起動・紅蓮丸!
「? なんだ、あの小僧たちは」
ロボットの頭部が動き、目線は飛鳥たちを捉えていた。
「わ、忘れてた……。ここは、高校だった。
剣持十三博士のお子さんを迎えにきたのに」
ようやら、メカニックレディー大尉は飛鳥を探しているようだ。
彼女はこのスキを見て運転手の大男、林に命令した――。
「今がチャンスよ!!
あの子たちが、敵の注意を引いている間に最低限のシステムと戦闘マニュアルデータを同期させて頂戴。
そのあとは私がどうにかするから……!」
エ○ァやマジ○ガーZでお約束の時間稼ぎ……。
この場面を乗り切れば、『人類の進撃』が始まる。
「キシシ、面白い。少しだけ遊んでやるか。
そこのガキども、お遊びは終わりだ!」
「どうにか、俺ら以外は避難できたようだな。
だけども、厄介なことに標敵は俺らになっちまった」
瞬時に二人は視線を合わせて、互いの背中と背中を合わせた。
「僕らもいますぐ逃げよう!」
――その矢先、人型ロボットが急接近し瞬く間に彼らは窮地に立たされた。
『あす……か……』
と呼ぶ声が飛鳥の頭の声に聞こえていた。
「やってみるか……!」
その瞬間、飛鳥は翼たちにある提案をした。
「僕が囮になる。そのスキに二人は逃げて……!」
誰が聞いても、荒唐無稽な提案だった。
普段の彼からは、想像もできないぐらい無策の一言だった。
「そんなこと、はいそうですかと容認できるか! 飛鳥」
「いくらなんでも、飛鳥君一人じゃ無理よ」
当然二からは反発されて、止められてしまった。
ただ、こうしている間にも時は無情に流れていく。
それでも飛鳥はさっきの空耳にも近い『声』を信じて、大型トレーラーから聞こえたコンテナ部に行くしかないと思っていた。
「大丈夫。僕を信じて二人とも。これは決して死亡フラグじゃない!
絶対あとから、合流するから二人は避難して!」
命を諭しつつ、飛鳥は真剣な眼差しで翼に訴えかけた。
「お前がそこまで言うなら、風間マネージャーは俺が責任を持って逃がす。
だから、絶対にあとで会おうぜ飛鳥?」
彼は頷き二人と約束を交わした。
「さて、まずは女を……。キヒヒ、こりゃ楽しめそうだ!」
「いまだ! 二人とも」
相手の言葉に耳を貸さず、飛鳥はアイコンタクトで翼と命に伝えた。
二人は後ろを振り返り、裏手の校門まで駆け出した。
「おいおい、逃げるのかよ。そうはいかねぇな」
「待て! 僕が相手だ」
飛鳥は生身で青銅騎士ロボットの前に立ちふさがった。
「英雄気取りの馬鹿ガキだな。とっと逃げればいいものを」
「確かに僕は逃げられたかも知れない。
だけど、僕以外の人が犠牲になっていたかも知れない」
悪役風情としては、至極まっとうな言動。
ただ、飛鳥は自己犠牲や英雄的な死を美化するつもりはない。
「まぁ、お前のエゴもよかろう。だが、現実は非情だ。
お前はこの場でのたれ死ぬ。
俺はあのトレーラーに積まれているはずの目的の品をいただいて帰るぜ!」
とは言え、圧倒的な戦力差を目の当たりにして飛鳥は生死を感じ取った。
これが『戦い』だと。
「た、大尉。赤毛の男の子が一人で立ち向かっています」
「おおいに結構! いまは猫の手でも借りたい。
あの子が与えてくれた時間で”紅蓮丸”を起動させてあのボロ騎士を駆逐するわ!」
飛鳥が作り上げた時間。
その間にも、飛鳥は挑発気味に敵と対話を続け『例の声』の正体を掴もうとしていた。
命と翼が避難できたため、トレーラーのコンテナへ移動しようとした瞬間――。
色々と考え模索していた飛鳥は敵のロボットに捕まってしまった。
「お前みたいな小奇麗な奴は握り潰してやるよ、死ね!」
鋼鉄の金属に体はプレスされ、彼の体には激痛が走った。
「はぁぁあ、グっ、うわ……!!」
校庭中には彼の悲痛の叫び声が響いていた。
その悲痛の声を耳にしメカニックレディーたちも限界を迎えていた。
「ダメだわ、紅蓮丸は起動しない……。でもね林。
私も地球防衛軍の端くれよ。この場は特攻でもなんでもあの男の子を救うわ!」
「そ、それは男の俺の仕事です! 大尉はこの『紅蓮丸』を剣持飛鳥に届けるのが任務です。
途中での放棄はNETEROの誇りが!」
と次の瞬間――。
ドッゴ、ズゴーンとコンテナを突き破る快音が二人の前で起こった。
さっきまで、梃子でも起動しなかった紅蓮丸が一人勝手に起動しはじめた。
「そ、そんな馬鹿な……?!」
紅蓮丸は赤毛の少年がいる方向へと急速発進した――。
飛鳥は意識が朦朧とするなか、自分に近づくモノを目にしていた。
「あれはなんだ?! でも敵じゃない気がする。
それにまた、あの声が聞こえて……」
『これは きみにしかのれない のりこめば じんるいをまもるしめい
じぶんのうんめいをしることになる』
飛鳥は聞こえていたが、全てを理解していなかった。
それでも、大切な人や街を守るために彼は――。
「使命や運命……。僕は……僕の大切な人やこの街を守りたい。
だから、力を貸して――!!」
鉄と鉄とがぶつかり合う金属音とともに飛鳥は宙に浮いたが、優しく包まれ地上に降ろされていた。
紅蓮丸は膝まずいて、コックピットのハッチが解放された。
「こ、ここに乗れってことか、よしっ!」
飛鳥は自分が見ていた、ロボットアニメのシーンと自分を重ねていた。
夢にも思わなかったが、彼の夢は現実となった。
コックピットのハッチは閉じられ、彼は直感的に操縦している。
しかし、さっきのように滑らかかつ迅速な動きではできなかった。
早くも飛鳥はロボアニメ定番のピンチを迎えていた。
「『紅蓮丸』は、君の脳波を通して動く!」
聞き覚えのある声がコックピットに流れた。
「ぐ、紅蓮丸? それに脳波が……。どういうことですか?!」
「言葉のとおりです! それはそれであなたは何者なの!?」
えぇ! 本当に飛鳥が見てきたロボットアニメのような設定。
「僕は……この学校に通っている剣持飛鳥ですが……?」
「けんもちあすか君……?? よっしゃ! 林。
これで機密漏洩の軍法会議を回避して任務完了と☆
いまは詳しいことは言えませんが、これはあなたの父上、十三博士より預かって来ました」
飛鳥の父・十三博士がこのロボットを……。
飛鳥と一緒に食卓を囲んでいたが、そんな素振りは見せていなかった。
とにもかく、飛鳥はピンチを抜けロボットに搭乗している。
「その紅蓮丸は飛鳥君にしか、乗りこなせないようになってます。
ゆえにいままで起動すらできずにいたわ。でも、これで希望の光は見えた!」
直感的に彼しか乗りこなせないのと、『あの声』によって予言されて確信できた。
「わかりました。とりあえず、僕の頭でイメージして目の前の敵を倒せばいいですか?」
「できれば、そうして欲しいです。ただ、無茶はしないで!
本来ならこんな形で飛鳥君に渡すことはなかったけど……」
飛鳥は人類の希望――命や翼たちの平和を託された。
なら、答えは一つ……。
敵を倒して、みんなを守る。
それなら攻撃あるのみ、攻撃は最大の防御だ。
「うわぁぁあ!!」
ただし、彼がイメージした動きと現実は違っていた。
そう典型的なロボアニメの初陣の展開だった。
紅蓮丸から放たれた渾身の右ストレートは軽々と敵に躱されて、瞬時に槍の突きをもらった。
「そんな……我が渾身の『必殺ブロー』が躱されるなんて」
こんなときでも、飛鳥の悪い癖が『発動』して口ずさんでしまった。
――そして、あろうことか。
「なに、ふざけてるの飛鳥君!」
彼の心の叫び声は、コックピットからメカニックレディーに筒抜けだった。
「俺の槍を喰らって軽傷とは少しは頑丈みたいだな。
そろそろ、終わらせないと俺がマズイからな。
青銅騎士も楽じゃない」
槍を下方向に伸ばして、盾を構えて紅蓮丸に猛突してきた。
鋼と鋼がぶつかる衝撃に包まれ、飛鳥が乗る紅蓮丸は無重力になった。
空中浮遊して、地面に叩きつけられたあと突きの嵐に見舞われた。
「うっ、うわぁぁああ!!」
この攻撃によって、紅蓮丸の左腕は半壊しほほぶらさがっている状態。
脚部の右側は完全に操作不能になり、紅蓮丸は立つのがやっとだった。
「大尉このままでは……」
心配している、男性らしき声がかすかに聞こえていた……。
「なにか武器はないの林? このままじゃ、紅蓮丸も飛鳥君も……」
メカニックレディーの声が悲痛の叫び声に変わっていた。
「本当にこのままじゃ、やられてしまう。でも、まともに動けない」
敵は盾を捨てた。
両手持ちに切り替えて、最後の突撃体制に入った。
それでも、飛鳥は諦めずに、考える思考をやめなかった。
――すると、また『紅蓮丸』が彼の脳に直接、語りかけてきた。
『かたなを……ぬいて』
飛鳥の意思とは関係なく動き出し、左の太ももから小太刀が出現した。
「そうか、紅蓮丸。これで迎撃しろと。で、でも小太刀!?」
この危機的場面で武器はありがたかった。
皮肉にもロボットに乗ってまで小太刀を使うとは。
「大尉。紅蓮丸から武器が出ました。でも、あんな武装があったなんて……!」
どうやら、本当に誰もこの紅蓮丸を制御していなし、把握もできていないようだ。
これこそ、○デの意思による、発現か!
「この際なんでも、ウェルカムよ。この危機を乗り越えれば! 人類は生き残れる」
飛鳥も相手同様に構えをとり迎撃に備えた。
もう、決して失敗は許されない――。
防御を捨て槍に全てのパワーを込めた敵の一撃が放たれた。
瞬時に飛鳥は敵の攻撃線を見極め、上方向へと槍の突進攻撃を流した。
今度こそ、左手でパンチを当て左手は完全に機能を停止して重力により落下した。
次に右手に持った小太刀を逆さに持ちかえ、 相手の胸めがけて思いっきり振り下ろした。
「頼む、紅蓮丸! 僕に力を貸して」
体が熱くなり、紅蓮丸と心身ともに、連動したことを飛鳥は強く感じた。
ズゴゴ、ズシャーンと金属が砕けて小太刀が突き刺さる鈍く高い音が飛鳥の耳に聞こえた。
や、やったわ! 初陣で! それも、チューニングなしの機体状態で」
相手の機体に小太刀を突き刺したまま紅蓮丸と刺されたままの敵は沈黙した。
「さすが、噂の天才剣士剣持飛鳥。もう、ロボアニメの鏡です!!」
沈黙していた、敵ロボットのコックピットから掠れた声が聞こえている。
「ぐは、このクソガキが。今日のところはここまでにしておいてやる……」
敵の残された全エネルギーで紅蓮丸は蹴り飛ばされた。
辺り一面の視界を奪う煙が撒かれ、鉄くずの青銅騎士とやらは消えた。
「どうにか、撃退できたか……。よかっ……た」
安心と極度の疲れにより、彼の記憶はここまでで。
これ以降、一切覚えていない……。
かくして、飛鳥の初陣が終わった。
目が覚めると――そこは、見たことがない風景だった。
まるで突然、異世界に飛ばされた魔法騎士たちのように彼は思っていた。