澄んだ瞳
いけない、いけない。
また、飛鳥は命に怒られてしまう。
「言葉を失ってしまったか。こないだは、軽く見て終わったもんね」
飛鳥は林に期待して周囲をくまなく観察している。
「ふふ。それでは、お楽しみの真打の登場だね。
おい、634! ハンガーの十一番を押してくれ」
『ムサシ』という名前の存在も気になったが、飛鳥はなにやら
ケージの後ろから格納庫へと動く物体が気になってしかたなかった。
「634。そこで機体を傾けて下ろしてくれ」
ガン○ムの登場シーンでお馴染みのシーツに覆われた物体が姿を現した。
「林のタイショウ。ココでいいンだな?」
合成音声で機械的な声が聞こえて、林は声に出しながら
腕で○のサインを出して、シーツはパージされた。
それと同時にライトアップされ、赤い瞳に映し出された。
「こ、これは?! 『紅蓮丸』……なの」
紅蓮丸とはさほどデザインが変わっていない。
しかしながら、赤き炎のような紅蓮のカラーリングが施されている。
和風の鎧を重んじた機体にもかかわらず、ご丁寧に頭部には、例の『ツノ』まで追加されていた。
しゃぁぁあと、やってくる赤い彗星――。
彼は人生で一番の歓喜と喜びの両方を手にしている。
こ、これが飛鳥の専用機体、紅蓮丸の『真の姿』か。
「は、林さん。凄すぎます! あなたは天才です!!」
口ではお礼を述べていたが、飛鳥は真っ先に紅蓮丸の傍まで子供ように走っていた。
「何度も見ても凄いや! しかも、ちゃんと刀まで装備されてる。
それも、二本あるや。これで『二刀流』もお手の物だ」
サムライの命というべき、刀が追加されている。
しかも飛鳥に合わせてちゃんと腰回りには二本下げていた。
「いや~、ここまで仕上げるにはオラ、死ぬかと思った。
けど、ワクワクと楽しさが勝って、限界突破しちゃった!」
悟○さん、口調で舌を出して林は自分の功績の結晶を飛鳥に解説した。
「基本的な部分はいままでと変わっていない。
ただ、機体の出力やパワーはケタ違いに上がったよ。
十三博士や634たちと総出で機体をいじめ抜いた。
そのかいあって、超新星機関と
『フルダイレクト型・エンゲージリンクシステム』も良好さ!」
もはや、神々しく神クラスのオーラを林は纏っていた。
それに本当にロボットアニメのような専門用語も飛び交っていた。
「超新星機関とは、その名のとおり宇宙を作り上げる超現象さ。
疑似惑星を生成しながら、星々を融解さえて、理論上無限のエネルギーを得るすごい機関さ」
この星にこのような文明を持ち合わせていたとは……。
その数値こそ、999999999999の∞だ。
飛鳥は震えていた、本当に紅蓮丸は生まれ変わった。
でも、それは反対に強大な力を持ってしまったことになる。
「んで、こっちのフルダイレクト型・エンゲージリンクシステムだけど
これは、いままでと同じで飛鳥君と紅蓮丸を脳波で連動して動くシステム。
感度はこれまで以上に上がり紅蓮丸と飛鳥君は一心同体になった」
飛鳥と紅蓮丸を繋ぐ、フルダイレクト型・エンゲージリンクシステム。
紅蓮丸の手足は飛鳥であり、ダメージもさらに直接喰らってしまう。
それでも彼は紅蓮丸を乗りこなして戦わなくてはいけない。
「あ、飛鳥君……大丈夫かい?
何だがさっきと違って大分、顔色が優れないけど……」
彼はぬか喜びをしていたに過ぎない。
はたから見たらおもちゃを渡された子供だった。
『銀河帝国メルディアス』。
彼らからこの地球を守る使命をすっかり忘れていた。
「僕は一瞬本当にこの光景が夢だと思えました。
少し冷静に考えて……再認識しました。これは兵器。僕はこれに乗り敵と戦い人類を守る」
飛鳥の言葉を聞いて林からも笑みが消え雰囲気が一変した。
「……飛鳥君は凄いや。その年で考えて自分で答えを出せる。
でも、これだけは忘れてはいけない」
林は優しい眼差しで人生の先輩として、飛鳥へ真剣に語りかけた。
「これだけは覚えていて欲しい。飛鳥君だけが辛かったり、苦しかったりしないんだ」
飛鳥の父やNETEROのみんなも命をかけている。
だから、彼は迷ったりしていけない。
自分で決めて、彼にしかできないことをやり抜く。
「なんだか林さん。お兄さんみたいです。
僕の心は整理され紅蓮丸とともに戦う覚悟。決意を思い出しました」
林は飛鳥の言葉に照れた表情で、頭に手を当てて誤魔化していた。
「これじゃ、キャラ設定がおかしいよね。ハハ……。
うん。それじゃ、今後はター○エーのお兄さんと呼んでね☆」
飛鳥はニッコリ微笑み、首を横に振った。
「そ、それは、大丈夫です。
僕にはキングオブハートの紋章に爆熱ゴッドフ○ンガーが宿っていますので!」
林は芸人さんみたくオーバーなリアクションで転んでいる。
「よし!
これにて、飛鳥少尉専用機体、紅蓮丸のお披露目は終了とさせてもらいます!」
飛鳥は手を叩き、称賛の拍手を林に送った。
「おいオイ、タイショウ。オラを忘レる名」
二人は紅蓮丸に夢中になるあまり634の存在を忘れていた。
「この坊ズが、紅蓮丸のパいろっとか?」
ジャンルでは宇宙戦艦ヤ○トのアナラ○ザー。機動戦士ガン○ムでいうハ○に分類されるだろう。
「こら、634。なんて、無礼な口のきき方をするんだ!
この子は……。この方は、『剣持飛鳥少尉』であられるぞ」
いつになく、顔モテな林の表情が見られた。
蘭大尉の前では決して見られない。
「い矢~それハ申し訳なカった出やんす。
あなた様が、かの有名な紅蓮の飛鳥様でしたか」
林の言葉に634は態度を変えて、両手をスリスリして飛鳥に媚びてきた。
「僕はそんな、偉い者じゃないよ、634君。
それに、『紅蓮の飛鳥』だなんて……照れちゃうよ」
ロボット相手に律儀に飛鳥は謙遜している。
ただ、この634は悪い奴ではなさそうだ。
それにしても、『紅蓮の飛鳥』……。
「まぁ、634は俺の相棒だから、これからも飛鳥少尉よろしくね!」
飛鳥は634にあいさつをして、互いを理解すると誓った。
そのあと、彼は林へ自分の異名の意味を聞いてみた。
「それで、いかにも厨二臭い、『紅蓮の飛鳥』って誰が決めたんですか?」
林さんは筋肉質の胸を張って、親指を立てて自分だと誇張してきた。
「はは、やっぱり!」
その後、林は詳しく補足してくれた。
ことは単純で紅蓮丸に乗る天才剣士・剣持飛鳥。
飛鳥の姿にもかけて、赤い髪に茶色い瞳。
蘭大尉はこの林の命名に珍しく褒めたぐらいだ。
しかしこれには意味があった。
どうやら、このNETEROにおける飛鳥は紅蓮の飛鳥。
これからは『コードネーム』で呼ばれるようだ。
後々、紅蓮丸は一般市民にも度々目撃されることになるだろう。
そのパイロットである彼の存在は『特定機密z1』に匹敵する。
十三博士や風間司令もちょうどいい名前だと思い承認したらしい。
「だから、頑張って飛鳥君。
それじゃ、みなさんが待つ セントラル・アースに行こうか」
飛鳥は肌けているパイロットスーツのファスナーを首元までしっかり上げて、
最後に振り返り紅蓮丸を見てセントラル・アースに歩いて行った。
彼らが着くと御一行は待ち受けていた。
蘭大尉は苦笑いで、十三博士と風間司令は少し笑っていた。
「きたね飛鳥君。では藤崎君、手短に要件をすませようかね」
風間司令が微笑みスケジュール手帳を片手にした蘭大尉が今後の彼の予定を伝えていく。
「最近、飛鳥君はオーバーワーク気味です。
明日から一週間お休みしてもらいます。
それが終わり次第、より実践的な訓練に入ってもらうことになりました」
彼の状態を把握しての計らい。
いつしか飛鳥は、NETEROで過ごす時間が一日の大半を占めていた。
学校での部活動や友達との時間が欲しいところだった。
「はい、ありがとうございます!
次はみんなに迷惑かけずに頑張ります」
十三博士は少し気難しいそうにしていて
蘭大尉はもっと、気まずそうな表情だった。
「いいのよ、飛鳥君。さっきは私のあきらかなミスです。
つい熱くなって、訓練の趣旨を忘れてました」
蘭大尉は大人の表情で彼に謝っている。
そもそも、彼が調子に乗って招いたトラブルだというのに。
あらためて、優秀であり頼りになる上官だと認識できた。
「そ、そんな謝らないでください。次こそは蘭大尉に勝ってみせますから!」
飛鳥は笑顔で蘭大尉に次なる挑戦を宣言した。
「息子ながら頼もしい。
とりあえず、久しぶりの休みを満喫しておいで飛鳥。
私は多分家には、帰れないと思うけど」
父と風間司令は優しい瞳で彼の背中を押してくれた。
こうしたやりとりを終えて、着替えに
ロッカールームに向かうとした矢先――。
「あ、いけない。忘れてた! 飛鳥君、この『腕輪』をプレゼントします」
正装した蘭大尉のジャケットの内ポケットから、シルバーアクセサリーのような
腕輪が蘭大尉の掌に乗っていた。
「えーと、これは……?!」
彼は考察した。
これはいったい、なんだろう……。
「大喜利じゃないからね。
これは、私たちNETEROと飛鳥君を繋ぐ通信機です。今後はこれで飛鳥君に連絡します」
早速、蘭大尉から腕輪をもらい受け、利き手ではない左腕に付けてみた。
それが、とても心地のいい感触だった。
一見オシャレだし、誰が見ても通信機だとは思わないだろう。
「はい、わかりました。今後はこれを使っていきますね」
ただ、内心では隠された機能がないかと思っていた。
それこそ、名探偵コ○ン君のような麻酔銃的な仕掛けがないかと。
「ゴホ、くれぐれも麻酔銃などないので壊さないように、飛鳥!」
父には見破られ気持ち声が怖く感じた。
幼い頃、叱られたときのような恐怖が呼び覚まされた。
「わかってるよ、父さん。それじゃ、また来週に!」
彼はロッカールームで学ランに着替えつつ、今日の出来事を思いかえっていた。
蘭大尉との格闘訓練。林と634による紅蓮丸のお披露目。
デザインも少し変わり、紅蓮丸の隠されたパワーや出力がケタ違いだと
素人の彼でも認識できるほど、凄まじかった。
今後は色々な機能を使いこなすのと、
紅蓮丸を操縦するため相応しいパイロットにならなくちゃって、再確認できた瞬間だった。
これからは気持ちを切り替えて、久しぶりに思う存分、剣道をしてリフレッシュする予定の飛鳥だった。




