中央編:11
しばらくして戻られたライモンド様に特に変化は見られなかった
「今までであれば、この部屋から自室へ戻った頃にはイライラしたりと感情の起伏が激しくなったり不安定になっていたりしていたのですがそれがない。おそらく効果が出ているのではないかと思われます。リリアーナはどうですか?」
自室へお戻りになるといった短時間で変化を与えるなんて変質した魔素はどれほどの影響力があるか
「わたくしの方も特に変化はありません。短時間では判断できないかもしれませんが彼らの事は信頼できますし時間がありません。リカルド様ご判断を」
真剣な眼差しで殿下に判断を仰がれるリリアーナ様と無言で頷くライモンド様も殿下へ視線を向けました
殿下は笑顔で指輪を一つ御取りになり認証し左手の薬指へ
「彼らが信用できなければ他の誰を何を信用するというのだ。こ度の恩、決して忘れぬ。残りの指輪も中枢を担う皆へ配布し一日も早く国政等を正常化すると約束する」
他の方々も指輪を付けられ晴れ晴れとした表情で感謝を述べられます
くすぐったく照れくさい
そんな穏やかな雰囲気も地響きと轟音により一気に緊張感が高まる
兄達が窓から外を確認すれば中央武官を含む大勢の者達の魔術を用いた争いが勃発していた
「急ぎ王城に戻り鎮圧せねばならぬ。魔術具感謝する。皆行くぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
皆様急ぎ席を立ち行動へ移されますが外は混乱しており大変危険です
「「しばらくお待ちください。短時間であれば沈静化できますのでお任せいただけませんか?」」
良い手を思いついたようですがその手は何でしょう?
「「ルディ。閃光球と煙幕球あるだけ全部出して」」
閃光球は眼つぶしに煙幕球は視界を遮りますが沈静化までは出来ないと思うのですが?
とりあえず兄達へ渡す為にも一度自室へ戻りアイテムボックスから全て取りだし渡す
「ルディは気付いていないみたいだけれど光属性の閃光球は変質した魔素を少し正常化にする効果があるんだよ」
珍しくアル兄が一人で説明してくれます
手の閃光球を風矢に乗せ放ちます
広範囲にカッと閃光が広がります
全く容赦なし
「それと闇属性の煙幕球は沈静作用があるんだよ。少し手を加えれば眠らせることも可能だよ」
エル兄が煙幕を持ち魔法で改良しています
全然気づきませんでした
苦笑しながら教えてくれる兄達ですが何故今まで教えてくれなかったのでしょうって使わなかったからですね
納得
領内で常にウルルやイルさんが側にいる状況で危険な目にあうことも無かった
使う機会が無かった閃光球と煙幕球
簡単に作れるので幼い頃、暇つぶしに大量に作ってしまいましたが役に立って何よりです
「そ…そんな魔術具は中央へ報告されていないぞ」
ライモンド様は顔を引きつらせながらおっしゃいますが子供のおもちゃ状態でしたから誰も報告しようとは思わなかったのでしょう
光が収まりかけてきた所でエル兄が煙幕球を風矢で閃光球同様に放ちます
一瞬で真っ暗闇
あの暗闇で皆様眠ってしまわれたのなら静寂が訪れている事でしょう
眺めつつライモンド様へお答えします
「これは私が幼い頃に危険から自分の身を守る為に作った物で実用化されていないのです」
大量にあったので閃光球も煙幕球も半分ほど残っています
「ご入り用でしたらお持ちください。殺傷能力はありませんが使い方次第ですのでお気を付け下さい」
皆様2~3個程お持ちになるようです
「助かった三兄弟。この恩は必ず返す」
フィデリオ様が力強く宣言されます
「「数倍にはなりますよね。楽しみにしています。ふふふ」」
兄達素直では無いのか単に腹黒なのか…悪役みたいな笑いは止めましょうよ
「えぇ!もちろんですわ」
アリシア様が笑顔で請け負ってらっしゃいますが大丈夫?
殿下も笑いながら
「利息もまとめて返すさ」
と軽い掛け合いで笑みがこぼることにより体に入り過ぎた力が抜けたようです
力み過ぎても良くはないのでコレを狙っての会話かな?
皆様笑顔で部屋を出て行かれました
向かうは王城
このまま落ち着けば良い
私の平穏な生活の為にも
しかし世の中そう上手くはいきません
煙幕球で眠っていた人達もしばらくすれば目覚め再度、変質した魔素に汚染されていきます
元から断たなければ繰り返し悪化する
その後殿下達から中枢の方々の正常化と王女ご一行の帰国の日程が決まったことなどご連絡をいただきました
帰国は一月後
準備など必要ですから仕方が無いのかもしれませんが長い
殿下達も頑張られたようですが大国の狙いもあってか調整が難航しています
それは突如起こりました
人々は姿も変質した
髪や瞳、肌の色まで魔獣のような濁った色へとなり暴れ始めた
精神だけでなく肉体までも蝕んだ変質した魔素
不思議な事に王女様の周辺へは被害が及びません
しかし姿まで変質しているのは常に王女様達の近くに侍っていた者達
このままでは人として戻れなくなってしまうかもしれない
急ぎ高い建物の上へと向かい全力で反対するウルルを説得し魔素の正常化をおこないます
関知できる範囲を全て
兄達も遅れて合流し手伝ってくれます
本当は止めたかったようですが無理です
止まりません
私の性格など生まれた時からの付き合いである兄達が知らないはずはないのです
思わずお互いの顔を見合わせ笑ってしまいました
言葉が無くても心が通じ合える
少し気が抜けていたのでしょう
パリン
私を強い衝撃が襲う
何かが砕けるような音
ポーから貰っていたお守りの花です
霧散し粉々に…
何が起こったのかと兄達と周囲をうかがえば憎悪の塊のような眼をしたブリアンナ王女様達
全然気づかなかったのは何故?
魔素の循環をおこなっているので気付かないはずがない
「貴方達の所為で…どうしてくれるのよ!」
ブリアンナ王女様はご自分の体質を知った上での滞在だったのか
「「ブリアンナ王女様はご自身の体質をご存じだったのですか?」」
兄達が私を背に庇いながら問います
「当然です。わたくし達はお父様とお母様そして国の者達全てに今度こそ本当に愛される為に動いていたのですから」
今度こそとはどういうこと?
わたくし達とはセシル様とジェラルド様もで?
「わたくし達は生まれる前は兄妹だったのです。親に愛されず最後には殺されそうになって気付けば…三人でこのまま生きていてもと共に命を絶ち気付けばこの世界におりました。離れ離れだった兄と妹とも再会する事もでき今生では愛され幸せになるはずだったのに!貴方達の所為でわたくし達は…」
私と同じ転生者
それも肉体的にも虐待されていた兄妹
愛されたい
心を捻じ曲げたり誰かを陥れてでも得られる愛情で幸せになれるのか
まやかしでは?
でも縋ってしまった
それでも愛されたいと
一歩間違えれば私もそうなっていたかもしれない
今生で私は家族に恵まれた
運が良かっただけ
幸運と不運は同量だというけれど本当?
幸不幸は判断する本人次第
私はお父さんとお母さんの子供で幸せ
兄さん達がいてくれて本当に幸せ
祖母もイルさんも領地の皆も…
王女様から発せられる変質した魔素
王女様のお側に常に控えていても大丈夫だったお二人
兄妹の絆
強い欲
愛されたい
強制的に相手の心を捻じ曲げ愛させるといった魅了のような精神支配ともいえる行為に行使された魔素には歪みが生じた
全てに愛されたいとの我欲が強い望みが魔法や魔術を行使してでも叶えようとした結果、魔素を変質させ歪な魔素を発生させることとなった
誰もが思い願う事
執着が歪みを生んだ
先ほどの衝撃は変質した魔素そのものによる真空状態で私を囲い込もうとした為
危うく圧死するところだった
この世界に真空や圧力等の概念は無い
転生者ならではの応用
魔素の塊は魔力
変質していても魔素は魔素
さすがに変質した魔素による真空状態は気付けなかった
魔法や魔術として行使されれば気付けただろう
ポーのお守りが無ければ危なかったかもしれない
ありがとうポー
攻撃の際に止まっていた魔素の正常化をブリアンナ王女様達へ向ける
元凶は彼女達
兄達も隙をうかがいつつ退路を確保しようとしていましたが最悪ウルルに乗れば良い
目立っても命あっての事
領地へ帰れば良い
もちろん正常化してから
気持ちは分かりますがやって良いことと悪い事がある
兄達も協力してくれる
ジェラルド様がブリアンナ王女様とセシル様を守るように前へ立ちますが無駄です
兄達は最強
欲目でも何でもなく私の為なら絶対に誰にも負けません
彼女達にはもっと広い世界を見てほしい
親に愛されない事がどういうことか私は知っている
子供にとっての母親は絶対神
でも母性本能なんて無い母親もいる
親も完璧ではない
先達として大人としての理性に期待したいが体だけ大人になっている人は多い
親になる資格が無い者が親になった
ただそれだけのこと
無免許での事故に周囲は大迷惑
際限なく生まれるモンペも同じ
近くに居る周囲の者が多大な迷惑を被る
残酷かもしれないけれど
運が悪かっただけ
無い物ねだり
子(自分)に向ける愛がないのだから求めるだけ無意味
無理やり意志を曲げてまで与えられても虚しいだけ
つまりは心がこもらない口先だけの言葉
詐欺師と同じ
一時的な夢に浸れるだけで夢から覚めた時の天と地ほどの差に打ちのめされる
自由に
狭窄的視野に囚われず自由になって欲しい
幸せになって欲しい
これほど兄妹を大切に思い合っているのだから
親の呪縛から自由になり幸せにだってなれる
素敵な兄妹という家族がいる
絶対的なミカタが居るのだから
狭い世界で依存しあうのではなく周囲へも目を向けてほしい
前世の私のように家族の中でも孤独だった訳ではない
過去の私は家族という狭い世界から周囲へと代わりを求めた
そして家族の代わり以上に思ってくれる友人達を得た
実の親よりも思ってくれる優しく、そして厳しい大人達もいた
運が良かっただけかもしれない
でも自分から周囲へ働きかけなければ得られない
どうか気付いてほしい
過去の辛い記憶があるのは今の幸せを実感できるように
日常にありふれた小さな幸せを余すことなく大切にできるように
その為に辛い記憶を持って生まれたのだと思う
辛い記憶があるからこそ幸せなのだと気付くことが出来るのだから




