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第十二話 ゴブリンは定番だと思う

 ゴブリンは初めて見たが、想像通りというか、設定通りというか。うん。ゲームのまま。緑で子供の背丈。少し醜悪。そんな存在だ。言葉は通じない。

 今はアマリアとクロウスが無双しているところだ。意外に思うだろうか? 子供とはいえこの姉妹は龍の血を半分継いでいる。

 マグノリアとレナリーが言うには龍はその知能に比例して強いそうだ。そして、上位の龍。種族権を持ち、町で人と暮らすような存在はかなりの強さらしい。アマリアとクロウスの親もそういう龍なのだろう。


 ドナトと別れた後、森に入ったのだが、早速ゴブリンの群れに出くわしてしまった。なんという悪運の賜物か。ただ、脅威にはならないと思った。正直不安ではあったのだ。この世界のゴブリンがとても強いというゲームとは違う設定だったらどうしようと。

 パッと見だが問題は無いと思ったが、一瞬動きが止まるのは仕方ないと思う。例えば、嫌な例えだが、時間もあり、能力もあるが、急に数学の問題を百問出されたら思考が止まるだろう。そんな感じだ。

 ゴブリンたちも動きを止めていたから、多分驚いているのだろう。

 そんな静止の中でいち早く動いたのがアマリアとクロウスだった。毒と火のブレスをゴブリンに放ったのだ。流石は半龍だ。まさかブレスを吐くとは思わなかった。

 ブレスは想像通りのものだ。一部の魔物。魔物は全て魔力を持つがーーむしろそれが魔物の定義らしいーーその中でも特殊な属性、または強大な魔力を持つ魔物の中にブレスを放つものがいるそうだ。種族権が認められているなかでは龍ぐらいらしい。ブレスは喉から口にかけて魔力を変換して放つものらしい。ある意味では強力な属性魔術の一撃なのだとか。私は喉辺りが術式のようになっていると思うのだが。

 ただ、ブレスは凄まじいの一言だ。毒は私たちと森には影響を及ばさない。しかし、ゴブリンは体が溶け、喉を掻き毟って苦しんでいる。火もだ。森を焼かず、私たちは熱さすら感じない。しかし、ゴブリンは燃やす。対象にだけ効果を与える。恐ろしい能力だ。


 しばらく⋯⋯もせずにゴブリンは倒されてしまった。最も幼いからと言う理由で不安だったが見当違いの不安だったらしい。問題が無かったわけではないが⋯⋯


「失敗した」

「残念ー」


 このお嬢さん方、どうも凄い張り切っていたみたいだ。

 ゴブリンが焼けてしまったのだ。

 今は監視されているらしいから討伐したところは見てもらえたはずだ。しかし、平時はそうもいかない。討伐証明部位をギルドに持って行かなくてはならない。そうして討伐したと認められる。他にもゴブリンでは何も無いが素材となる魔物も多い。オークでは食用として使える。なので、焼いたり、毒塗れにしたりするとこういったものが回収できない。つまりは減点というわけだ。

 まぁ、なかなか可愛い所があるじゃないか。


「次から気を付ければいいさ」

「俺も次からはやる」


 エルギルはなかなかに男らしい。

 私も素材が取れるように倒さなくてはならない。爪で切ってしまえばいいだけだが。魔術もそんな損壊が酷くなるものは使わない、むしろ使えないし。鎧通しはオークには気を付けよう。オークは内臓も食べられるらしいから。鎧通しを普通に魔物に使ったら内臓が液状になってしまった。よくマサキの奴は生きていたよな⋯⋯


「それにしてもこのゴブリン⋯⋯気になりますね」

「言われてみればそうですね」


 知的な二人、レナリーとマグノリアはどうもゴブリンに気になる所があるらしい。


「どこが気になるの?」


 私はなんら不審なところがあるとは思わなかったが。

 もっとも私は知識が無いのでどうとも言えない。


「ああ、はい。ご主人様。ゴブリンは例外を除けば知能は高くはありません」

「らしいね」

「しかし、このゴブリンたちはどうにも部隊を編成した感じがあるのです」

「え? そうなの?」


 全然感じ無かった。


「ゴブリンにしては程度ではありますが⋯⋯」

「ふーん」

「はい。ゴブリンメイジにゴブリンクレリック、そして、盾を持ったゴブリン、剣を持ったゴブリン。まるで、バランス良くパーティーを組んだかのようです」

「それにです。ギョクト様。ゴブリンメイジとゴブリンクレリックは珍しい存在です。群れに一匹居ればいいような。それがどちらもいるのはやはり⋯⋯」

「何かあると」

「間違いなく」


 本来知能が低いゴブリンがバランスを考えるのは変。そして、珍しいはずの存在がどちらも現れる。なるほど。偶然で済ますには重なりすぎか。というよりあれかな? こういう事態になりうる原因に心当たりというか前例があるかな? 物語でもよくあるあれ。少し前、惑いの森でも経験したこと。


「優秀な指導者が生まれた可能性が大きいです」


 やっぱりか。部隊を編成したといっても、このゴブリンたちはそれを生かせてはいなかった⋯⋯と思う。かなり早くアマリアとクロウスに殲滅されたので確かな事は言えないが。

 彼ら自身が賢かったとは思えない。だとしたら、バランスのいい編成を行える存在が彼らの上に居るのは明白だ。こういうことができるということはあのトカゲよりも厄介そうだ。


 ずっと狩り続けたが、やはり指導者がいるので間違いは無さそうだ。それも、最初に思ったのよりもきけんそうな。

 オークにもゴブリンと同様のことが言えたのだ。メイジやクレリックがいる。数も多い。

 それだけではない。ゴブリンとオークが混じっている群れもあった。別に同じ群れであることは不思議ではないらしい。ゴブリンは他の強い種族に恭順する性質もあるそうだ。しかし、一緒に戦っていたことが不思議なのだそうだ。普通はゴブリンが捨て駒にされるらしい。

 このことから、完璧にゴブリンとオークを従えていることが分かった。

 確かに異常はある。しかし、問題はやっぱり無い。ゴブリンはアマリアとクロウスが余裕で倒してしまう。炎や毒を体に纏わせて戦うので、素材を傷つけ過ぎることはない。これを見た感想としては術式の働きをするのは喉では無さそうだなというのと、某ドラゴンスレイヤーみたいというのだ。

 力の強いオークはエルギルが対応している。正面から力に対して力でぶつかっている。全く負けない。流石は筋力SSS。身の丈はありそうな両刃の斧、ケラウノスを用いまさに殲滅していっている。暴風のようだ。

 偶にある奇襲のようなものはレナリーとカレンが捌いている。レナリーは五感が鋭い。カレンは精霊の声を聴いているらしい。精霊がどういうものかは分からない。

 それにしてもやることが無い。私が動く前に他の皆が終わらせる。マグノリアも私と同じ立場で、苦い笑顔を浮かべている。本当に思ったよりも皆は優秀だ。

 

 夜にもなるとゴブリンやオークは現れなくなった。夜は寝るらしい。

 それにしても不気味なくらい静かだ。ゴブリンやオーク以外の夜行性の魔物だっていないわけではないだろうに。魔物だけじゃない。普通の獣の生きている気配すらしない。

 

「きっとゴブリンやオークがほとんど食べてしまったんですよ」


 マグノリアに話しかけられて驚いた。なんで私が気になっていたことが分かったのだろう?


「顔にでてますよ。耳を傾けて、首を傾げていましたから何を考えているか想像はつきますよ」


 そんなに分かりやすいのか? ちょっと気を付けようかな。


「ふふふ。またでてますよ」


 むぅ⋯⋯


「ふふふ」

「ご主人様、奥様、イチャつくのもいいですが、お食事が冷めてしまいますよ」

「イ、イチャ⋯⋯」


 その発言には甚だ遺憾ではあるが、確かに料理が冷めてしまう。


「美味しい」

「ありがとうございます」


 高級料亭にだせるレベルだと思う。ただ味付けして焼いただけとは思えない複雑な味。皆夢中で食べている。

 料理の腕は冒険者にとってある種必要な技能でもある。最低限は必ず、そして、あればあるだけいい。食は必ず必要だ。そして、味が良ければ士気も上がる。何が言いたいかというと、料理も評価に含まれるということだ。

 さてさてドナトの奴はどうなのだろう? 


「案外差は無いと思いますよ」

「ぐ⋯⋯ぬ⋯⋯」


 笑い声が上がった。

 もの申したいところだが、やめた。笑顔を見ていると毒気が抜かれたからだ。

 試験一日目は穏やかに終わりを告げた。


 




 そして私は上手くいっているときは良くないことが起きるということを前回で学ぶことができていなかったらしい。

 

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