けの魔術器は野営(特に一人のとき)には必須らしい。

 マグノリアは私が準備している間に料理をしている。件のアイテムボックスから最近狩りまくっているトカゲを取り出し、豪快に鱗や皮を引きはがし、肉を切り焼く。それだけだ。別にマグノリアが料理をすることができないわけではない⋯⋯と思う。

 

 トカゲの肉はかなり美味しい。鶏肉みたいだ。脂っぽくなく、淡泊な味で肉の旨みをしっかりと感じさせてくれる。塩だけなのにここまで美味しい食材は珍しい。


「少々面倒なことになっているかもしれません⋯⋯」


 食事中、マグノリアはこう切り出した。私は食べる手を止める。


「森に主が現れたかもしれません」

「主?」


 あれか。 あの湖に居たような(見てはないけど)大きかったり、強かったりする生物か。


「はい。流石にフォレストリザードが多すぎです。なので、それに連なる強力な魔物が居ると見たほうがいいです」


 お化けトカゲに連なる魔物か⋯⋯どんなだろう。龍とかか? 魔物なんてトカゲしか見たことないしな。見当もつかない。


「どんなのかって分かる?」

「ん⋯⋯亜龍⋯⋯ではないですね。そうだとすると増えるどころか周りの生物が全滅でしょうし。やはり、フォレストリザードの突然変異種だと思います。それなら、フォレストリザードばかりなのも頷けます。あとはただ力が強いタイプなのか、統率力に長けたタイプなのか、繁殖力の優れたタイプなのかですね」


 いろいろ考えるものだ。私では思いつきもしないだろう。こういう世界では生き残るためにそういうのも必要なのだろう。私も落ち着いたら知識を身につけなければ。


「亜龍の類でないなら大丈夫でしょう。フォレストリザードの変異種程度なら問題ありません。少々時間はかかりますが」


 マグノリアの言葉ははずれることになる。いいや、正しくはあった。想定外があったとしか言いようがない。龍のほうがマシかもしれないような想定外が⋯⋯


 朝になり、テントなどを片付けた後、西に向けて出発した。もうすぐ森の終点に着き、西側に入ることになる。

 森の奥ではボスのようにフォレストリザードの変異種が待ち構えているらしい。なにも待ち構えているわけではないだろうと思ったが、マグノリアが言うには本当に待ち構えているらしい。

 なんで倒す前提なのだろうと思ったが、どうやらマグノリアはあちらが統率力に長けた、頭のいいタイプだと見当をつけていたらしい。あちらさん、マジで待ち構えていやがった。大量のフォレストリザードを引き連れて。


 私たちはトカゲを殲滅していった。私は不可視の斬撃を使い、マグノリアは鎖でつながっている二本の大剣を振り回して。

 不可視の斬撃はこういう場面で非常に有用だ。一対一では使いづらいことこの上ないが、周りが敵ばかりであれば、一度に多くを倒せる。この調子ならすぐとはいかないが、倒せる。魔力もまだまだ余裕だ。

 マグノリアも余裕そうだ。当たり前だろう。私などとは比べ物にならない速度でトカゲを狩っている。暴風のようだ。


 目に見えてフォレストリザードが減ってきた。そして、私たちはその親玉を見据える。

 そいつはフォレストリザードよりも一回りも二回りも大きい。しかし、とても穏やかだ。今の状況とは不釣り合いに。


「統率力に長けているとは思っていましたが、まさか繁殖力にも優れているとは⋯⋯予想以上に大物ですね」


 確かに見るからに強そうだ。その知性を感じさせる目に闘志が宿った気がした。そして、口を大きく開き、咆哮を上げる。

 しかし、咆哮は長くは続かなかった。


 とても眩しくなったように感じた。


「っ! ぐ、くう⋯⋯」


 マグノリアは急に苦しみだし、倒れてしまった。一体何が起こったのか。さっぱり分からない。


「これは聖属性の⋯⋯」


 眩しく感じたのは気のせいではなかったようだ。この辺に吸血鬼の毒となる聖属性の何かが放たれた。それは間違いない。誰かと言えば『破龍の剣』だろう。しかし、どうやって? あの三人は間に合わないはずだ。


「どうやって⋯⋯?」


 マグノリアも同じことを疑問に思ったようだ。

 そこに答える声があった。それは少し楽し気なものだった。


「僕の部下の三人は間に合わなかったみたいだね。それにしてもこんなのが生まれてたなんてね。はは。ああ、それと、僕がここに居る理由は部下から連絡があったからだよ。ちょうど西にいたしね」


 男がそこにいた。年は私と同じくらい。青色を含んだ金髪。切れ長の目。眉目秀麗と言える顔立ち。口元に浮かんだ笑みは子供っぽい印象を与えてくる。

 身を包むのは青銀色の鎧、腰には飾り気の無い剣を佩いている。

 そいつはあっという間に変異種を切り刻んだ。


「『ステータス』『確認』」


<ステータスの確認ができませんでした>


 これが意味するところは⋯⋯


「僕は転異者だからステータスの確認はできないよ。君が鑑定の類のアビリティがあるなら別だけど」


 こいつが転異者。私と同郷の者。


「『輝氷の聖騎士』⋯⋯」


 マグノリアがその姿を見て呟いた。

 相手が何を得意とするのかは分かった。しかし、称号が伝わっているということは有名になるだけの実力があるということだ。


「有名なのも困りものだよね。名を知られると対策されるし。君はそんなことなさそうだけど」


 私を見て言う。

 苦しい展開だ。多分私がこっちに来て間もないのが分かっている。なにせ服が変わっていない。

 マグノリアは動けない。私一人で切り抜けなくてはならない。いけるか?


「ねえ、その子をさ、こちらに渡してくれない? そしたら『破龍の剣』に入れてあげるよ」


 その選択肢はもとより無い。それにこいつ⋯⋯


「初めから期待してないな」


 私は構える。


「あ。分かっちゃった? はは。こうでないと楽しくないよね。僕は『輝氷の聖騎士』マサキ・アオヤマ。いくよ」


 『輝氷の聖騎士』、マサキは剣を抜き、こちらに駆けてくる。


 殺し合いが始まる。





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