時計の針は静かに動き出す
「へへ。まるで飛鳥みたいだな。風間マネージャー。だた、俺もここは匂う」
命は否定しつつ、嬉しげに照れた表情だった。
「漫画やアニメであるような、隠し扉やピアノの音階で開く扉が……」
何気なく命が口にしていることは当たっている。
子供の姿をした探偵も顔負けの推理力だ。
NETEROのIDカードがなければ、決してこの秘密の扉は開かない。
飛鳥の跡を秘密裏に尾行していた二人。
真実の手前で地団駄を踏んでいる。
二人のフラストレーションは限界を迎えそうだった。
「くそ……。
きっと、なにか仕掛けがあるんだが」
諦めず懸命に翼たちが探索していると――。
「……おやおや。君たちここは公共の場だよ。
いくら人がいなくても、もう少し静かにしておくれよ」
「ご、ごめんなさい。
さっきまでいた、友達を探していまして」
反射的に命は乙女の顔つきになった。
「友達とハグれてしまったか。う~ん、その子の特徴はなにかあるかい?」
この話の流れに乗って翼が口を開いたとき
「赤髪で……」
翼が飛鳥の特徴を言いかけたところ、金色の『カットイン』が入った――。
「赤髪で茶色の瞳が特徴的です。隣にいる彼と同じ学ランを着ている男の子です」
いつもより二割増しのぶりっ子な命が得意げに飛鳥のことを話していた。
上目使いでトレードマークのツインテールをゆさゆさ揺らしている。
「……。そんな子を見たら、ワシは覚えていると思うから。
きっと、見間違えじゃよ……」
老人から残念なことを告げられ、命は翼を見た。
「わ、わかりました。
お忙しい中、ご迷惑かけてすみませんでした。
ここで失礼させてもらいます……」
翼は軽く会釈して命を連れて、この場を離れた。
「もう! どういうことなの?」
あろうことか、命の怒りの矛先は理不尽にも水城翼に向けられていた。
「お、落ち着いて! 風間マネージャー。
明日、学校の放課後に飛鳥を問い詰めよう。
いや、俺がサシであいつから聞き出す。(ドヤっ!)」
翼の決意表明を耳にし、命の体から溢れていた不満や怒りといったエナジーは収まった。
このとき翼は、手を天にかざして宣言した。
「うん。こういう話は男同士がいいわね☆
それじゃ、頼んだよ! 副部長殿」
ニコり、と笑いつつも終始無言のプレッシャーで翼を威圧していた命だった……。
この頃、紅蓮の少年はと――。
「クシュ! ハクション。誰か僕の噂でもしてるのかな?」
二人の波動が届いて!? 鼻を手で擦っていた。
この程度のくしゃみだとあの『大魔王』が呼べない。
「そりゃ、君に恋心を抱く幼気な女の子たちが噂してるのよ?」
前を歩いているはずの蘭大尉が、いやらしい顔つきで後ろへ振り返り飛鳥をイジっていた。
「僕はそんな、色男じゃないですよ。ただの親の七光りです!」
謙遜する飛鳥を見て、物理攻撃へ。
「もうこの年頃の男の子は可愛いだから♪」
またしても、飛鳥は蘭大尉の胸に顔が埋め尽くされてしまった。
一度ならず、二度同じ手に引っかかってしまうとは。
あぁぁ、聖闘士《セイ〇ト》ならば……。
――しばらく二人がじゃれ付いていると、セントラル・アースへ続く自動ドアの前に見慣れた人影が現れた。
「遅いと思って来てみたら、藤崎君……!」
飛鳥の父が呆れた表情で眼鏡を光らせていた。
「は! 大変遅くなりました。剣持飛鳥特別少尉をお連れしました」
十三博士はしぶしぶ了解して、ドアの向こう側へ入っていった。
「みなさん、こんにちは。今日もよろしくお願いします!」
飛鳥は剣道の道場に入るときのように、元気よく父さんの後を追った。
彼の声を聞き、上の階層から風間司令が降りてきた。
「いつも、学校終わりにすまないね、飛鳥君。
本当なら剣道や友達と遊びたいさかりだろうに」
毎度、申し訳なさそうにNETOROの最高司令官・風間司令が登場するのが通例となっていた。
「自分で決めたことですので。命ちゃんの……おじ……。いや、風間司令!」
彼はすかさず、敬礼を入れて誤魔化した。
頭でわかっていても、どうにも命ちゃんのおじさんと口がすべってしまう。
幼き日の記憶が脳に刷り込まれているためだろう。
「それはさておき。今日も『紅蓮丸』の訓練をしてもらうよ!
いまは、敵側の動きが掴めていない。
だからこそ、次の襲撃に備えて飛鳥君……。いや、剣持少尉には慣れて欲しい」
ここ日本だけではなく世界中でも敵の姿形を捕捉できなくなっていた。
文字とおり雲隠れだった。
「本日は格闘戦を生身の体で行いつつ、紅蓮丸に乗った状態で訓練してもらう。
蘭大尉は飛鳥に格闘術の指導と模擬戦の組手を。
林技術長には、私が渡した接近戦のプログラムの修正を」
日々の鍛錬が有事の際に役立つ。
紅蓮丸の特訓と剣道は似ている。
飛鳥は最近そう思っていた。
足早に飛鳥と蘭大尉はNETEROの道場に向かった。
彼はすばやくNETEROで用意されたパイロットスーツに着替えた。
エ○ァやコードギ○スでお馴染みのボディラインがくっくり見える専用スーツ。
普段からこれを着て訓練することによって、実戦さながらの空気感を醸し出していた。
ただ、男の飛鳥でも少しだけ恥ずかしい……デザインではあった。
「さぁ、準備はいいわね。飛鳥君?
かかってきなさい! 女でも私は強いわよ」
蘭大尉の強さは男顔負けだった。
ましては、銃を片手に機械仕掛けの騎士ロボに攻撃するぐらい勇猛。
「素手での武術は今回がはじめてです。
お手やらかにお願いします!」
飛鳥は剣術なら自信はあったけど……。素手による格闘戦。
まさに、ぶん殴り合い……。
今回、あらゆる場面を想定したシチュエーションらしい。
それこそ、武器がなくなっても戦えるようにと。
この先がとても不安になるが。
現に初陣で『紅蓮丸』は近接格闘戦になった。
最後は自分の体が一番信頼できる。
――だから、彼は全力で蘭大尉の胸を借りるつもりで攻め込んだ。
ぎこちないが、ボクサーのように構えて左足で前に出て
飛鳥は全身体重を乗せて、右足と同時に右こぶしを繰り出した。
「あららん。容赦、ないわね! でも、はじめてだもんね……。
それも、若さがなせる技ね?」
蘭大尉は彼のファーストアタックを華麗に避け流れるように足をかけ転ばした。
飛鳥は片足で踏ん張るも、頑張り虚しく彼の体は畳へ沈んでいた。
受け身は成功し、すぐさま立ち上がり振り返った。
――その矢先。
空中で蘭大尉が飛び膝蹴りを仕掛けていた。
ゆうに飛鳥の背丈を超えた強烈なライダーキックだ。
かろうじて剣道で培った反射神経で腕を交差させて、飛鳥は受けに成功した。
守りの時間が続く。
それはそうと、あれ? これって、格闘漫画だっけ……。
そんな心の声はいざ知れず。
防御した彼の両腕はジンジンに腫れ上がっていた。
「さすが、天才剣士。いまのは、私の『フルパワー』だったのに」
二人は顔を見合わせて、不敵に笑い合った。
蘭大尉は道着の帯を締め直して、気合いを入れ直した。
次の攻防でこの訓練は終わる……。
「やっぱり、武術は体で直接覚えないとね。
多分、次でこの訓練は終わるわ。だから、気を引き締めて飛鳥君!」
蘭大尉は両手に力を入れて、鬼のようなラッシュをかけた。
パンチにキック。掌底などあらゆる打撃技が飛び交い、飛鳥の急所を的確に捉えていた。
まさに、範馬勇○郎のラッシュだった。
飛鳥は持ち前の反射神経を駆使して、全弾受け流しつつ反撃もしていた。
この攻防は約一分続いた。
飛鳥は実直に防御に徹したことが功を結び、蘭大尉の攻め疲れが出始めていた。
そんな彼は、蘭大尉が一瞬のスキを見せたタイミングを逃さなかった。
渾身の右スレートを無我夢中で蘭大尉の顔面に放っていた。
「ごめんなさい! でも、やるからには本気なんです」
飛鳥の拳が蘭大尉の顔に接触した瞬間――。
飛鳥の視界が暗転し、世界が真逆になっていた。
蘭大尉は彼の拳が当たるやいな当身による消力と言わんばかりの武術を使っていた。
拳が顔へ触れた瞬間に首をねじらせ、衝撃を殺しつつもその勢いのまま飛鳥の右腕を掴み、
運動エネルギーをふんだんに生かして、背負い投げの体制に入り彼から一本を取った。
「えへへ! 大人気ないけど私の一本ね。って飛鳥君、大丈夫?」
「えぇ……はい……」と返事をして、飛鳥は畳に大の字で倒れ込んだ。
その後は、道場へ駆けつけた林におんぶされて病室へと直行した。
飛鳥はここ最近見慣れた、風景を眠気眼で見ていた。
「知ってる、天井だ……」
手の甲をおでこに当てて彼はそう呟いた。
「起きたみたいだね、飛鳥君」
林は飛鳥が目覚めるのを心待ちにしていた。
「林さん、僕を運んでくれてありがとう。ッ痛てて……!」
彼が立ち上がろうとするも、体は悲鳴を上げていた。
「無理しないで飛鳥君。今日の訓練は模擬格闘戦で終了だから」
この知らせを聞き彼は安堵して横たわった。
「ふぅ、それは安心しました。それで蘭大尉はどちらに?」
藤崎大尉はこの場にいなかった。
「あの人は、今後の飛鳥君の訓練スケジュールの打ち合わせ中」
セントラル・ジュピター。
主に会議などに使用される部屋。
藤崎大尉は剣持博士と風間司令と話し込んでいるようだ。
「なんだか、アースだったり、ジュピターって名前を聞くとセーラー服の戦士を連想させますね!」
林は興奮した表情で一指し指を立てて「ドーン」と飛鳥を打ち抜いた。
「それならば、飛鳥少尉殿がもっと興奮する場所へ案内しましょうか?」
飛鳥は一瞬オドケテみたが体が付いていかなかった。
星のように目をキラキラ輝かせる形で「うん」と林に答えてみせた。
「ではでは、セントラル・マーズに行こうか!」
太陽系の惑星にあやかった、名前の施設があるらしい。
それは、またそのときの話でいいとして。
火星は戦争や争いごとを司る『惑星』だったはず。
彼の記憶だと、そのセントラル・マーズとは格納庫施設。
ようやく、名前の由来を知ることになる。
「ここは、俺のホームグランド! ようこそ、我が格納庫へ」
飛鳥は一目でこの場所を好きになっていた。
鋼に身を包まれた物質に溢れている。
年季の入った戦闘機や最新性の戦車たち。
まさに、一目ぼれだった。




