炭酸飲料と絶望
深夜のコンビニが好きだ。なんでも売ってるから。
気だるげな店員の声を背に店を出ると、ちょうど一匹の蛾が目の前をすーっと横切った。
横切って、コンビニの明かりに吸われて。
ガラス戸に落ち着いてゆっくり羽を動かすそれを、わたしはしばらく見ていたけれど。Tシャツにじわじわと汗が染みていくのに気づいて歩き始めた。
汗をかくのは嫌いだ。夏が嫌いだ。
なんとかっていう名前の大きな道路に沿って歩く。東京に来て、はるばる東京に来て、私は何をしているんだろう。
右手にぶら下げたコンビニ袋ががさがさと揺れる。左手の道路を、ときどき大きなトラックが駆けていく。
(あきらめた人たちを、運んでいるのかもしれない)
トラックの荷台に積まれて運ばれる私を想像して、少し悲しくなったけれど、真顔で歩き続ける。
(帰ったら、レポートを書かなくちゃなあ)
真面目なことを考えようとして、実際に「れぽーと」と口に出してみたけれど、それがなんなのか分からなかった。
背中と脇に汗の感触がある。Tシャツがそこだけ身体に張り付いていて、誰かに抱き締められているみたいで気持ち悪かった。
「れぽーと!」
大きな声を出しながら、大きく腕を振ってみる。がさがさ、がさがさ。コンビニ袋も音を立てる。
「れぽーと! れぽーと! れぽーとれぽーとれぽーと!!」
がさがさっ、がさがさっ。袋の中身が飛び出しそうになって、慌てて両手で抱えるようにした。
「あ……」
袋の中身の冷たさが、痩せた胸に当たって。抱き締められながら残酷な言葉をぶつけられているようで。
少し、笑った。
どうして私はここにいるんだろう。どうして私はここに来たんだろう。どうして私はここにいたいんだろう。私はここからどこに行きたいんだろう。
なにかが分からなくて、なにもかも分からなくなって、今夜も昼のように明るいコンビニの中をぐるぐると回って、ぐるぐると回って、ぐるぐると回って。いつもの飲み物を買って。店を出て。明日までもう少し。
生きていけるかな。死にたくはないかな。生きていたいのかな。忘れてしまいたいのかな。
分からないまま、それでも。なんとなくのままでやり過ごしていける。
ずるいなぁ、私は。
抱きしめたコンビニ袋が、がさがさと鳴る。
レシートには炭酸飲料としか書かれていなかったけれど。
きっと私は今夜も買ってしまったんだろう。胸いっぱいの絶望をやわらげる、麻酔のようななにかを。明日の朝、目を覚ますためのなにかを。
袋を抱えたまま立ち止まって、大きい道路をトラックが三台走り抜けて、どうやら夜はまだ明けないらしい。
がさがさと音を鳴らしながら、また私は歩き始める。
迎えてくれる人のいない部屋に向かって、炭酸飲料と絶望を抱きしめて。




