side: 姉
私の母が恋する女の顔をするようになった。
とある人が原稿を取りに来たり、打ち合わせをする際に来る人で、その人の名前は山城さん。
渋い声がとても魅力的なナイスミドルである。
担当編集として仕事はしっかりするし、行動は豆でとてもいい人だと思う。
その山城さん現在独身。この前一緒に飲みに行ったりもしたらしいし、少女マンガの取材ロケでもそれなりに良い雰囲気だったらしい。
湊と凪もそれにうすうす感づいてか、さっさとくっ付けと前向きな後押し。
そのことあってか、母は山城さんにそのことを打ち明け、本人は承諾。
子供、雪菜さんと話をして決めるそうだ。
山城さんにも子供が居たんだ、と驚く一方きっと真面目な美人さんなのだろうと思ったのである。
…その数日後、雪菜さんも再婚には前向きで、お互いの家族同士顔合わせをすることに。
あの、ちょっとお母さん。雪菜さんが雪菜君だとは聞いてないんだけど。
え、いつも君呼びをしていた?
確かにそうだけど!?
その後、一緒に暮らすことになり、食事の時に少し会話をする程度でそこまで仲は発展しなかった。
「それにしてもいい声だな…雪菜君」
雪菜君はウチの学校の一つ年下。
顔は厚めのメガネをかけており、前髪もだいぶ長めの根暗な印象のある感じだが、体系は私より高く、この前家の廊下でぶつかり倒れそうになった所を抱き止められた時はそれなりに体を鍛えていることが窺えられた。
そして何と言っても声がいいのだ。
自分で言うのは何だが、私は声フェチと言う部類の人間だ。
その関係かアニメやラジオ、ドラマCDなどを好んで視聴する。学校の人間では幼馴染の鏡花にしかばれていない趣味である。
爽やかなとても聞きやすい声をしていた。
あの声がもう少し年を取り、低くなったら最高の声なのだろうと会話をするたびにニヤけそうになる頬を制御すると言う意味でも会話がはずまなかったのかもしれない。
…今度、声録音させてくれないかな、と思いつつ好きな声優さんが出演するこの前発売したばかりのゲームのプレイを開始した。
○○
小林雪雄
それが私の好きな声優である。
3年ほど前から活動を始め、最初は乙女ゲームのサブキャラで、現在14作品に登場している謎多き声優である。
所属は無く、監督に急遽出演を頼まれたと自身がゲスト出演したラジオで言っていた。声優養成所などに言ったことはないものの、監督の奥さんに目を付けられトレーニングをしたと言う。
それにしてもいい声の人である。
笑い声や、きょっと気取ったような年上の男性を思わせる声で、ちょっと孕む気がした。
もういっそ誰か彼の声で添寝CDを作ってくれと声を大にして言いたい。
そんな彼の出演するドラマCDが出ると幼馴染の鏡花からLI○Eがあった。
これは買うしかない。
と、学校の人にばれないようちょっと大人びた人を意識した服装にオシャレな縁なしメガネを装備。
いざ、アニ○イトへ。
…3件ほど回った結果ようやく発見することができた。
ルンルン気分で購入し、持ち歩けるように普段は持ち歩いている小さなCDプレイヤーを忘れたことを後悔しつつ、帰路を急いだのだが運の悪いことに二人組の男に捕まってしまった。
「なぁ、ちょっと俺らとお茶しない?」
「あの、私忙しいので」
早く帰らせろ。この見知らぬ作品だが声優買いしたこれを聞かなければならないのだ。もちろん聞いた後は原作をそろえる。
脳内で台詞を再生して身悶えるのだ。
「そんなこと言わずに、ちょっとお茶するだけだからさ」
しつこい。
あいにくと私には力はなく、腕を掴まれたらそこでいろんな意味合いの終了のブザーが鳴り響くだろう。
「お兄さん方、その人俺の連れなんだけど」
その声に、自分の耳を疑った。
私どんだけ好きなんだよ雪雄さん。見ず知らずの人の声すら脳内変換するとか。
「ん、だよ邪魔すんじゃ---」
「なあ、お兄さん方、引いてくれるかい」
「は、はふっ!」
少しドスの入った声に完全に私の頭はハッピーモード。
…ダメ、もう死んでもいいかもしれない。
「と言うことで」
「え、あの!」
脳内トリップしていたら、彼が去ろうとする声に反射的に呼び止めてしまった。
「いや、別にいいよ。通りすがっただけだし」
「そ、それでも!」
笑顔で拒否される私。
…見た目にはそこそこ自身があったんだけどな。
年上の人には通じないか。
「また今度、機会があれば」
「え、あ、あの!あの!」
少ししょぼんとしているとスタスタと遠くへ歩いて行く彼。
それを必死に呼び止めようとするが、完全に無視されたのであった。
帰宅してからその感動を鏡花に伝えるのだが。
『それ、あんたに声かけたナンパと同じだぞ』
「…喪女歴=年齢で悪かったわね!」
『なんだそんな脈略のない返事は』
「そりゃ高校デビューで三つ編みビン底メガネの委員長から脱却して今時のjkになったけど、中身は所詮声豚よ!」
『あかん、地雷踏んだ』
「わたしだって、わたしだってぇ…」
『はぁ。話聞いてあげるから、ほら』
「鏡花ぁ」
この後滅茶苦茶愚痴を零した。
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