心の誓い
「イチイチ、そういうのはいいの! そりゃ、飛鳥君と二人で食事もいいけどね」
攻撃したつもりが、逆に墓穴を掘ってしまった命。
こと飛鳥に対して、命はデレデレの子猫のように甘えたくてしょうがない。
「やめてよ、翼~。命ちゃんはいつも、嫌がってるじゃんか」
飛鳥はとても、いい子だがそれゆえ、命の好意には、十年以上の歳月鈍感だった。
「すまん。でも、風間マネージャーには同情しますわ……」
飛鳥はスンナリ聞き流して、一人でメニューを開いた――。
「俺はガッツリ食べちゃうぜ! とりま、ビーフステーキとピッツアを頼む。
飛鳥や風間マネージャーは、決まったか?」
翼はメニューをろくにも見ず、慣れた手つきで決めていた。
女の子の命は、バランス重視の前菜とミートスパゲティを注文することにして、
飛鳥に食べるものは決まったかと、命は尋ねた。
「う~ん。僕は、ほうれん草のソテーにドリアでいいかな。よし、決まり!」
彼はみんなにそう告げて、店員を呼ぶインターホンを押した。
飛鳥たちと同年代ぐらいの綺麗な女の子のウェイターさんへ
最後に決めた飛鳥がまとめて注文した。
丁寧札かつ愛想よく、注文したものは唱和され、キッチンに届いた。
しばらく、料理がくるまで三人には沈黙の時間が訪れた。
……。……。……。
「それにしても、さっきの子可愛かったな! 俺タイプだわ」
あんのじょう沈黙をやぶったのは翼だった。
それにしても、命の前で飛鳥にこの手の質問は拷問に等しかった。
「ん? そうだったね……。翼は本当に女の子が好きだね」
よそよそしく彼は翼に答えて、横眼でチラっと命を見た。
しかし、命は飛鳥の言葉に無反応で無表情でいる。
「なんだか、最初の頃を思い出すね。剣道部の最初の頃は、
沈黙がやけに気まずかったり、落ち着かなかったけど。
でも、いまはその逆で心地いいわね?」
意外なことに命の口からは、思い出話が上がった。
確かに剣道部の初期の頃、飛鳥と命は中学での確執はまだあった。
それでも、翼と三人でこうしていまみたく同じときを過ごしてきて、
かけがえのない思い出と絆を手にしてきた。
「はは、懐かしいな。確かにノリできた最初のファミレス。俺でも応えたな。
でも、俺たちは同じ時間を過ごしてきて、友達になれたっけ!」
学校生活の思い出……。
剣道の試合に負けて、悔しいとき。稽古で苦しいときや辛いとき
いつも、三人は励まし合い、支え合ってきた。
その賜物が飛鳥の剣道全国大会でのV2だと言っても、過言ではない。
「僕も翼と仲良くなれてよかった。最初は正直……戸惑った」
おいおい! と言わんばかりな身振りで翼は飛鳥の次の言葉を待った。
「最初は互いにライバル視してて、とっても、剣道がやりにくかった。
僕はあまり人と争ったり競うことが苦手だった。
それに好敵手と言われる存在が中学にはいなかった。
だから、最初どう接していいか、わからなかった」
飛鳥の本心がはじめて、翼に向けられた。
「はは、うれしいね。『あの頃』、飛鳥は俺をそんな目で見てたか。
遠い噂でこの高校に中学の天才剣士がくるって、俺は密かに期待して
燃えていた。だが、正直。一目見て噂は信じられなかった」
命さえも知らない、飛鳥と翼の出会い。
「だけど、飛鳥が剣道やって、『二刀流』を使ったときには
背筋が凍ったぜ。噂以上の化け物だと!
それでも、俺はあきらめず、飛鳥に認めてもらえる存在になれた」
武士道……男と男の友情が芽生えるには、衝突は避けられない。
むしろ、真っ向からぶつかり合えたから、二人はわかり合えた。
「僕も翼の気迫には、驚かされた。はじめて「二刀流」が
重荷に感じた。あの一年生の頃の地区大会は、
僕でも萌えたよ。い、や燃えた!」
命は興味津々でこの二人の熱くなった、話を聞いていた。
その試合では、命はすでにマネージャーとして、剣道部に所属していた。
ただ、ただ、二人が無事で心の底から楽しめる試合を祈っていた。
「おうよ、あれは名勝負だった。飛鳥の竹刀を一本落として
小太刀だけにしたけど、惜しかった。
まぁ、いまじゃ天才剣士を倒すのは、この水城翼様だけだな?」
目を細め、二ヤ二ヤと翼は飛鳥を煽った。
「僕もあそこまで、追い詰められたのははじめてだった。
翼のおかげで、もう一段階成長できた。
うん。また、翼とは真剣バトルしたい。
オラ、天○一武道会でまっとる!」
飛鳥も目を細めながら、ふざけつつも翼の挑戦を心待ちにした。
内心、命は羨ましがっていた。
女では味わえない、真剣勝負による友情。
だからこそ、これらも悔いが残らぬように
命は剣道部のマネージャーとして、支えると、密かに心に思っていた。
「お待ちどうさまです! 料理は順々にお持ちしますので」
二人が話し込んでいたら、お待ちかねの料理が到着した。
「結構、上手そうなビフテキだな。それじゃ、お先にいただきます!!」
飛鳥と命は「どうぞ、お先に!」と同時に翼に食を勧めた。
綺麗な女の子のウェイターさんが三人の頼んだ料理を並べて
「ごゆっくり、していってください!」と頭を下げて、
テーブルに置かれた透明の筒に電表を入れた。
まず、はじめに命は自分が頼んだ少し大きめの前菜の皿を手に取り
とり皿に前菜を分けた。
「肉食男子もいいけど。少しはお野菜も食べてね」
こういう場面で命は世話焼きな、性格を発揮する。
「はい、飛鳥君もちゃんとお野菜を食べてね☆」
飛鳥には、気持ちトマトやパプリカといった具合に彩が意識されていた。
「なんだか、命ちゃん。僕の母さんみだいだね。それじゃ、いただきます!」
ゆらゆらさせていた、命のツインテールが一気に逆立っている。
飛鳥からの言葉に母性本能が全快だった。
彼の何気ない言葉は命にとって最大の嬉しさだった。
「こ、これは剣道部のマネージャーとして、当然です。
……でも、ありがとう」
終始みんな笑い、和気あいあいと食事を楽しみ、夕食を終えた。
「はぁ、食った食った。もう、満腹だ。
二人は食後のデザートでも頼むのかい?」
ポンポンに膨れ上がった、お腹を触り口につまようじを
咥えながら食事を続投するか、翼は聞いた。
飛鳥は手で「無理無理」とジェスチャーして限界だと告げた。
命も呆れた表情で翼に伝え、三人は自分が食べた料理の料金の支払い済ませ店を出た。
それにしても飛鳥たちは、思いのほかしゃべり込んでいて、
時間はすでに十時を回っていた。
余韻に浸りつつも車通りの道を逆走して
命を送るために翼もついてきて、帰路についた。
「悪いわね。でも、お言葉に甘えちゃうわね。
っても、まさかこのあと飛鳥君に真相を確かめる気、水城副部長?」
命は飛鳥の耳に聞こえないよう、翼に近づき耳元で囁いた。
それを見て、飛鳥はすこしキョトンとした、表情でいる。
「まぁ、男同士だし飛鳥もきっと付き合ってはくれるはず。
……まぁ、任しとき!」
翼は手短に済まし、飛鳥の肩に腕を絡ませた。
置き去りになった、命を飛鳥は気にしつつ翼と悪ふざけをしていた。
「どうしたんだよ、翼? 命ちゃんとナイショ話なんてしちゃってさ?」
飛鳥の当たり前の疑問に慌ててしまった、翼だが苦し紛れに
いつも命をかわかうように、冗談を言った。
「珍しいな、飛鳥。もしかて、やきもちを妬いてんのか?」
飛鳥は口先を尖らせていた。
「そりゃ、僕にもわからない。ただ僕を省いて、
二人がコソコソと話してることが、気になっただけです!」
命もビックリな、『ツンデレ飛鳥』が発動した――。
このとき、命は飛鳥を心底可愛く、愛しく感じていた。
「あ、飛鳥君。なにもやましいことはないわ。だからごめんね!」
命は飛鳥に謝り、どうにか、彼は機嫌を戻してくれた。
「んじゃ、気を取り直して帰るか!」
再び三人は歩き出し、命と飛鳥が住む家の前まで辿り着いた。
「それじゃ、命ちゃん。今日はありがとう。久しぶりに遊べて
リラックスできたよ。また、明日学校で会おうね、おやすみ」
命は笑顔で手ふり「おやすみ、二人とも。明日は遅刻しないでね」と言って
二人を見送り、命は家の中に入っていった。
二人は数歩歩き、翼はおもろに飛鳥に告げた。
「どうだ飛鳥。もう少し話さないか?」
もしかしたら、飛鳥に断られると思っていたが翼の思惑とは違った。
「いいね。たまには、少し悪さしちゃうか!」
飛鳥は翼の申し出を受け入れ、二人は足並み揃えて
街頭に照らされた道を歩き、近所の公園を目指した――。
着いた公園には、人がいなく殺風景だった。
二人もベンチに腰掛け、どっちが先に話題を振るのかを待っている。
――痺れを切らした飛鳥は口を開いた。
街頭に照らされた飛鳥の髪の毛は、赤く光っていた。
「……それで、翼は僕に話がなにかあるのかい?」
この日の夜は寒くもなく、熱くもなく。過ごすには適温だった。
ただ、翼はやけに熱そうで緊張していた。
「あ、飛鳥。その……だな。はは、なんだか柄にもなく緊張しちまうぜ」
飛鳥はただならぬ、翼の緊張感をその肌で感じていた。
それは、恋する乙女が飛鳥に思いを告げるときと重なっていた。
「ど、どうしたの? 翼。おかしいよ! ま、まさか」
飛鳥の頭のなかは、電光石火で不純な景気が駆け巡っている。
『あ、飛鳥……。俺、実はお前のことが……!』
いけない、妄想を自生でかき消して飛鳥は頭を揺すった。
「……」
飛鳥の目をじっと見て、翼は停止していた。
「……」
飛鳥はテンパってしまい、目を瞑った。
「な、なんで目を閉じる。まぁ、いいや。
そのまま聞いてくれ。単刀直入で聞く! 最近なにかあったか?」
飛鳥は翼からの思いがけない言葉に戸惑った。
もはや、さっきまでの不純な妄想は消え意識は現実に戻っていた。
「い、いきなり、どうしたの翼? なんだって、急に?」
飛鳥は動揺を隠せず、翼はアドバンテージを得た。
「……飛鳥。俺は真剣なんだ。だから、もう一度言う。
『あの騒動』以来飛鳥に異変を俺や風間マネージャーは感じてる。
俺たちになにか隠してるのか?」
翼の口調が少し荒ぽっくなった、飛鳥は下を向き無言になった。
見ていて、こっちが苦しく切なくなる、彼の姿。
それでも、翼は心を鬼にして、飛鳥をさらに追撃した。
「そんで……はじめに、謝っておく。
俺らは最近の飛鳥の様子がおかしいから、
風間マネージャーと一緒にこないだ、お前のあとをつけた」
翼が謝ったとき、飛鳥はピックと反応した。
だが、次の衝撃的な事実に驚いた。
やはり、こないだ感じた甘い香りは命だった。
飛鳥は、自分の軽率な行いに悔やんでいる。
「……二人が心配してくれるのは、嬉しい。
でも、驚いた。まさか、僕をつけていたなんて……」
「それは、すまなかった。でも、話は少し続く。
そのあと、飛鳥は国が運営してる博物館に入り、俺たちが
少し目を離したスキに突然姿を消した」
飛鳥は胸が張り裂けそうな思いだった。
いまにでも、自分の事情を説明して、自分の立場を翼や命にわかって欲しかった。
それでも、限界ギリギリのところで飛鳥は約束を貫いていた。




