古より受け継がれた、幻の奥義
飛鳥の素振りはシュシュと快音を響かせ空間を裂いていた。
腕の傷も完治したいま、彼は一、剣士として疼いていて、どこか心の底で強き者と心逝くまで戦ってみたい。
と、飛鳥はそう願っていた。
「はぁぁあ!!」
気合いを込めた飛鳥の面は――架空の対戦相手であるシャドウ―の面を貫いていた。
そう思うほど、飛鳥の素振りには勢いと凄みがあった。
ましく、その姿は自宅の地下でトレーニングしている『グラップラー・アスカ』だった。
先ほどから怒涛の稽古によって、全身汗だくの飛鳥は一息ついて、ふわぐわのタオルで、顔を拭いていた。
刹那――安堵していた飛鳥だったが、自分の後頭部へ、真剣が刺さってしまう戦慄ビジョンが浮かんだ。
すぐさま飛鳥は振り返ると、背後には空間が禍々しくねじ曲がり、淀んだ中心点に女性が立ち尽くしていた。
「飛鳥ハン。チョイと反応が遅いで。しかし、元気そうでなによりさかい!」
「か、神代大文字先生! ご無沙汰しております☆」
飛鳥は一回、死んだことも忘れ去り、可愛い子犬のように京美人のもとへ駆け寄った。
彼女こそ、飛鳥に真剣の剣術を教え込んだ、神代流の第十一師範代、神代大文字なのだ。
神代大文字の姿を確認し安心した飛鳥は、殺気と覇気を緩めた。
「ほな、飛鳥ハン。そろそろ、アンさんには『神代流の奥義』を教えなアカン時が、
来たようどすな~。それさかい、飛鳥ハン! 剣士にとって、一番大事なこととは?」
久し振りに師匠と顔を合した飛鳥だった。
突如、神代大文字から意外なことを問われてしまい困惑した。
本来ならば、雷を斬る閃雷斬り。炎を纏った斬撃、炎極殺。
それらを超越した、奥義を自分の目の前で披露してくれると踏んでいた。
天才剣士飛鳥はしばらく沈黙した――。
だがこれも『神代大文字』の唯一の弟子、飛鳥への師匠からの贈り物。類まれない、剣の才能。
そして、底知れぬ向上心と剣技への熱意。
師は弟子のそれらを買い、神代大文字は飛鳥を最後の試練を出していた。
「先生……。わ、わかりません……」
天才の飛鳥と言えど、神代大文字が期待する答えは出なかった。
「ようやく、飛鳥ハンに教えることができる! それはさかい……無刀流……。
これこそ、神代流――神代大文字からの奥義継承!
それはすなわち……戦わないことが勝利ドス❤」
「そ、そんな~」
飛鳥は落胆し肩を落とし、目蓋も垂れ下がった。
彼の予想を超えた、神代大文字のトンチが効いた回答だった。
だが、それに至るまでに『ヒストリー』があった。
「まぁ、飛鳥ハン。この機に少しウチを知っておくんなし!」
珍しく饒舌の神代大文字はその場に座り込みあぐらをかいた。
その流れで彼女は飛鳥も腰を落とすように諭してあげた。
律儀な飛鳥は、「失礼します」と声をかけ彼女と同じ体制で対面した。
少し前にも触れたが、神代大文字こと――双葉景子の流派の初代は戦国の剣豪である、
あの『宮本武蔵』と引き分けているらしい。
真相は定かではない。
それでも、神代流の剣技は脈々と現代へと受け継がれた。
その証拠こそ、初代の血を継承している、稀代の剣士・双葉景子なのかもしれない。
まさに伝説の伝承者であった。
しかし、面白いことに神代流初代の歴史はあっけなく、幕を閉じてしまう。
名もなき剣士との“死合い”より討たれてしまったのだ。
その原因こそが、神代流奥義《無刀流》なのだ。
初代は幾銭もの究極の死闘を経て、剣士の強さは“無刀”にありと悟った。
だが、この理論は――戦国の世では通用せず、
その後の二代目神代大文字、三代目と、次々に『後継者』が短命になってしまった。
比較的、生まれたての流派にもかかわらず、二○九九年の現在双葉景子で、十代目の継承者。
それでもなお、究極奥義・無刀の志はあり続け、神代流の数多くの奥義は、脈々と受け継げられていた。
そして、十代目の神代大文字は剣士として、最終奥義を会得させようと
人生で唯一の愛弟子、剣持飛鳥へ『剣』の真理を説いてみせた。
「この信念・理念こそ先代たちから、受け継いできた神代流の究極奥義さかい! まぁ、飛鳥ハン、頭の隅にでも置いておいておくんなし!」
「そ、それこそが剣の奥義……。確かに技でなく志のありかたですね。戦わないことが、勝利という発想は究極の領域ですね。先生、僕も『力のあり方』を常に考えていきます。そして、必ず究極奥義を会得してみせますっ!」
初代にも負けない気高い志を持つ、飛鳥は少しでも神代字流の奥義へ近付くと心に誓った。
その後は、彼らは時間を忘れてしまうほど会話を続け、談笑を交わした――。
ようやく、神代トーークが終息して、飛鳥が道場を後にしよとしたときだった
「そういえば、飛鳥ハン。今度は母上を紹介しておくれよ。
色々とお話をしたいさかいから!」
「へへ、先生もご存じでしたか! 母さんは見た目二十歳前後ですから、わりかし、
年齢的に先生と同じぐらいだと思いますのできっと、先生と話が合おうと思いますよ! 早速、母さんに伝えておきますね☆」
飛鳥は少し嬉しそうにほくそ笑み照れつつも、神代大文字と約束を交わした。
そして、みんなが待つ、格納庫へ歩いて行った――。
飛鳥が格納庫に着くと異様なまで熱気に包まれていた。
「水城副長! 男の意地を見せてくれ~」
「マリアさん。いや、マリア姉さん、そんな奴ちょちょいと!」
なにやら、紅蓮機甲隊の隊員たちが円陣を作り囲っているようだった。
輪の中を覗き込むと、騒がしい声が一点に集中するところが存在した。
その熱狂ぶりから飛鳥も興奮してしまい、小走りで輪へと駆け寄った。
しかし、隊長の飛鳥がこっそり円陣に加わることが困難なほど円陣は強固なのだ。
たとえて言うならば、肉の塊。もっと、聞こえ心地がいいと難攻不落の城と化している。
そんな、暑苦しい空間だけども、艶やかな声が飛鳥の耳に触れた――。
「貴様らはうるさいっ! 騎士……戦士ならば黙視せよ☆」
「なんという気高さ……。うぅ、これこそ、マリア様がみてる……!」
紅蓮機甲隊の『不安要素』であった、聖騎士マリアと隊員たちとの関係性だったが、
ある意味、彼らは打ち解け合っていた。
その証拠に、一部の隊員たちからは聖母・マリアと崇高されていた。
早速、頭角を現してきたマリアに対し、紅蓮機甲隊――機動戦艦ノアの隠れた縁の下の力持ちキャラである水城翼はと――。
「早いとこマリアさんとルカさんの試合が見たいですよ、水城副長!」
「水城殿。無理は禁物ですぜ!」
かねて、マリアの実力は飛鳥との激闘や噂で伝説として一人歩きするほど、紅蓮機甲隊中へ知れ渡っていた。
ただ、大規模な編成直後、翼の実力はみんなに周知されていない。
そのため紅蓮の飛鳥の戦友の翼は少しばかり、彼らからの風当たりがキツイ。
そんな感じなので、翼はわざとらしく咳払いをして、周囲の外野を威圧してみせた。
「んふッ。さぁ。やろうぜ! 聖騎士マリア」
「あぁ、そうだな……!」
飛鳥にも引きを取らない、闘志を全開にして翼はマリアの前に立った。
二人の視線は、ほぼほぼ同じ位。服装は翼がカジュアルな道着テイスト。
マリアはスパッツ生地を上下で着こみ身に纏っている。
マリアならではのデザイン性よりも、機能と動きやすさを重視したスタイル。
しかし、本人は鈍感であるが、グラママスなボディが浮き出ていた……。
この恵まれた体格も、一部の紅蓮機甲隊の中で崇高される理由の一つでもある。
彼女の勇士を見て、外野からは『マリア』を応援する激が飛び交った。
「マリアさん頑張って! 水城副部長も頑張って」
「かたじけない命殿。ですが、心強いです!」
命の声援はマリアがメインで翼はおまけ程度だったので、たまらず翼は声を荒げた。
「お、おい、風間マネージャー! ま……こんな、シュチュエーションの方が勝ごたえがあるか!」
これまで――翼は何度かマリアの剣技を見ていては正直、体が疼いていた。
やっと、その思いをぶつけるとき瞬間を迎えて、心が燃えている。
そして、両者は『疑似刀剣』を手に取り互いに一礼をし、次の瞬間――力いっぱい、
踏み込み、両者は激突した。
「てぇいや――!」
「さて、紅蓮の飛鳥の右腕の実力をとくと、見せてもらう!」
開幕、翼は疑似刀剣を激しく撓らせ強襲した。
その威力は凄まじく、マリアは両手持ちで受けるしかできなかった。
「いつもは受けだけどよぉ! 今日の翼ちゃんは、ゴリゴリに攻めるぜ!」
「ふ、申し分ない一撃。それならば……!」
マリアはそっと、重心を後方にズラした。
すると、不思議なことに翼の一撃はミルミル、弱まり瞬く間に両者へ距離ができた。
――しかし、マリアは反撃に出ず剣を構えたまま翼を直視していた。
「貴様の一撃は見極めた。元々、貴様は守りを肝とする剣士。私はどちらかと言うと、
攻めを主とする騎士。ゆえに貴様とは根比べをするまで!」
「チっ、おしゃべり飛鳥さんだぜ。確かに本来俺は守りの『剣士』なのさ。あの飛鳥でも、そうそう切り崩せない。いいぜっ! 俺もその方が成長できる!」
マリアは彼の宣言を聞きあざ笑ったかのように高笑いをした。
それでも、翼は臆することなく、構えた。マリアは一歩だけ踏み込んだ。
一気に静まり返った円陣は、呼吸音だけ聞こえるほど静かだった。
唾を飲み干す僅かな喉の鼓動さえも、隣の人が感知できてしまう。
そんな緊張感のなかで、碧色の美男子が動き出した――。
「はぁぁ! もう我慢できん! 僕はトイレに行く!」
最前列で腕を組み堂々としていた美少年『閃光のルカ』こと、フェルナンド・ルカは、
静寂の雰囲気をクラッシュさせトイレへ疾走した。
すかさず、最前列にできた空間に紅蓮の少年は瞳で捉えて、光らせ飛び込んだ――。
「へへ。やっと新鮮な空気が吸える。はぁ、空気がうめぇ~」
シュンシュンと身軽に隊員たちの間を避けて、飛鳥が『最前列』に到着すると――、
親友の翼と目線が合った。
「!? あ、飛鳥。い、いつの間に……?」
「オッス! オラ、飛鳥。よろしくな!」
長い蛇の道を制覇して、駆けつけたサイ○人のように彼は待望の最前線へ踊り出た。
親友の翼は飛鳥がここに到着する、三十分の尺のなかで何回名前を叫んだことか。
実際には、一度たりとも翼は飛鳥の名を呼んではいない……。
とにもかく、翼は飛鳥の出現によって意識がマリアから逸れてしまった。
「ったく、萬國驚天掌ってやつだぜっ! まぁ、飛鳥隊長殿。いまから聖騎士マリアが、やられる様を見物していってくれよ!」
「いつになく我が右腕の翼、燃えてるね! で、でも……!!」
互いを讃えあった男たちだった。ただ、妙に歯切れが悪い飛鳥だった。
飛鳥が翼を超えて、背後へ目線やると聖なる気を全開にしたマリアが疑似の剣を
翼に振り下ろす瞬間だった――。
「ちょ、ちょっと! わりと不意打ち!?」
「貴様――! 死合い中によそ見しおって! さらに紅蓮の飛鳥も邪魔して!」
マリアの渾身の一太刀は疑似的な剣であっても、翼の脳天はクラッシュされた。
その結果、翼の頭部から足の先まで、衝撃が駆け巡った。まさに波紋攻撃のような攻撃。
もし仮に翼が吸血鬼なら、蒸発してしまうほどの衝撃だった。




