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第十三話 雷霆は嵐の始まりを告げる

 何事も無く朝を迎えた。この何事も無いというのが重要だ。寝ている間に魔物や獣に襲われない工夫は評価の対象になる。もっとも獣の類やゴブリンとオーク以外の魔物は森にはいないが。なので、夜は安全だ。彼らだって寝るのだから。

 例外はないことはないだろう。しかし、ゴブリンやオークなら突然変異種でなければ絶対に私たちに近づかない。

 私が常時垂れ流している魔力のせいで弱い魔物は近づかないのだ。普段は魔眼を封じている仮面が私の漏れている魔力を抑えてくれている。しかし、寝るときは流石に外す。町の中なら別だが。これもマサキとの戦いで得たものと言えるだろう。これで魔物除けの魔術器いらずだ。

 まぁ、いると思われるここいらの主が本気を出したら夜でも襲われるかもしれないが。


 この試験はこのように様々なものを見る。そして、夕食時に説明した通り食事も見られる。その中でも特に朝食は他の食事よりも重く見られているらしい。


「ご主人様、今日は二手に分かれませんか?」


 そんな朝食の時だった。レナリーが提案してきたのは。


「二手か⋯⋯大丈夫かな」

「はい。問題ないかと」


 昨日の様子を見る限りそうだろう。私とマグノリアは結局何もしていなかった。要するに人手が余っている。かたまっていては効率が悪い。

 ん⋯⋯ただ、厄介なのがいると分かっていて戦力を分けたくはないな。子供たちが危険な目に合うかもしれない。


「子供たちなら大丈夫ですよ。十分強いです。変異種程度なら余裕でしょう。ただ、緊急事態のときは片方に知らせるようにしたほうがいいでしょう」


 マグノリアは相変わらず私の考えを読んでくる。

 まぁ、確かにな⋯⋯可愛い子には旅をさせよとも言うし。

 うん。そうしよう。二手に分かれてもゴブリンやオーク程度はどうとでもなるだろう。


「じゃあ、分けようか。どう分ける?」



_______



 既に昼食の時間ぐらいにはなっただろうか? かなり忙しい。昨日より確実に増えている気がする。


「右手前の木の上、ゴブリンが弓を構えている」

「おっ。本当だ」


 不可視の弾丸を弓を構えたゴブリンにぶつける。使う魔力を減らしてあるので胸に穴が空く程度だ。普通に使ったら、ゴブリンだと肉片になってしまうからね。初日のことはアマリアとクロウスだけではなく私にも言えたわけだ。

 でだ。そのアマリアとクロウスは拳に火やら毒を纏ってゴブリンとオーク相手に無双している。たくましいな⋯⋯


 二手に分ける際の分け方はレナリーの提案のものだ。

 私のところはアマリアとクロウスにカレンがメンバーだ。実は凄くバランスのいいパーティーだ。

 カレンが周囲の状況を把握し、奇襲を防ぐ。それをアマリアとクロウス、そして、私が対応する。

 私は前衛にも後衛にもなれるので誰がどう動いても問題ない。なので、今はアマリアとクロウスに自由にさせて、私はそのフォローに回っている。元気なのはいいことだ。

 向こうもこちらと同じくバランスのいい構成だ。レナリーが周囲を警戒し、エルギルとマグノリアが敵を倒す。

 そして、私とマグノリアの役割は他にもある。マグノリアはアイテムボックスで、私は魔術で素材などを収納する。

 初めてこの魔術が役に立った。作ってから今まで使う必要がなかったからな⋯⋯


 二手に分かれても問題は無い。無いんだが数が多い。やっぱり絶対に増えている。


「⋯⋯なんだか危ないみたい。皆近づかないでって、逃げてって言ってる」


 カレンの言う皆とは精霊のことだ。彼らに愛されているカレンは姿を見ることと、声を聴くことができる。そして、彼らはカレンに積極的に協力する。

 精霊が何なのかはよく分からない。カレンも同様らしい。

 ただ、精霊は嫌う相手はとことん嫌い、好きな相手はどこまでも味方することは分かっている。つまり、精霊はカレンを騙すといった不利益になることは絶対にしない。

 今、カレンに警告してきたということはそれだけまずいことが起こっている可能性がある。

 カレンはエルギルやレナリーと比べると少し劣るが実力者だ。精霊が手伝うというのもあるらしいが魔術はかなりの腕前を持っている。そんなカレンでは対応しきれないかもしれない事態。嫌な予感しかしない。


「集合したほうがいいか⋯⋯」

「誰か来る」


 現れたのは十人ほどの冒険者⋯⋯志望。

 あまり友好的ではなさそうだ。こいつらのことか? いや⋯⋯


「こいつらで間違いないんだな」

「あ、ああ⋯」

「おい、お前ら、今まで取った素材をよこせ。そうすりゃあ逃がしてやる」


 なんともお決まりの台詞だ。

 今は鬱陶しい。時間を掛けたくはない。

 なので、手早く手前の人の左腕を切り飛ばした。


「へ⋯⋯あ、あれ⋯⋯」

「ひぃっ」


 時が止まったかのような静寂の中で、血の噴き出す音と、地面に腕が落ちた音だけが響いた。

 次の瞬間、堰を切ったように、叫びながら散り散りに逃げ出した。


「ふぅ⋯⋯」


 他にいないか周囲の気配を探ると、後ろの方から駆けてくる人を見つけた。

 その人物はローブを身に着けていた。どこかで見たような。 確か副支部長の⋯⋯


「クエンターさん?」

「はい。ええっと。これは全員にお伝えしているのですが、少々⋯⋯いえ、かなりの想定外が起きたというか、起きていたようでして」

「ゴブリンとオークが増えているのと関係が?」

「ええ。その原因がですね。どうも⋯⋯魔族が生まれていたようなんですよ。ここまで来ると試験ではなくなります。なので、これ以上は辞退していただいても合格とします。そのまま続行していただいても構いませんが、おすすめはしません」

「全員を町に帰しはしないんですか?」

「そうしたいのもやまやまなんですが。何分、皆さん自分なら余裕だと言って聞きませんから。おっと、すぐに伝えに行かなくてはなりませんので、これで失礼します」


 そう言うなり走り出してしまった。


 魔族か⋯⋯

 マグノリアに聞いている。今の魔族のことを。

 古代では人以外の知性ある生物のことを言っていた。しかし、現代では意味が異なってくる。

 現代の魔族には二種類いる。

 一つ目はいわゆる指名手配犯のことだ。種族権が認められていても、大量殺人などのあまりにも凄惨な犯罪を行ったものはその種族権が認められなくなる。そして、魔族認定される。魔族認定を受けたものは国を問わず討伐される。冒険者ギルドには依頼が出回り、国の警察組織や騎士団などにも追われる。

 そして二つ目、今回はこっちだろう。魔物が突然変異を起こした場合だ。言葉を理解し、ステータスが確認できるようになる。場合によっては敵対することなく種族権が認められることもあるが、そんなことはあまり無い。基本的にはその魔物の長となり大幅に勢力を広げる。こうなると厄介だ。その個体としての能力も非常に高くなる上に、その知能により群れを制御し、群れ全体としても危険な存在になる。特徴としてはその縄張り内で、その魔物が非常に増え、それ以外の魔物及び動物が少なくなる。今と同じだ。ただ、普通の変異種が生まれても同様のことが起こる、むしろ普通の変異種のときが多いので気付くのが遅れやすいそうだ。

 やはりすぐに集まったほうが良さそうだ。魔族がどんなものかは分からないが、甘く見ることはできない。


「合図をだすぞ」


 そのときだ。もともと打ち合わせしていた合図とは別の、そしてもっと目立つ合図が向こうで上がった。 一瞬の光と凄まじい轟音。そして、感じる魔力。間違いなくエルギルのケラウノスの雷霆だ。

 マグノリアたちが、合図を出す暇も無く、エルギルが切り札とも言える雷霆を使うような相手。そんなもの今は魔族しかいないだろう。

 続けてまた雷が放たれた。


「急ぐよ!」


 私たちは雷の見えた方向へ走り出した。

 雷はまだ止みそうにない。

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