気分爽快!
そう、心に決めてパイロットスーツを綺麗にたたみ、
自分の与えられたロッカーにしまい、濃厚で貴重な一日を過ごした
NETEROを後にした。
帰りは全自他的なエレベーターで地上に上がり
あまり駐車されていない、駐車場から出て帰っていくのがパターンだった。
夏の暑さも本格的になり、寝るのが一苦労な季節だが、
気持ちのいい朝日を迎え、勉学に励む者。
スポーツで努力の汗をかく学生たちがいた。
しかし、この少年はどうやら事情が違っていた……。
「おやおや、天才剣士はお昼寝かな?」
大切な日本の歴史を学ぶ授業でその子は優雅に居眠りをしている。
たまらず、それをみかねた、隣の席のツインテールで金色の髪をした女の子は
彼のスネを足で蹴った。
慌てたようすで、赤毛の天才剣士は覚めた。
「ぐはっ、す、すみません。完全に寝てました!」
この二人のやりとりに、教室は笑いで包まれた。
水城翼もその一人だった。
ただ、彼だけは飛鳥たちの見る目が違っていた。
「ふふ。まったく、これだから夫婦漫才は……」
椅子でフナ漕ぎしながら、頭の後ろに両手を当てたまま
そう、呟き翼は再び教室に笑いを起こした。
「水城、上手い。座布団一枚!」
命と飛鳥は赤面して、必死に訂正する彼の姿にも腹を立ててしまい
もう一度、命の『ツンデレ攻撃』が放たれた。
「剣持君が居眠りしてるせいだからね! もう知れない、ふん」
命は飛鳥に捨て台詞を言って、そっぽを向いてしまった。
彼は後悔していた。
こんなことなら、録画していた『世紀末大戦』を
徹夜して、一気に見るんじゃなかったと。
「ごめん。命ちゃん今日帰るとき、なにかおごるから許してよ」
手を合わせして、仏に祈りをささげるような合掌を飛鳥はしていた。
「いいの? なら、今日は部活もお休みだし
久し振りに水城副部長も一緒に遊びましょう」
命から、鋭い眼光が翼に向けられた。
翼は快く承諾して、飛鳥も喜んだ表情をしている。
しかし、この話題はたちまち先生に止められ
この続きは、放課後の遊ぶときまで、持ち越された。
それでも久しぶりに飛鳥は心の底から、楽しんでいて
放課後が待ち遠しかった。
六限目の物理の授業を終える、終礼のチャイムが飛鳥の耳に聞こえた。
「よし! 二人とも遊びに行こうか」
飛鳥に連れられ、命と翼たちは勢いよく学校を飛び出した。
目的や遊びことを決めていないが足取りは、彼らが住む
東京駅へと向かっていった。
命は二人の前で後ろを向きながら話し込んで。
マシンガンのように飛鳥を打ち抜いていた。
「さてさて、どうするか……?!」
これっといって、遊ぶ内容は決めていなかったので飛鳥は困惑している。
それを見かねた翼はある提案をした。
「たまには、高校生らしくエンジョイするか!
まずはカラオケやボーリングで、それからダベるか?」
いままで飛鳥は年層な遊びをしたことがなかったので
翼の提案に乗っかった。
命もノリノリで翼の提案に賛成して、こうして三人の宴がはじまった。
三人は駅近くの激安で有名なカラオケ店に入店した。
――そして、一室からは綺麗な歌声が響いていた。
「夢でみたよ、素敵な世界が~」
テンション、アゲポヨな命がトレードマークのツインテールを
ポーニーテールへジョブチェンして歌いこんでいた。
「へぇ~、命ちゃん上手だね。それにポニテも似合ってる!」
飛鳥もノリノリでタンバリンや手拍子で命を援護射撃していた。
翼は真剣な眼差しでデンモク機をイジっている。
命は終始、気持ちよさそうに歌い上げ、最後はポーズを決めて
「はい、次は飛鳥君の番だよ! さて、天才剣士の歌声とは?」
命の期待がマイクとともに彼に渡された。
「うん、頑張るよ! 命ちゃん」
そう言って、飛鳥ははじめてマイクを持ち
ぎこちないながら自分が入れた曲のイントロが流れるのを待った。
数秒後……ハイカラな曲調の音楽が流れた。
デデデン・ズシャ・ズシャといったリズムだった。
「ん? なんだ、この曲は……」
翼の疑問に命も同じだったが、命は薄々この曲がなんだか理解していた。
「まあ、今日は無礼講よ。飛鳥君に付き合いましょう。副部長?」
命の含みのある台詞に翼も察し、飛鳥に太鼓を叩くと決意を固めた。
「ナイト・ナイト・ナイト・ナイト!
ナイト・ナイト・ナイト・ナイト。
いまこそ、光り輝け! キングナイト!」
キ○グ・キ○グ・キングゲ○ナー! に似た熱い曲で『飛鳥劇場』は開幕した。
「はは、天才剣士も意外な一面がおありで。
まさか、ここまでこういう、サブカルチャーが好きだとは」
命は目を瞑り、腕を組んだ状態で翼に呟いた。
「これが、本物の飛鳥君よ……」
翼も飛鳥の趣味を軽くは知っていた。
ただ、目の当たりにしてビックリしていた。
「飛鳥、いいぞ! もっと熱くなれ。まだいける。自分に限界を感じるな」
この声援に乗せられ、飛鳥はさらに喉のリミッターを外して歌った。
「ヘイ・ヘイ! ファイナル・スラッシュ―!!」
ロボアニメソングでお馴染みの必殺武器がマイク超しに命たちに当てられた。
「飛鳥君ったら、楽しそうね。なんだか、少し安心したわ」
雑音にも似た、歌声だが命は優しい表情で彼を見舞っていた。
翼も安堵した表情でこの宴が終わったとき、
飛鳥にことの真相を確かめる計画を考えはじめていた。
「スパーキング……!」
マイクを持った手を天に掲げて、飛鳥は全力・全快パワーで
自分の大好きな歌を歌い上げ、彼の気持ちは昇天していた。
「ふぅ。カラオケって、楽しいけどこんなに疲れるもんだね!」
剣道の一稽古を終えたような、疲れを飛鳥は感じていた。
巷のカラオケなどでは、消費カロリーなど
曲が終わったリザルト画面で表示されるほど、
歌うにはそれなりの体力が必要だ。
「飛鳥君、ある意味凄かったよ。きっと、一部の人なら歓喜だわ」
申し訳なそうに汗ばんだマイクをおしぼりで拭き取り、
彼は翼に交代した。
「命ちゃんはお世辞が上手い。まぁ、いいや!
次は我が部の司令塔、水城副部長のお出まし」
今度は逆に飛鳥が翼にプレシャーを与え、翼をヨイショした。
「俺の歌声で君たちの度胆抜かしたる」
関西弁らしき言葉でおおみをきり、マイク片手に翼はその場で立ちあがった。
ジャーチャチャー・チャチャと古臭い曲が流れはじめた。
「なんだか、聞き覚えがない曲だね? 命ちゃん」
しかし、命は瞬時にこれは演歌だと認識していた。
命の父、風間丈は演歌が好きでよく子供の頃、家で
演歌を流していたから、すぐさま、命は感じ取った。
「飛鳥君。これは、演歌よ。私のお父さん、演歌が好きだからこの
曲調聞き覚えある。それにしても、同年代の人が歌うなんて」
飛鳥は命の口から、お父さんの名前を出され、一瞬ドキっとしたが
風間おじさんのギャップに対して、感心していた。
二人が驚くなか、翼は高らかに歌い上げていた。
「愛する男と女は、禁じられた愛を~」
人生を謳歌した人にしか、わからない深い歌詞は飛鳥たちを
困惑させているが、翼は十分に精神が成熟していた。
コブシを交えて、さらに一段階レベルアップ。
その姿もはや、ベテラン演歌歌手だった。
圧倒される、二人は目線を合し一緒に手拍子をして
翼が歌い終わり、真っ白に燃え尽きるときを待った――。
「あぁぁあ! さくら男道……」
翼の力を込めた、歌声は遥か彼方へと消えていった。
「いや、感動したな。ありがとう、翼」
いつの間にか飛鳥たちもその場で立ち、
翼に対して、オーケストラなどに向けられる拍手を送っていた。
――すると、画面が変わりいままでなかった
得点採点画面が出現した。
お決まりのジャララ……デデンという曲が流れ
翼が歌った歌の得点が画面に写し出された。
どうやら、この演出は翼による演出で真剣に考え込んで
デンモクと睨めっこしていたのは、このためだったらしい。
一同、画面に目を向けると、九五点……。
驚異的な点数が叩き出された。
せいぜいカラオケは、八十点後半がいいところだ。
プロの歌い手でも、この点数は難しいのが現状だ。
いかに素人である、翼のいまの歌が凄かったか
カラオケがはじめてな飛鳥でも、理解できた。
「翼。こんな、高得点TVでしか、見たことないよ」
飛鳥は、この点数を自分のことにように興奮して
喜びが胸いっぱいでいた。
「人は見かけによらないわね。
それにしても、この年でこの歌を歌い切るとは」
熱気により、熱くなった部屋を気にしながら
手で顔を扇ぎながら、純粋に命は翼を讃えていた。
「いや~。今日はみんな、ありがとう。僕は嬉しいな」
エレキギターを持った、若大将のような口ぶりで
照れながらも、自信に満ちた表情と笑顔で飛鳥の肩に
翼は肩に組んだ。
「さすがだよ、翼。聞いてる方も心が高ぶったよ。
それに、翼の意外な一面も知れたしね」
命はともかく、飛鳥と翼は互いの隠された一面を分かち合った。
しばらく、この三人は歌い続け様々な歌が響きあった。
飛鳥はブレず、ロボットアニメソングを貫いた。
命は女子力を余すことなく発揮した。
アイドルソングから、きゃ○リー・ぱみゅぱみゅのような最近の流行ものから
ボーカロイドといわれている、飛鳥の好きなジャンルまで網羅していた。
翼はオールラウンダーで懐かしい名曲から、女の子たちにも
受けがいい、歌を持ち前の歌唱力で歌い尽くし、無双していた。
各々得点機能を使い、互いに高め競い合いカラオケを楽しんだ。
しばらくして、満足げにカラオケを終えて、三人は意気揚揚と店を出た。
「このあとは、ボーリングそれともダーツなんて?
でも、お腹も空いたわね。うーん、どうしましょう」
歌に熱中して時間を忘れていたが、夕方はとっくに過ぎ
時計の針は、ゴールデンタイムの時刻を指していた。
「時間も時間だし、イタリアンなファミレスでも入ってお腹を
満たして少しダベるか。どうよ、飛鳥?」
少し遊びたい気持ちもあったが、年頃の男の子は空腹には勝てなかった。
視線を命と翼に向け、「うん、そうしょう。僕もちょうど、お腹が空いてところさ」
カラオケ店から、少し離れた車通りがある道に命を先頭に歩き出した。
その通りには、数多くの外食チェーン店が軒並み並んでいた。
王道の中華料理や少しお高いステーキハウスなど様々なお客に対応した
店舗があった。
そのラインナップのなかで、リーズナブルで本格なイタリアンレストランと書かれた、
目的地の看板を飛鳥たちは見つけられた。
「いらっしゃいませ! お客さま」の店員さんの声に迎えられた、御一行。
奇跡的に待つことなく、すんなりと三人は通された。
それでも、このお店の客席は八割ほど埋まって、家族や学生たちで賑わっている。
テーブル席で翼が奥の方に一人で腰かけ、飛鳥と命は隣で腰をかけた。
「あれ? もしかして、俺ってお邪魔かな、風間マネージャー」
頬を赤めつつ、ツンツンして、口先を立て命は翼に反撃した。