↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

炭酸飲料と絶望

作者: 堀井ほうり
掲載日:2015/11/03

 深夜のコンビニが好きだ。なんでも売ってるから。

 気だるげな店員の声を背に店を出ると、ちょうど一匹の蛾が目の前をすーっと横切った。

 横切って、コンビニの明かりに吸われて。

 ガラス戸に落ち着いてゆっくり羽を動かすそれを、わたしはしばらく見ていたけれど。Tシャツにじわじわと汗が染みていくのに気づいて歩き始めた。

 汗をかくのは嫌いだ。夏が嫌いだ。


 なんとかっていう名前の大きな道路に沿って歩く。東京に来て、はるばる東京に来て、私は何をしているんだろう。

 右手にぶら下げたコンビニ袋ががさがさと揺れる。左手の道路を、ときどき大きなトラックが駆けていく。

(あきらめた人たちを、運んでいるのかもしれない)

 トラックの荷台に積まれて運ばれる私を想像して、少し悲しくなったけれど、真顔で歩き続ける。

(帰ったら、レポートを書かなくちゃなあ)

 真面目なことを考えようとして、実際に「れぽーと」と口に出してみたけれど、それがなんなのか分からなかった。

 背中と脇に汗の感触がある。Tシャツがそこだけ身体に張り付いていて、誰かに抱き締められているみたいで気持ち悪かった。

「れぽーと!」

 大きな声を出しながら、大きく腕を振ってみる。がさがさ、がさがさ。コンビニ袋も音を立てる。

「れぽーと! れぽーと! れぽーとれぽーとれぽーと!!」

 がさがさっ、がさがさっ。袋の中身が飛び出しそうになって、慌てて両手で抱えるようにした。

「あ……」

 袋の中身の冷たさが、痩せた胸に当たって。抱き締められながら残酷な言葉をぶつけられているようで。

 少し、笑った。


 どうして私はここにいるんだろう。どうして私はここに来たんだろう。どうして私はここにいたいんだろう。私はここからどこに行きたいんだろう。

 なにかが分からなくて、なにもかも分からなくなって、今夜も昼のように明るいコンビニの中をぐるぐると回って、ぐるぐると回って、ぐるぐると回って。いつもの飲み物を買って。店を出て。明日までもう少し。

 生きていけるかな。死にたくはないかな。生きていたいのかな。忘れてしまいたいのかな。

 分からないまま、それでも。なんとなくのままでやり過ごしていける。

 ずるいなぁ、私は。 

 

 抱きしめたコンビニ袋が、がさがさと鳴る。

 レシートには炭酸飲料としか書かれていなかったけれど。

 きっと私は今夜も買ってしまったんだろう。胸いっぱいの絶望をやわらげる、麻酔のようななにかを。明日の朝、目を覚ますためのなにかを。

 袋を抱えたまま立ち止まって、大きい道路をトラックが三台走り抜けて、どうやら夜はまだ明けないらしい。

 がさがさと音を鳴らしながら、また私は歩き始める。

 迎えてくれる人のいない部屋に向かって、炭酸飲料と絶望を抱きしめて。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。