92軒目 最終決戦なのに主役不在の件
庄司ビル三階コンビニにて、庄司寛子はコンビニの制服を着て商品を並べていた。下の棚の商品を並べる為にかがんでいた。立ち上がろうとしたその時、
「うっ腰が!……」
寛子の腰がぴきっとした。
「大丈夫ですか」
コンビニのオーナー(30代の男性)が駆け寄った。
「ああ、大丈夫じゃ。いつものことじゃ」
「なら、いいですが、そうだ、寛子さん。ちょっと裏で発注をやりましょう。それなら座ったままでできるから」
店をバイト学生に任せて、オーナと寛子はバックヤードのパソコンに向かった。
「ここの数字、おかしくないかのう」
パソコンの発注画面を見ながら、寛子が言った。
「あ、本当ですね。合計が間違っている。式が壊れたのかな」
オーナーは電卓で合計してみた。パソコンで出る計算式と違う事を確認して、パソコンを修正した。
「そういえば、甥っ子さん見つかったんですか?」
発注作業を寛子に教えながら、オーナーが寛子に尋ねた。
「ああ、大成か。警察にも届けたんじゃが、さっぱりじゃ」
「そうでしたか」
寛子の携帯が鳴った。オーナーに断りを入れて取ると、丹羽ロンからだった。
「今度は、一斗、リーダーも消えたじゃと。大成と同じような手紙が入っていたと!夜、ああ大丈夫じゃ。」
寛子はロンと夜会う事にした。寛子の自宅であるここ庄司ビル1階にて。
その頃、レーアントシティのレイナの自宅にて。レイナと息子の秀(1歳)。真由(子供たちは園や学校で不在)と華子と娘のえりか(2歳)が話していた。秀とえりかはその周りで遊んでいる。
真由は自作のワンピースを、レイナと華子に見せた。子ども用のワンピース、エリカくらいの小さな子どもにちょうどいい大きさ。
「どうですか?今度はうまくいきましたよ」
「すごーい。前はえりかが転んだだけで縫い目がほどけたけれど、これなら大丈夫そうね」
華子が真由の作ったワンピースを触って言った。
「これなら、売ってもよさそう」
とレイナ。
「これ、かーい」
えりかが大人の会話に割ってきた。真由の作ったワンピースが気に入ったようだ。
「それにしてもこの布、不思議な模様ね。どこで手に入ったの?」
と華子。
「あ、それは、ワタシの実家から送ってもらいました」
とレイナ。
「レイナちゃん、実家はどこなの? 」
と華子。
「外国です。英語圏の。秘密でなくて、単に作者が考えてないからなんですけれどね」
とレイナ。
「そうね、この布の模様すら明かしてないから、いい加減な作者よね」
と華子。
「ま、いいわ。建築戦隊で街フォームが使えるように、私はまともなワンピースを作れるように頑張るわ」
と真由。
「ところで、太成さんや一斗さん、どうなりました?」
とレイナ。
「全然、警察も大人の行方不明にはあまり熱心ではないのよね。私もうかつだったわ。いくら影の薄い息子とはいえ、二日間も不在に気が付かないとは。一斗は無断欠勤なんかしないわ。何か事件に巻き込まれているんだわ」
華子はため息をついた。
「やっぱり、口車塾が怪しいですよね。あんな手紙もあるんだから。皆で、口車塾に行きませんか? ○○レンジャー皆で行けば、口車塾にも勝てるかも知れませんよ」
とレイナ。
「実はね、今夜、主人と寛子さんと古民家さんが集まって、口車塾に行こうか話すのよ。でも二人はお子さんいるし……」
「何を遠慮しているんですか? 仲間の、建築戦隊の緊急事態ですよ。ワタシも行きます。今日は主人早く帰ってくるから大丈夫です」
とレイナ。
「私も。明日は土曜日で学校休みだから遅くなっても大丈夫です。夫が帰ってきたら、すぐ行きます。」
と真由。
「大丈夫なの?夜遅くなって、帰ってこれないかも知れないわよ」
華子は心配そうだ。
「大丈夫、そうと決まったら」
と真由。
「決まったら?」
レイナと華子は首をかしげる。
「今から夕飯作っておきましょうか。主人にはなるべく早く帰るように、メールしておきます」
レイナと華子は納得して、今日は解散となった。
レイナが玄関まで、真由と華子、えりかを送る。その時にふと左隣の部屋を見た。隣はこれまでずっと空室だった。でも今は、「口車」という表札がかけられている。右隣も口車、あいさつ程度の付き合いしかなかったけれど、右隣は違う名前の家だった。いつの間にか、口車に変わっていた。
華子とえりかはバスに乗って、庭付き一戸建てまで帰った。レーアントシティは高層マンション群だが、その周りには、山ばかり。高層マンションとのギャップが激しい場所。華子はバスの窓から景色を見ていた。何もなかったはずの山に、「口車建設」という看板が数か所建てられている。
「え?!」
華子は思わず声を上げた。ふわりふわりとゆっくり二階建ての一戸建てが、空を飛んでいた。二階建ての庭付き一戸建て。
「これは、うち。って事は一斗?」
華子は写メを撮った。一度シャッターを押せただけで、家を見失ってしまった。そしてその写メを、ロン、レイナ、真由に送った。
その夜、庄司ビルにて。寛子、古民家、レイナ、真由が集まっていた。普段寛子が一人で暮らしている場所なので、これだけ集まると少し狭く感じる。そんな中、ロンが揚げ物の匂いをさせながらやってきた。
「はい、これ、苦明寺商店街名物、チキンカツ」
ロンはそう言って、皆にチキンカツを配った。
「これって雑誌に載っていた、あのチキンカツですか」
と真由。
「そうそう、今夜の為に、限定品だけど、特別に揚げてくれたんです」
「これで勝ちますね。カツだけに」
と真由。
「そうそう、庭付き一戸建てが飛んでいる写真見ましたか?」
とレイナ
「ああ、あれ、うちだな。一斗はどうなってしまったんだろう」
とロン。




