緊急事態
「それに紅蓮の飛鳥。貴様のおかげで、ある『一つ』の
疑問が解決しそうなのだ。
これは、本国……。黄金騎士にとって重大な事柄だ。
だから、私は見届けなくてはいけない。たとえこんな状態でも」
「僕も少なからず、引っかかることはあります」
飛鳥もマリアも地球とメルディアスを繋ぐことについて
真相に近づきつつある。
だが『答え』を知るには、もう少しあとになるだろう。
「少し辛気臭い話になってしまいましたが、私は大丈夫なので。
命殿は、ご自身の戦場にお戻りください。
そっちの赤毛もとっとと失せて、次回来るときは、
機動戦士ガン○ムを持ってこい! さらばだ☆」
「うん! マリアさんまた落ち着いたら来るね? ではでは~。
ほ~ら、飛鳥君。飛鳥少尉、もうじき、作戦会議の時間だよ」
命に連れられ、飛鳥はマリアの部屋から退室した。
そして、初のワープ後から、主要人物が第一艦橋に集結した。
「さて、そろそろ黄金騎士連合との決戦まで残り時間が少なくなってきた。
各々は、準備できているかな?」
副艦長の剣持博士は、蘭大尉から命まで投げかけた。
「ノアの機関回りは、俺と634でやれそうです。
もちろん、機動機甲兵器の整備も怠ることなく、いつでも出撃は可能です」
胸を張って林技術長は、高らかに受け答えをした。
「私、藤崎も戦術・作戦は、考案済みです。
あとは、紅蓮機甲隊の剣持飛鳥少尉と
フィードバックを行っていくだけです」
林技術長は、幾度の整備と修復作業によりアスト○ージさんを超える、
腕と自信を得ていた。
それこそ、ワンカットからのシーン切り替えで
大破から元ととおりになっている神業。
蘭大尉は、生真面目に軍律を守った言い回しで報告を終えた。
「僕は正直……まだ不安です。ごく一部の人を除いて、
機甲兵器に搭乗できる人はいません。
それに、僕が言うと青いですが隊のみなさんは、まだ【戦争】を知りません。
でも、彼らは僕にも負けない『意思』と『決意』があります!
必ず紅蓮機甲隊隊長として、修練と鍛練を積み決戦に間に合わせます」
冷静に物事を見極める飛鳥だから、出た言葉。
機械や戦術、憶測は無機質なモノだ。
しかし、それを実行する人間は生きている。
だから、作戦や機甲兵器そのものを決めるのは、人である。
飛鳥は、そうみんなに熱く説いた。
「うむ、それでこそ『紅蓮の飛鳥』だよ。では、もうじきワープ航法に入る。
予定はあと二回ワープして、通常航海モードで黄金騎士連合と対峙して
ノアは全力全快の状態で臨む」
各位、持ち場につき機動戦艦ノアは、二度目のワープに突入した。
二回目のワープとあって、第一艦橋の面々は意識を保ちつつワープ中も
警戒を怠ることなく、無駄なく時間を使えるようになっていた。
しかし、ワープアウトして最後のワープ航法に入って、
間もなく事は起こった。
『デーン・デーン! 未確認物体急接近、本艦はこれより隣接します』
ノアの制御システムから、機械音声が響きそれに続いて命が復唱した。
「総員! 対ショックに備えてくださいっ!!」
未確認物体とスレスレでノアはワープアウトした。
この行為によって、座標位置やコスモブラックホールエンジンに
異常をきたした。
「痛た……。どうなってるんだ?!」
床に倒れ込んだ飛鳥は、手で頭を抱えたまま砂嵐が発生している
モニターに目をやった。
しばらくして、モニターが正常に戻ると、真紅の髑髏マークが
付けられた海賊船がモニターに映し出された。
「真っ赤で……それに、髑髏のマーク。これって海賊船なの?!」
「たぶん、宇宙海賊だ……!」
飛鳥の隣で命が不安な表情で寄り添っている。
と、格納庫の林技術長から、緊急通信が入った。
「た、大変です。風間艦長! ハッチが破かれ侵入されました。
至急応援をよろしくお願いします!」
飛鳥は翼と蘭大尉に視線を送り、即座に現場へと急行した。
格納庫に着くと、目を疑う光景が待ち構えていた。
「す、すみません。風間艦長、俺たち人質にされました……」
周囲を見渡すと、紅蓮機甲隊の隊員や整備士など数十人が囚われている。
しかも、相手は――。
「悪く思わないでね☆ あたしたち、海賊稼業はこれがルールだから!」
いかにも、海賊船の船長スタイルに淡いピンク色髪の毛の女の子とゴロツキという表現が最適な輩が腕を組んでいた。
「それにしても、あたしらが探してる『無限エネルギー』を探知したが……。
父ちゃんが追い求めて、私の夢であるモノが……」
「む、無限エネルギーだと?!
まさか、超新星機関を狙って。
すると、紅蓮丸と鳳凰丸が……」
飛鳥は自然と口にしていまっていた。
それを聞いた、宇宙海賊のお頭は飛びついた。
「その感じだと、思い当たる節があるな。
赤毛の男よ? さぁ、教えてくれ!
まぁ。あたしの勘だと、あの『赤いツノ』のメカに秘密があるな!」
「そ、それは……。紅蓮丸には……」
図星を突かれた飛鳥の歯切れは見るからに悪かった。
その態度にイラ立ちを隠せない宇宙海賊は、
ガチっと唐突に撃鉄を起こした。
「あ、飛鳥ハン! その子は、アカンっ!!」
ズッキュン! と空気を打ち抜く蒼い波動弾が飛鳥を襲った。
どうにか、この場に駆けつけた神代大文字の助言により、
飛鳥は神がかり的な反応速度で、愛刀を抜刀し波動弾を
紅蓮刀で一刀両断させた。
「ふぅ、危なかった。それにしても、いきなり発砲するとは!」
「本気で撃ったのに斬られるなんて。生まれて初めてだわ。
宇宙でも七つしか存在しない、小宇宙銃剣を刀で斬り裂くとは……。
でも、これはほんのあいさつがわり。
この宇宙では、『討たれる前に撃てが』常識だからね。
そこはご愛嬌として。
それにしても、アンタやるわね。名前は?」
赤い星の中年を彷彿させる台詞。
そして、宇宙に七つしかない小宇宙銃剣。
この宇宙海賊のお頭は、常軌を逸している。
さらにあいさつかわりの一撃は、双方の陣営を熱くさせた。
「宇宙を股にかけるSLも驚愕ですね。常に宇宙は争いが絶えませんね。
僕は剣持飛鳥……。そして、人呼んで『紅蓮の飛鳥』です」
「戦艦が宇宙にいるなら、当然でしょ?! へぇ~、剣持飛鳥。
いかにも、剣士が名乗りそうなお名前。
んでもって、【通り名】まであるとは。
だったらあたしも礼儀に答えて……。
あたしは、訳あって宇宙海賊をしてる【星森緋音】。
人はあたしのことをこう呼ぶ……『真紅の緋音』とね☆」
互いの素性を明かしたところで。
緋音は手に持った、小宇宙銃剣を
銃モードから、切り替え剣モードにチェンジした。
「あんたを倒せばきっと、レーダーが捉えたあの赤いツノのロボットとこに行ける。
じゃないとアンタは、是が非でもあたしを止めるでしょ!」
飛鳥と緋音は一瞬の攻防で理解してしまった。
柄の悪い輩を先導して、ノアを乗っ取った組織力とカリスマ性を備えた緋音。
しかし、飛鳥を前にして緋音の計画は狂った。
数で勝っても、確実に緋音の部下たちが倒されるビジョン。
飛鳥もまた、ノア艦内での戦闘と紅蓮機甲隊の初陣を恐れていた。
そのため、飛鳥と緋音は必然的に己でケリをつけるしかなかった。
「へへ。今日も大漁かな……!」
「僕はいま、モーレツに燃えてる」
緋音の小宇宙銃剣と飛鳥の紅蓮刀が激しく衝突した。
しかし、次の瞬間――。
二人の生体機能が同時に停止し、
飛鳥と緋音の意識は、違う空間へと飛ばされていた。
『こ、これは僕……』
『あ、あたしだけど違う……?』
意思思念体になった二人は、宇宙空間のような場所で対峙している。
『これは、あたしの知る地球。とても、綺麗で故郷』
『僕の大切なモノが詰まってる蒼い星、地球……』
地球を見て、飛鳥と緋音は同じ心境だった。
『君は地球を知ってる。それに、いま初めて会った気がしない……』
『なぜ? アンタがあたしの故郷、地球を見て懐かしむ。
不思議だが、あたしもアンタと同じようにそう感じている』
意識的に二人の距離は縮まり、手と手を合わせる形で触れ合った。
その瞬間、二人は互いの膨大な情報を共有してしまった。
『き、君は一体?!』
『な、なんなのさ。アンタは?!』
そうして、潜在意識での間隔が薄まり現実世界に二人は帰還した。
この体験は数時間……数万年のような時の流れだったが、
実際は二人が衝突した瞬間は、現実の時計の針で
ものの数秒が経過したに過ぎなかった。
「はぁはぁ……。今日のところは、【紅蓮の飛鳥】。
見逃してやる。野郎共、ズラかるよっ!」
「ま、まるでめぐりあい宇宙のような空間だった。
僕も《真紅の緋音》。再会はすぐだと思ってます。
みなさん、彼らから離れてッ!」
緋音のかけ声と共に、乗り込んできた小型宇宙船に一団は乗り込み
隣接された、海賊船へと帰投して宇宙の彼方へと姿を消し去った。
ノアの格納庫では、人質となっていた林技術長をはじめその面々が解放された。
「剣持少尉、『紅蓮の飛鳥』。助かりました。
それにしても、奴らは……」
「想定外だったわ。正直、宇宙を舐めてた。
今後は不測の事態に対応できる
作戦と戦術を考案しておかなくては」
ノアの重要人物は、戦々恐々としていた。
風間艦長や剣持副艦長も例外ではなかった。
「映画や小説では定番だが、まさか宇宙に海賊がいて出くわすとは!
またしても、飛鳥君に救われた。相変わらず、さすがだった」
「僕も驚きが隠せません。ましては、戦う羽目になるとは……」
結果的に飛鳥は戦ってしまった。
さらに飛鳥に様々な謎を残した。
「だけど、あの子と飛鳥君が衝突したとき、二人は停止して
突如、星森緋音と名乗った女の子は撤退しちゃったけど、
あの瞬間、飛鳥君になにかあったの?」
飛鳥は見妙な倦怠感を覚え、言葉を詰まらせた。
「……僕もあのときのことをよく覚えていない。
だけど、あの子は悪い人ではない。きっと……」
「そ、そうなの……。飛鳥君にしては、珍しく根拠がない台詞だね。
でも私もそんな気がした。少しだけ飛鳥君と似てる雰囲気を感じてた」
オカルトじみた飛鳥の見解だったが、幼馴染の命はすんなり受け入れた。
「せやかて、飛鳥ハン。いきなりの発砲には、度胆抜かれましたわ。
さすがの私もあの不意打ちは、地球で適用されないルールですな~」
とにかく、ノアの人々は思わぬ形で宇宙の怖さを思い知った。
紅蓮機甲隊も隊長の飛鳥が悠然と戦う姿をその目に焼き付け、決意を固めた。
【機動戦艦ノア】の緊急事態は過ぎ去り、再びワープ航法に入った。
黄金騎士連合との決戦に向けて、最後のワープ中は各自怠ることなく
準備を進めていた。
ある者は、剣術の修行。
ある者は、機械整備に追われ、
ある者は、机上でシュミレーションを重ね苦悩していた。
様々な思いが宇宙で交差するなか、やがてノアは通常空間にワープアウトした――。
通常航海で宇宙の彼方を突き進み、黄金騎士連合とぶつかる座標までノアは行く。
そして、黄金騎士連合と対峙するまで刻まで、残り十日間。
その頃、黄金の騎士たちはと……。
「シンよ。そちらの首尾はどうだ?」
「バーンよ。こっちは、順調だ。計算だと、次のワープで蒼き星地球と
我がメルディアスを結ぶ、中間地点に到着する手はず」
黄金騎士、『聖騎士長バーン』と【聖槍のシン】の戦艦は並行して航海している。
しかし、残りの一隻は見るからに遅れている。
「おい! ナックルズ。何をしておる? 貴様、やる気があるのか!」
「通信だってのに、うるさいね。バーンのおっさんは!」
顔を合わせずとも反発して、水と油の二人のような関係性。
それはまるで、団塊世代の親父といまどきの若者との口論にも似ていた。
「まぁまぁ、バーンもそのくらいは。ナックルズももう少し、気を引き締めて」
「ったく、俺の親父みたいだなバーンのおっさん……。シン君お気使いありがとう。
俺は俺でこの拳に懸けて、青き星の戦士たちを倒すことを考え込んでいる」
このアクの強い二人の仲をまとめる役が好青年のシン。
年齢も思想もバラバラの三人だが、絶妙のバランスで構成されていた。
彼らもまた、マリアを倒した、紅蓮の戦士との戦いに心躍っている。
そんな余裕を感じさせる、黄金騎士たちだが、地球の希望ノアは
確実に迫っていた。




