破滅の閃光
それはさることながら、緋音も宇宙機械獣に関して因縁があるようだった。
「そうかも知れませんね! それはそうと、真紅の緋音。彼らはどこからともなく現れ、
僕たちだけではなく、銀河帝国メルディアスの騎士たちも襲って、融合を果しました。彼らから、なんらかの意思を感じます」
「あたしは“アイツら”宇宙機械獣とは因縁があるんだ! 最近、奴らは海賊稼業を邪魔立てする。――だから、紅蓮の飛鳥。ここは『一時休戦』しましょう。あたしたちも、宇宙機械獣の掃討を行う! まぁ、乗りかかった船って訳だ」
緋音の申し出を聞いた飛鳥はノアの【第一艦橋】のいる、風間艦長と剣持副長に同意を求めた。
それに対して、命も父に無言のメッセージを送っていた。
飛鳥、同様に根拠や道理がなくても、星森緋音は飛鳥君と同じ雰囲気がするから大丈夫と、
彼女は力強い眼差しで父を説得した。
「紅蓮の飛鳥――いまは、誰の力も借りたい状況だ。君に任せる……!」
こうしたなりゆきで、またノア艦隊に戦力が加わったのだった。
「緋音さ……。『真紅の緋音』よろしくお願いします!」
「この宇宙ではケースバイ・ケースも大事だしね。最初に宣言しておくと、あたしらは気まぐれでたま~に君たちを援護したりするけど、逆はいらないから安心して」
自信満々に高らかと、緋音は飛鳥に宣言してみせた。
そう言っているそばから、海賊船の左舷から敵襲を告げる『警戒音』が船内に鳴り響く……。
「お、お頭! 敵だ!」
「んなこと、言われんでも、知ってるわ! 野郎共、主砲発射体勢。――んで【ピース】主砲発射後にホーミングレーザーをお見舞いで!」
ガヤガヤしている船員に対して一人、キビキビと冷静に命令している緋音。
その命令に対して唯一【ピース】という名の澄んだ女性の声は彼女の命を復唱していた。
見てくれは、古臭い海賊船のようでも、この“グランドアース号”は
機動戦艦ノアやテトラの発掘戦艦たちを軽く“凌駕”するほどの性能を誇っていた。
その最たる『モノ』が、グランドアース号の全てを制御しているコンピューターの【ピース】なのだ。
本当は緋音の命令なしでも自分で考え、最適な方法を選択できる超AI。
しかし、ある日を境に緋音とピースは出会い彼女はグランドアースの船長となり、
航海をしつつ超新星機関を探し求めている。
その目的は、またの機会に語ることになるだろう……。
とにもかく、未知の性能と武力を有するのは間違いない。
そうこうしている間にも、アナログな人力運用による、主砲・大砲によって、宇宙機械獣を掃討した。
残りに関しては、きめ細かいホーミングレーザーで宇宙機械獣を焼き尽くした。
「てな訳で、紅蓮の飛鳥さん。あたしらは大丈夫! ピース、頼んだわ!」
「緋音は人使いが荒いわね。地球の戦士もお気の毒に……」
豪快な緋音をカバーしつつも、ピースは飛鳥を心配するほどの気配りができる。
遠目からは凸凹の関係性に見えていても緋音とピースは
《鳳凰紅蓮丸》の飛鳥と渚のように絶妙な関係性であった。
「――真紅の緋音。その言葉を信じさせてもらいます。僕たちはこのまま、突入します。そして、なんとしても“エリス姫”を説得しなくては……」
「このままいけば、あっちもあっちでなにかありそうだし。なんだか、この宇宙には嫌なオーラ……雰囲気が漂っているわね……」
生体コアゆえ渚はエンゲージ・リンクシステムにより、
飛鳥が抱いている不安と憤りは筒抜けで無意識の内に彼女は共有されてしまっていた。
マリアも飛鳥と同じようになにか違和感を覚えていた。
さらに黄金騎士たちにも焦りのような焦燥感が出ていた。
また、黄金聖騎士長、バーンは長年の経験からして、いい方向へ転ぶことはないと踏んでいた。
すぐさま、取り巻きの騎士団の指揮を上げて、宇宙機械獣の掃討へあたった。
「……ナックルズ。貴様、久しぶりに馬が合ったか……」
「バーンのおっさん。これはなにかあるぜ。口では上手く表現できないがな……。きっと、シン君やマリアち
ゃん。紅蓮の戦士は感じ取っているだろう……」
様々な思惑が行き交うなか、銀河帝国メルディアス本星に最も近くで陣取っている、
聖寂のザードへ通信が入った――。
「そうですか、準備が整いましたか。ではでは、エリス姫様……」
どうやら、通信の相手は『エリス姫』のようだった。
通信を終えたザードのオーラは機体を通して、不敵に笑う表情が浮かび上がるほど、
凄まじい妖艶で重い“プレッシャー”を放っていた。
「我が黄金十二騎士のみなさん。いまから、三分後に“ショータイム”になります。昔のよしなで、聖騎士マリアさんにも忠告をして差し上げます! あ、それと【おめおめ】と現れた聖騎士長バーンさんたちにもです!」
マリアは明らかに銀河帝国メルディアスへ反逆行為を起している身。
こと、黄金騎士連合はいささか“微妙”な立ち位置だった。
そのため、ザードは彼らに対してたっぷりと皮肉を込めて、
これから起こり得る、悲惨な未来について警鐘を鳴らした。
――その頃、飛鳥率いる紅蓮機甲隊は、ほぼ損害なく宇宙を突き進んでいた。
次第に宇宙機械獣も数が減っていた。
しかし、戦場の緊張の糸が緩まるどころか、ずっと空気が張りつめている。
「蒼き星――地球の皆さん。お察しのとおり『彼ら』は私によって、ある程度制御されてます。だから、司令塔の私を討たなくては『限りなく無尽蔵』なのです。疲弊し士気も低下しておいで、でしょうがお気をつけて……!」
彼は意味を含ませつつも、さりげなく、パチっと二回スパニッシュトライデントの親指と中指を擦り合せた。
これまでの増援をモノともしない宇宙機械獣が、飛鳥たちの進撃を塞いだ。
「確かにあいつがいる限り、この状況がエンドレスに続くな飛鳥」
「あの人を止めないと、宇宙機械獣の脅威は絶えない」
やむ得なくノア艦隊は足を止めて、宇宙機械獣の迎撃に当たった。
そして、いよいよ銀河帝国メルディアスのエリス姫が動き出す――。
「充填は完了したか……。ならば、テラーズキャノンを放てッ!!」
『りょ、了解いたしました!』
突如、銀河帝国メルディアス本星を守護していた『シールド』が集結した。
それから、筒状形態に変形した。シールド発射口からは、
蒼い電撃を纏った高熱源エネルギー体が撃たれた。
それと同時期にエリス姫は、ザードへとプライベート通信を入れていた――。
「ザードよ。一応、伝えておいてやる。宇宙機械獣を囮に奴らを一掃する。
せいぜい、死なないように気を付けるのだな!」
「では、当初の予定とおり多少の“犠牲”を持って彼らを殲滅いたしますか。
エリス様、ご忠告ありがとうございます」
エリス姫が混乱する戦場で決定的な一撃を放つまでに――遡ること一分前。
ノア艦隊の第一艦橋にいた命は突如、発現された高熱源エネルギーの異変に一人だけ気づいていた。
「艦長! 銀河帝国メルディアスにて熱源反応あり。ただちに退避を!」
「命。我らは逃げてはならん。総員、対ショック。林技術長に副長! ブラックホール砲の準備!」
機動戦艦ノアの艦首部分が変形し、宇宙戦艦ヤ○トのような口径が出現した。
「船体固定――テトラさんたちの『発掘戦艦』は私たちの後方へ。
飛鳥君! 部隊の回避行動の指揮を頼んだよ!」
「命さん。私らも“反物質キャノン”にてあれを迎え撃つ!」
ノア艦隊も切札を解禁して、真っ向勝負に出たのだった。
そして、命の緊急伝令を耳にした飛鳥は即座に部隊の回避行動を指揮してみせた。
「みなさん。いますぐ、艦隊の後方に移動して下さい! ……翼、あとは頼んだよ」
「あぁ、飛鳥。でもよ、あんまり無理し過ぎるなよ!」
飛鳥の迅速な命令により、紅蓮機甲隊の大多数は退避できていた。
それでも、複数の小隊は宇宙機械獣に捕まっていた。
飛鳥は全力を持って、鳳凰紅蓮丸で駆けつけて宇宙機械獣を撃破していった。
ただし、圧倒的に時間が足りなかった……。
そして、壮大な銀河を焼き尽くす破壊の衝動が戦場を突き抜けるのだった。
「隊長。せめて、彼女だけでもお願いします……」
「わ、わかりました……」
飛鳥――鳳凰紅蓮丸は受け継がれる命と思いを託され、間一髪離脱した。
「ブラックホールキャノン……」
「反物質キャノン」
ノア艦隊も反撃に転じて同時に放出させた。
『撃てッーー!!』
破壊の衝動と、光すら飲み込む混沌の闇が弾けた。
その瞬間――生命を創造する、唄がこの宇宙空間に弾けた。
それはまさしく、星々が誕生する『ビッグバン』に匹敵するエネルギー係数だった。
瞬く間に辺り一面が眩い光の繭に包まれ無音と化したのだった。
「まずい、ピース! シールド最大出力!!」
「もってくれれば……」
緋音も異常事態により、グランドアース号の最大出力でシールドを展開させ防御に徹した。
両軍の機動機甲兵器および、戦艦のモニター通信は雑音……ノイズになっていた。
そして、数秒後――飛鳥が搭乗する《鳳凰紅蓮丸》が一早く視界が回復して、飛鳥は言葉を失った。
渚はその光景に眼を背け絶望していた。
飛鳥が救えなかった機動機甲兵器、不知火と神風の残骸。
同じく、銀河帝国メルディアス本星を守護する、機動機甲兵器・騎士型の青銅騎士と銀騎士タイプ。
宇宙機械獣たちも見るに堪えない、悲惨な状態だった。
先ほどの殺戮の閃光により、無残にも多くの命は吹き飛び、
無限に広がっている【宇宙】と同化してしまった。
そして、一人の黄金騎士がザードに吠えた――。
「ざ、ザード! 貴様、宇宙機械獣だけではなく、同胞の騎士たちも囮に使ったな? テーラズ・キャノンの斜線軸へと彼らをおびき寄せたのかッ! あんなモノ使わなくとも、俺を使えばよかっただろ!」
「なにをそんなムキになっておいでですか? これはエリス姫様が苦渋の末、ご決断された作戦なのです。そもそも、あなた方が頼りないがために、同胞たちも命を落とすのです!」
本来だったら、テーラズ・キャノンによる戦果は想像以上だった。
しかし、この作戦自体ザードと、ごく一部の人間を除いて知らない話だった。
「貴様はエリス様になにを吹き込んだ。あのお方が、こんな無慈悲で愚かな……」
「私は銀河帝国メルディアスを一番に思って、画期的で効率のいい方法をエリス姫様に進言させていただいたまでです。第一に聖輪ショウ。あなたこそ、言動に嘘があります。あなたが本当に忠誠を、誓っているのは“あの方”のはず。まぁ。いまとなっては、役立たずで裏でこそこそ、惨めに生きてる者ですがね。『ラファエル』同様に理解しがたいです」
聖輪ショウが“真”に忠を誓っているお方に対し、ザードが侮辱の言葉を吐いた。
彼はそれを聞いて、ダークネスデスサイズは躊躇なく、ザードのスパニッシュトライデントへ襲いかかり、黄金の円舞曲を奏でた。
――その頃、ようやくノア艦隊もモニター通信が回復していた。
「こ、これは……」
「これが銀河帝国メルディアスの答えなのか……」
ノアと発掘戦艦は、反撃に転じたことにより幸い軽傷だった。
もし下手に軌道を変更していたら、殺戮の閃光に飲まれ、宇宙の星となっていただろう。
「……命、残存兵力は――?」
「発掘戦艦、および『グランドアース号』も健在。紅蓮機甲隊は、兵力の七十パーセントになります。奇跡的に先ほどの高熱源攻撃による、損害はほとんどありません」
このとき、命は自分を押し殺していた。
彼女は懸命に一種の感情を抑え込み、業務的に間艦長へ戦況を羅列していた。
本当なら命は、散ってしまった隊員たちを送ってあげたい。
でも、それは彼らから託された意思に反する。
そのため、命は心を強く保った。
「今回はどうにか、あの攻撃を防げた。しかし、次あの高熱源射撃を撃たれると、なす術がない。
きっと、ノアの全エネルギーを全方位バリア回しても防ぎきれない」
「それはそうだ。いかに発掘戦艦とて、あれは一隻でどうにかなる代物ではない。
そして、やっかいなことに破壊するにも、前方には無限に湧く宇宙機械獣。さらには銀河帝国メルディアス最強の黄金十二騎士が待ち受けている」
この絶望的な状況下で、聖騎士マリアから飛鳥へと通信が入るのだった――。
「紅蓮の飛鳥……。まだ、生きてるな? 私たちから、一つ提案がある!」
「当たり前です、マリアさん。何かいい方法でも……!?」
飛鳥は藁にも縋る想いで、マリアに教えをこう。
すると、彼女の口からは思いがけない提案がされた。
「黄金騎士連合……言わば、私とシン。バーンとナックルズによる共闘戦線だ。
そんな簡単に受け入れられる、話ではないと頭では理解してる。だけど……そうも言っていられる状況下でもないんだ、紅蓮の飛鳥!」
「紅蓮の戦士よ……。姉さんの口からで申し訳ない。
だがその昔、銀河帝国メルディアスの最終兵器・テラーズキャノンを、一度だけ打ち破った事例がある。
それこそ、我ら黄金十二騎士による戦果だと“先代”から聞いたことがあった」
互いに死力を尽くして、命の取り合いをした飛鳥とシンたち。
それでも飛鳥は、聖騎士マリアが仲を取り持ってくれるだけで、彼らの信憑性はあった。
「僕たち地球にとって、マリアさんはとても信頼できる人だと思います。
これまで数多くノアや紅蓮機甲隊の仲間たちの危機を救ってくれました。
だから、僕は――マリアさんが、心の底から信頼している弟のシンさん、バーンさんたちを信じてみたいです!」
「紅蓮の戦士。いや、飛鳥。貴殿のお気使いに感謝いたします。
だかしかし、先代の話にはまだ続きがある! それは、テラーズキャノン破壊の際、黄金十二騎士による、
超新星機関の『解放エネルギーを』同時にテラーズキャンへぶつけたことなんだ」
シンの口からテラーズキャノン攻略の有益な情報を得られた飛鳥たち。
ただし、同時にどうしようもない【欠点】に気づくのだった。
「ゆえに我らだけでは、到底テラーズキャノンを破壊できないのだ」
「だ、だけどこのまま指を咥えて待っていても俺たち……。銀河帝国メルディアス……エリスちゃんは……」
聖騎士長バーンと聖拳ナックルズもこの方法の打開策を練り始めた。
「銀河帝国メルディアス……エリス姫様を止めなくては。
だから、紅蓮の飛鳥――地球の方々の協力が必要なんです」
「聖騎士マリアに他の黄金騎士。あなた方の好意に我々も報います。
聖槍のシン殿話によると、現実的に数が足りていない。
それでも、なにもしないままむざむざやられる訳にもいかない……」
無手の風間艦長は、マリアたち黄金騎士たちとの《共闘戦線》を承認した。
「よし! そうとなれば、黄金のノア艦隊結成とこかしら☆ 飛鳥、やるわよ!」
「そうだね、母さん。あれを阻止しないと僕たちは――」
淀んでいる空気を払拭させ、渚は、この黄金のノア艦隊の士気を高めた。
「はい、飛鳥の母上。我らは道なき道を進むクルセイダーズなのです!」
「へっん! いままでにないケースで《鳳凰紅蓮丸》がついています!
それはそうと、マリアちゃん。その子が弟さんなのね?」
改めて鳳凰紅蓮丸の“核の部分”になる渚に触れた。
「聖騎士マリアの弟になります、聖槍のシンと申します。兄弟共々、ご迷惑をおかけしたと思いますが、よろしくお願いいたします!」
「そんな、固っ苦しいご挨拶は大丈夫よ、シン君。なにせお互い様よ。それに私は紅蓮丸の生体コア……。つまり、システムの一部として生きてる身分。現実では死んじゃってるので、フランクにいきましょう!」
『……!』
黄金聖騎士長、バーンが反応し心でなにかを悟った。
『そうか、そういうことだったのか。やはり、あのお方が……』
バーンはようやく、銀河帝国メルディアスの真理に辿り着いた。
とは言っても、まだそのときではなかったので、この思いは自分の胸の内に秘めていた。
それとは別に、姉のマリアが弟のシンに語りかけていた。
「シンよ。私も飛鳥の母上から、この話を聞いたとき、お前同じ表情をしていた。
紅蓮丸――鳳凰紅蓮丸の強さの秘密こそ、親子の絆にあるという訳だ。だから、きっとエリス姫様を止めることができる」
黄金騎士たちは笑みを浮かべて、三人はノア艦隊に加わり進撃した。
同時刻にて、ザード率いる勢力は崩壊の兆しが見えていた。
青銅騎士、銀騎士たちは疲弊しその瞳に一切の光が宿っていなかった。
それでも無意識にただ一点、激しく飛び散る火花を見つめていた。
ザードは黄金騎士のなかでも、一位・二位を争うショウの猛攻を受けていた。
その攻撃は凄まじく氾濫しっきた濁流の勢いだった。
ザードには、指を鳴らす隙すらも許されない。
言わば、祈り捧げる所作が枷となり、攻撃が撃てずいる劣勢の状況下。
たまらず、ザードはデルタサムライの『時田』に救援を要請した。
「――時田、ショウを相手して差し上げなさい!」
「……承った」
かつての同胞に対して、微塵も手を抜かない時田のデルタサムライの薙刀による
一振りがダークネスデスサイズの額をかすめ装甲を貫いた。
「いいタイミングです、時田。以後、聖輪のショウは反逆者ですので手加減はいりません。
では時田、この場をお任せします!」
「ま、待って! ザード――!!」
「いかせん……」
ショウも頭のリミッターを解除して、時田に対して死を誘う鎌を振った。
多くを語らない時田であるが、強者との戦闘で心を躍らせていた。
飛鳥やショウは彼を、刺激する数少ない強敵なのだ。
その後、危機を逃れた聖寂のザードは再度『エリス姫』にプライベート通信を行っている
「エリス姫様。次の発射準備はいつ頃、完了いたしますか……?」
ザードの問いかけにエリス姫は無言だった。
だが、しばらくして「はぁはぁ」と、荒い呼吸音がザードの鼓膜を震わせた。
数秒後……呼吸と心を整えたエリス姫が発言した。
「……はぁ。遅くとも十分後には、テラーズキャノンが撃てるようになる。つ、次こそは必ず……」
「かしこまりました。それまで時間を稼がせていただきます。それにしても、エリス様はお心が強いのですね! ザードは見くびっておりました」
エリス姫はテラーズキャノンによって、散った命を把握できていた。
それはザードも同じであった。
しかし、ザードは平常心で平気な顔をしていて、エリス姫をからかう余裕すらあった。
「お、お前はなにも感じぬか……!?」
「か、感じるとおっしゃいますと? この戦争ももうじき最終局面を迎えます。
ですので、是非ともエリス様の口から直接、兵のために士気を上げていただいきたいですね。
まぁ、それはご無理を承知の上です。とにもかく、あなた様が『銀河帝国メルディアス』の
業を背負った覚悟。このザードは、敬服しておりまする」
エリス姫はテラーズキャノン発射前に自分を、押し殺せると自負していた。
――しかし、散って逝く命たちの砕ける悲鳴を聞いて、彼女の“心の刃”が脆くボロボロになり、
いまにも折れてしまいそうだった。
これはエリス姫の人生において、未体験の恐怖感と狂想心。
自我の崩壊を招く寸前で、踏み止まりどうにか理性を保てていた。
対してザードにそういった心境の変化はなかった。
心の【闇】が出現するどころか、戦果を妙に気にしていた。
彼は生まれもって、大量殺戮兵器を生んだ学者と同じサガを持っていた。
検証のためなら先ほどの犠牲者たちは、やむえない結果として自己処理できていた。
こと、本質的に『聖寂のザード』は他の人間とは、交りえない心理や思想を持っているかもしれない。
ゆえにエリス姫は心を混沌の闇に『堕天』させた。
この戦争に終焉を告げるであろう、テラーズキャノン第二射のエネルギー装填を開始させた。
――その頃、ノア艦隊と黄金騎士たちは互いの欠点をカバーしつつ、敵陣を猛進していた。
もちろん、左翼にいるグランドアース号の真紅の緋音も宇宙機械獣との戦闘において、
まったく引きを取らない。
その後、ノア艦隊と銀河帝国メルディアス本星を守護する部隊が対面した。
守備隊の後方にも、黄金騎士。今度は直接、騎士たちの『信念』がぶつかることになる。
「グースにジーク。そして、ショウよ……。お前たちとは争いたくない。だから、退いてはくれぬか?」
「おいおい、聖騎士長バーン? それはどういうことだ?」
まだ、彼らの精神と闘気のみが宇宙で衝突していた。
ただし、バーンから思いがけない提案を前にして、グースは開いた口が塞がらないでいる。
「俺からも頼む。俺たちはいま、争っている場合ではない。ザードはエリス姫様に悪事を吹き込んだ。だからだから……。止めなくては」
「そのためにも、我らは力を合わせて“テーラズキャノン”を破壊してくてはならない。
あの兵器は発射するときのみ、銀河帝国メルディアスを覆い尽くすシールドがなくなる。
ゆえに真っ向から、我らは超新星機関を解放し、同時多発もって最上の一撃を放ち――突破するのだ!」




