―終幕―
「ただいま、飛鳥……」
「か、母さん……!」
渚の声を耳にした瞬間――飛鳥は『母の温もり』を思い出した。
たとえ、実態がなくとも飛鳥は幼き日に抱きしめられた愛情を全身に感じている。
それは亜麻色に艶やかな髪の毛をなびかせ、
飛鳥と同じ色の瞳を持つ紛れもない《剣持渚》が存在していた。
「よかった。本当によかった……」
「奇跡――紅蓮丸が私を守ってくれた……」
先ほど飛鳥が手にしたのは、紅蓮丸の心臓部と言うべき、
エンゲージ・リンクシステムたる生体コアだった。
渚はあの爆発の瞬間、紅蓮丸が爆炎に包まれる最中、咄嗟に自身の意思の集合体であるERを紅蓮丸の手で機体内から取り出し両手に包んだ。
そして、爆破と同時に飛鳥の願いも通じて、彼が発現させた鳳凰紅蓮丸の覚醒――『紅蓮創聖剣』を
発動させたようなエネルギーにERのコアは守られた。
――その結果、奇跡的に渚も地球へ『帰還』できたのである。
「紅蓮丸が母さん……地球を守ってくれたんだね」
「ええ、そうね。飛鳥……。幾度も危機を救われ、
その度に無茶をさせてしまったけど……。私たちは“二つの世界”の未来を切り開いたわ」
――かくして、生命に満ちた蒼き星は紅蓮の少年の活躍と、
その愛機によって平和を取り戻したのである。
「ここからは僕たちの出番だよ、母さん! 僕の手でこの雄大で美しい地球を守っていくんだ。
ただ、その前に父さんや命ちゃんたちを迎える準備をしなくちゃ」
「ふふ、そうね。それじゃ、久しぶりに我が家へと帰りましょう☆」
剣持飛鳥は未来へとまた一歩を踏み出したのだった。
――あれから、月日が流れてようやく『機動戦艦ノア』が地球に帰還した。
剣持親子は再び、海岸にてその時を待っていた。
すると、快晴の空で光を放って、雲を裂く巨大な機影の姿があった。
「あ、あれは!?」
「間違いないわ……!」
剣持親子は大声を出し手を振りノアに合図を出していた。
ノアも紅蓮の親子がいることに気づき徐々に速度を落し海面へ着陸したのだった。
しかし、ノアほどの質量を持つ巨体が海面に降り立ったことで一面に波が発生してしまった。
飛鳥たちは波が静まった頃合いを見て一目散にノアへ駆け寄った。
「飛鳥君っ!!」
「命ちゃん!」
機動戦艦ノアが海面に着水し、ハッチを開いたと同時に命が飛鳥に駆け寄った。
飛鳥は命の名を呼びながら、無意識に彼女と抱き合っていた――。
「ハァハァ、よかった。命ちゃんやみんなも無事だった」
「紅蓮丸……。飛鳥君が銀河帝国メルディアスと地球を救ったんだよ!」
二人は抱き合いながら短い言葉を交わした。喜びや安堵。
そういった感情が勝り言葉よりも、体を通して互いの温もりを感じ取っていた。
「おやおや。こりゃ、風間命ルートでハッピーエンドってとこかな!?」
「うふふ。お姉さんはお邪魔でしたかな?」
命から遅れること、翼と蘭大尉も二人に駆け寄った。
彼らの後ろには聖騎士マリアの姿もあった。
「翼に蘭大尉も!」
「ま、マリアさんまで!?」
三人を目の当たりにして、さっきまでいい雰囲気で抱き合っていた飛鳥と命は離れてしまった。
ドラゴ〇ボー〇で例えると、ポ〇ラで合体した『超戦士』が突如、
合体解除をしてしまったぐらいに残念であった。
「よかったですな、命殿……! それに紅蓮の飛鳥もな」
地球へ帰還中ノアの艦内にて、飛鳥の身を心配にしていた命をそばで見守っていたマリア。
実のところ、マリア自身も飛鳥のことは気がかりであった。
そのため、彼女なりに不格好でありながら、飛鳥へ労いの言葉をかけていた。
ただし、このときばっかし、マリアも素直に喜びを表現できない自分を恥じていた。
改めて命は彼女にとっても、輝かしい存在だった。
命の笑顔を見て、マリアも笑顔でいられた。
「マリアさんもご無事で!」
「あぁ。お前の光りによってメルディアスはどうにか救われた」
飛鳥は神代大文字が出していた無刀の境地を理解し、
《紅蓮創星剣》を放ち滅びの光を断ち切りエリス姫並びに、宇宙機械獣の脅威を跳ね除けた。
「僕はあのとき、無我夢中でした。それでも、守りたい『もの』がありました。
紅蓮丸――母さんと一緒にみんなの未来を切り開くことができました」
「それでこそ、自慢の息子だよ。飛鳥!」
機動戦艦ノアの安全確認を終えた風間艦長と剣持副長はようやく『英雄』の前に現れた。
「おかえり。父さん……!」
「渚は!?」
飛鳥は覚悟を決めた表情で、コアを手にし母を呼んだ――。
「そ、それは……!」
「あなた、おかえりなさい」
飛鳥が手にしているコアから映し出された妻を瞳に宿した瞬間、彼は全てを理解した。
「……ただいま。どうやら、君にはまた無理をさせてしまったようだね……」
「ごめんなさい、あなた。紅蓮丸を失ってしまったわ……」
――改めて、飛鳥と渚は地球に帰還した際、起こったことを父に説明した。
剣持副長も二人に続く形で、飛鳥たちが『超次元の扉』から抜けた後についても語られた。
「そう……だったのか。でも、二人が無事で本当にほんとうによかった……。
こっちは、二人が地球に帰還している間、エリス姫とエミリア姫が協力し合って、
どうにか銀河帝国メルディアスも一つにまとまった。
マリア君の弟である、聖槍のシンや黄金騎士長バーンらもあの戦いの後、
復興へ尽力してくれたんだ。私も落ち着き次第、
地球とメルディアスを繋ぎ止めるため、忙しくなるさ!」
「エミリアちゃん、よかったわね……。そうね。これからも忙しくなるわね!」
「エリス姫にエミリアさん……。それに黄金騎士たち……。
僕はこれからも、彼らと一緒に地球とメルディアスとで、手を取り合って助け合っていきたい。
……ただ、気がかりなのが『彼ら』だ。機械であり生き物のような未知の生命体。
彼らの存在により、銀河帝国メルディアスは地球帰還作戦へと踏み切った――。
ここからは、僕の憶測だけど、この先も紅蓮丸……が必要になる気がするんだ……」
これは、飛鳥の直感であった。
エリス姫やエミリアが言っていた宇宙機械皇帝……。
「私も紅蓮丸は必要だと思う……。だから、もう一度、作ろう……。
いや、私たち家族で作り上げよう!」
飛鳥と渚は頷いた。
紅蓮丸は不死鳥の如く蘇り、再び宇宙を飛翔するだろう。
「ただ、その前に【超次元の扉】を分析し、銀河帝国メルディアスとの道標を設立せねばならん。
しばらくはマリア君、黄金騎士たちに銀河帝国メルディアス周辺と地球との中間区域の警護を担ってもらう」
「我らもやるべきことをやるさ。剣持飛鳥。ゆえに、いまの自分にできることをやっていけばいい。
そうだろう、紅蓮の飛鳥?」
思い返せば飛鳥の人生は『激動』だった。
ついこないだまでは、普通の高校二年生。
それが大いなる【運命】によって、紅蓮丸――亡くなった母と再会した。
それからは燃えさかる炎のように飛鳥は紅蓮丸と共に成長し突き進んで来た。
人類は争うことで進化してきたが、その都度互いを理解しようと歩むことを止めなかった。
そうした中、地球は一時の安らぎを得ていた。
飛鳥が諦めることなく、掴んだ結果だった。
「そうでしたね、マリアさん。僕も地球での暮らしに目を向けないと。
僕は――僕らは少しの間だけ元の生活に戻ります」
「あぁ。今は休息して命殿や仲間が待つ世界に戻って、貴様が守った世界を見つめるといい。
そういえばコウコウ? は大丈夫なのか?」
『わ、忘れていた!?』
機動戦艦ノアが宇宙の大海原へ旅った日から地球時間にして、半年ほどの時が流れ過ぎ去っていた。
そのため、飛鳥たちが通っている高校では、進級シーズンを迎えていた。
「マリア君は流石だね。そこまで気が回るとね。
一応、NETEROとして、学校にはある程度掛け合ってみるが、どこまでやれるか(汗)」
「ふふ。一難去ってまた一難ね☆」
風間艦長が学校に掛け合ってくれるが、どこまでNETEROの権力が及ぶのか。
慌てふためく息子たちを見て、渚はなぜだか微笑んでいた。
「あの子たちなら、大丈夫さ!」
「ええ、なんだって飛鳥は自慢の息子ですもの❤ 飛鳥は無限の可能性があり未来がある。
私はそんなあの子の成長していく姿をもう一度見れて幸せ者だわ……」
飛鳥たちは悠久の時間を取り戻すのだった。
そして、地球と銀河帝国メルディアスとの戦いが終わり、宇宙――銀河にも平和が戻ったように思えたが、
邪悪で冷酷なそれでいて不気味な『波動』が飛鳥たちに迫ろうとしていた。
その存在は、ある星で機械帝国を築き上げていた。
漆黒に覆われた者と銀髪の少年が会話をしていた。
「……お母様。偵察していた宇宙機械伯爵によれば、銀河帝国メルディアスは地球に敗れたようです。
また、彼の双子の兄であったザードも戦死したとのことです」
「あの小娘め、シクじりおったか。余と自国民を引き換えに宇宙機械獣を与えてあったというのに。
まぁ、メルディアスの民は所詮代替え品に過ぎん」
銀髪の少年は、宇宙機械伯爵からの報告を簡潔に”母”と思われる存在に共有した。
漆黒の者は銀河帝国メルディアス――エリスが敗北したことに苛立ちを隠せずいる。
ザードの死など目もくれない。
対照的に銀髪の少年はどこか寂しげな瞳だったが、感情が読みにくい表情をしていた。
すると、銀髪の少年は目線を上にやり、「ですが、お母様。気になる報告がございます……!」
そう一拍おいて、銀髪の少年が母親に告げた。
「銀河帝国メルディアスの帝都防衛兵器である『破壊の閃光』を直撃したにもかかわらず、
耐え抜き機体から剣のような物を発現させて、帝都防衛兵器を破壊した機体があったとのことです」
「……! まことなのか? シオンよ」
銀髪の少年こと――『シオン』は静かに頷きつつも話を続けた。
「その機体は地球で作られ、銀河帝国メルディアスの技術が転用されているらしいです。
紅蓮の炎に包まれた色で赤いツノが特徴的です。
そのパイロットは剣持飛鳥……通称『紅蓮の飛鳥』とのことです。
その名の通り、赤毛で剣の腕前も一級品のようです」
「紅蓮……えぇい、赤とは不吉な。それにしても、ただの機甲兵器にしては……。
剣を発現させた機体……」
「お母様、ついに我らの悲願たる原初の超新星機関を見つけました」
シオンがジ・オリジンを口にした瞬間――一気に空間が歪んだ。
「ふふははっ。確かに一万二千年前、小賢しい赤毛の姉妹によって、
銀河地平融合は中途半端になり、余とシオンのみが永遠の命を授かった。
ただし、肉体は不滅ではなかった。
それからジ・オリジンとエンペリオンを探し求めていたが、思わぬ福音を……」
紅蓮丸に搭載されていた超新星機関に秘密があるかもしれない。
「よいよいぞ、シオン。ただし、確固たる確証が欲しい。
そうだシオンよ。その赤ツノのパイロットと接触し、ジ・オリジンを受け継ぐ者であれば、
余――宇宙機械皇帝の前に連れて参れッ!」
不敵な笑みを浮かべて、宇宙機械皇帝はシオンへ勅命を下した。
「はい、お母様。仰せのままに……」
そう言うとシオンは玉間を後にした。
「ぶはは……。エンペリオンだけではなくついにジ・オリジンも我が手中へ……。
これで降魔の儀に備えて、究極生命体へと近づける……。
エンペリオンに関しては、以前伯爵から報告があったように捕らえようか。
真紅の緋音。どいつもこいつもあの忌々しい【姉妹】と同じ赤色。
赤色は余にとって、不吉なのだ」
新たに動き出す運命の歯車。
地球――飛鳥たちはどうなっていくのか。
――ふと、シオンは立ち止まり思い耽るように呟いた。
「紅蓮の飛鳥――剣持飛鳥。ふふ、楽しみだよ飛鳥。
君はこの銀河に破壊……もしくは再生をもたらすのかな。会える日が待ち遠しいよ」
地球と銀河帝国メルディアスとの戦いに幕は閉じられた。
しかし、メルディアスのエリスを裏で操り暗躍していた宇宙機械皇帝。
彼女の目的とは?
銀髪の少年が飛鳥と出会い地球の因果が銀河の地平へと誘われるかも知れない。
飛鳥や渚に鳳凰紅蓮丸の”真の秘密”が明らかになっていくだろう。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
飛鳥の物語に区切りはつきましたが、今後も続いて行く予定です。
そのため、最終章表記から三章へと変更します。
今後の流れは活動報告に記載していきます。




