ただいま。
紅蓮丸は『太陽刀』で脚部を切断していたのだった。
「ごめんね、紅蓮丸……。でも、これが最善の方法なのよ」
「母さん、なにを!?」
この方法は残された策の中で間違いなく『最善』だった。
役目を終えたかのように太陽刀は砕け散った。
まさしく、諸刃の剣。
「ごめんなさい、飛鳥。勝利の象徴である『紅蓮丸』を傷つけて。
けれどこうしないと、紅蓮丸は羽ばたけない。せ~の!」
さらに渚は月詠刀で紅蓮丸の左脚部も切断し刀を投擲した――。
月詠刀は脚部に突き刺さり数秒後……爆発し爆風が紅蓮丸に押し寄せた。
「!?」
飛鳥はこの爆風を見て、先ほどの母の行動を理解した。
満身創痍の紅蓮丸は推進力を得るために機体の一部を『犠牲』にし漆黒の銀河を突き進んだ。
「どうやら、成功のようね……。
きっと、このままいけば残り時間内に爆弾の熱風は地球圏に届かないはず」
「よかった、母さん。だったら、母さんも脱出を!」
――飛鳥が搭乗している鳳凰丸は大気圏を突入し地球へ降下し始めて、
切迫している状況であっても、彼は母・渚のことが心配でならなかった。
「その様子だと大圏突入したようね、飛鳥。まぁ、鳳凰丸なら大丈夫ね!
とりあえず、お母さん一安心だわ☆」
「うん、母さんのおかげで僕は地球に還れるよ。
だから、母さんもまだ間に合うよ……」
二人はこの戦いのラストミッションであった爆弾の脅威から地球を救うことができた。
ただし、飛鳥と渚の思惑は違った。
全てを出し切った渚――紅蓮丸は限界だった。
「お母さん、安心して一気に……。飛鳥……愛しているわ……」
「か、母さん……。どうしたの急に?」
もう、紅蓮丸は動けなかった。
それでも、エンゲージ・リンクシステムが起動していることが奇跡だった。
機体仕様、超新星機関の可能性を超えた
剣持親子の絆が不可能を“可能”にしているかもしれない。
「思い出すと――この数ヶ月……。とても、楽しかったわ。
私が知っていたアナタはまだよちよちで可愛らしかった。
だけどこうして、立派に成長した飛鳥の姿を見られて、本当に幸せだった。
平和になったあとの地球は、飛鳥たちの世代が主役になるのよ!
きっとお父さんたちも、まだまだ【力】になってくれるわ。
最愛の息子、飛鳥。――紅蓮の飛鳥。地球の未来、みんなを……頼んだわ……よ」
抗うことのできない沈黙が銀河を支配した。
そして、別れの刻が訪れたのだった。
無情にも爆弾が爆発した。
爆心地にいる紅蓮丸――渚は灼熱の熱風に包まれ、雄大に燃えさかる
『太陽』がもう一つ現れたかのような出来事だった。
飛鳥は宇宙を駆ける閃光を見て絶叫していた。
「か、母さん――!」
『あす……か。愛してる』
――間一髪、危機を回避した鳳凰丸は大気圏を突破して、
飛鳥はどうにか無事に海岸へ着陸したのだった。
「ぼ、僕は……」
再び地球に帰還できた飛鳥だったが、喜べずいた。
むしろ、彼の『心』はいまだ味合ったことのない絶望、損失感に囚われていた。
「銀河帝国メルディアスから地球を守れた。
きっと、今後、地球はエリスさんやエミリアさんたちと手を取りあっていける……」
彼は無気力にボソボソと呟きながら、鳳凰丸からそっと降りた。
海の波に当てられ、飛鳥は砂浜に倒れ込んだ。
「……星が綺麗だ……」
先ほど宇宙空間にて目にしていた星々。
それは少し前まで、飛鳥は見慣れた景色であった。
こうして、地球から見上げる宇宙は妙に切なく哀しかった。
「父さんに命ちゃん……。地球は無事です。ただ、紅蓮丸……母さんは……」
飛鳥は未だに厳しい『現実』を受け入れることができずいる。
しかし、雄大に輝く銀河。
生命の源である海――波を体で感じ取って理解した。
「地球は綺麗で尊いんだ……」
何万、何十億と地球は命を育み人々の営みを見守ってきた。
それは地球にとって、飛鳥たちの出来事は微々たることに過ぎないだろう。
だけど、森羅万象――自然の理を超越した剣持渚の存在は違った。
現世において彼女の肉体は一度滅びていた。
――しかしながら、確実に渚という女性は姿形を変えて復活し、
飛鳥を見守りこれまで一緒に戦ってきた。
「母さんは地球の未来――僕のために最後まで……」
いままでの出来事が全て運命もしくは、宿命にしてもあまりにも過酷な結末だった……。
飛鳥はそのまましばらく浜辺で横たわり静かに時間が流れて行った。
それでも、彼は前を向くことを決意して、立ち上がろうとした瞬間――突如、
燃えさかる『流星』が上空に出現した。
「あ、あれは一体!?」
それを眼にした飛鳥は考えることなく、体が動き出し走っていた。
「ま、まさか新しい敵なのか!? それにしては小型だ」
飛鳥が近づくにつれて、みるみる燃えさかる流星は小さくなっていった。
――やがて、燃えさかる『物体』は消滅した。
「ハァハァ。燃え尽きたのか……」
飛鳥が目線を下にやろうとした時、彼は呼ばれた。
『あ……スカ……』
飛鳥は初めて紅蓮丸に呼ばれて、乗り込んだ瞬間を思い出していた。
あのとき『謎の声』はわからなかった。
しかし、燃え尽きた流星から、新たに緑色に光る物体を目の当たりにして
彼の脳裏には一つの可能性が浮上していた。
「この眼で確かめなくては!」
飛鳥は光源を目指して再び走り出した。
しかしながら、緑色に光る物体の光源はみるみる弱まっていき飛鳥が触れる前、
今にも消えてしまいそうであり、一夏の終わりを告げる蛍の命の輝きのようでもあった。
「待って! もう少しだけ頑張ってくれっ!!」
飛鳥は心で願うことなく、声に出して叫んだ。
すると、彼の声に反応して緑色に光る物体は一瞬だけ眩い光を放ち、落下進路を変更した。
「僕も諦めてはいけない。せっかく掴んだ平和なんだ……」
緑色に光る物体は緩やかに放物線にアーチを描きながら、
飛鳥へ最終落下地点を導くように夜空を舞った。
「どうやら、あそこみだいだね!」
彼は緑色に光る物体が示したポイント目がけて渾身のラストラン。
持てる力を振り絞り緑色に光る物体よりも早く海岸の岬に到着したのだった。
……そして、神秘的に緑色に光る物体は飛鳥の目の前に現れて停滞した。
飛鳥はそっと手を差し伸べて優しく両手で包み込んだ。
「あ、熱い……。それになぜだか、懐かしい気持ちに……」
――さらに緑色に光る物体は飛鳥と触れ合うことで、輝きを増していったが、
唐突に光のエナジーが弱まっていくのだった。
何者かの意思を運んできた物体は、紅蓮の少年まで辿り着きその役目を終えたかのように
潔く静かに光を閉ざした。
「だ、駄目だ。最後の希望が……」
希望を抱いて最後に飛翔した紅蓮の飛鳥の“願い”は儚く散ってしまった。
またしても、飛鳥は呆然とその場で立ちつくしかなかった。
しかし、虚空を見つめる世界は非情だった。
飛鳥と渚が守った世界は廻っていく。
地球は太陽の光に照らされて、雄大に高らかと生命の産声を告げる。
いつしか、漆黒の宇宙は姿を消し去り、飛鳥もそのご来光を瞳に映した。
「……分かってるよ、母さん。この景色こそ、僕たちが守った世界だよね。
だから、僕はもう立ち留まらないよ。これからも、みんなと一緒に地球を守っていく」
飛鳥が『決意』を一人で口ずさんでいると、
ふと背後から誰かに優しく抱きしめられた感覚が走った――。




