86軒目 寛子VS大成
深刻な話です。防災訓練から同じ日なんだけど、この日が長いね。
大成は寛子に連れられて、庄司ビルに来た。
一階の寛子の住居で、大成と寛子は向かい合って座っていた。
「わたしゃ、今年度いっぱいで引退するんじゃ」
寛子はすぐに用件を切り出した。
「引退って、何を?」
「建築戦隊とここのビルからじゃ。わたしゃ、伊豆にいい老人ホームを見つけてのう。そこで隠居するんじゃ」
寛子は高級ホームのパンフレットを大成に見せた。最近流行りの優良老人ホーム、数千万の一時金を払って、マンションの一室に入居し、食事も出るし、温泉やプールや病院もすぐそばにある。
「寛子おば、金持ち〜。で、庄司ビルはやショージコーポは?」
富川駅前の三階建てのビル、庄司ビルと隣町のアパートショージコーポのオーナーの庄司寛子。
「大成のお隣さん引越しだのう」
「ああ」
「101の人は今月一杯で、引っ越すのじゃ」
「じゃあ、来月からは、ショージコーポにすんでいるのは、オレだけ」
「さよう」
「やった〜。これでうるさくしても怒られない!寛子おば、他の部屋使って良い? 」
「ダメじゃ。ショージコーポはもう解体する」
「どうして?」
「もう築年数が古いから、建て替えるところじゃった。良い機会じゃ。庄司ビルの後を継ぐか、それとも他の場所へ行くか」
「!」
「大成、自立せよ。もうわたしゃ援助はせぬ!」
大成はしばらく考えた。
「叶えたい夢があるから、高校を卒業した後に、就職しなかったんだろう」
「ああ、オレは音楽でプロになる!」
「最近、オーディションは受けたのか? プロになる活動をしたか?」
大成は黙り込んだ。
「日々生きるだけかのう」
大成はただ、頷いた。
「まあ、よい。時間はもう少しある。今10月で、3月までじゃから、あと5ヶ月。じっくり考えるがよい」
ピーンポーン。ピーンポーン
しんみりした空気の中、チャイムを連打する音。寛子はインターフォン越しに対応する。
「口車さん、なんじゃ、何度来ても、あんたらに売る家はない!」
「そういわずに売ってくださいよ。私たちに。庄司さん。売る気がないなら、建築戦隊で勝負しましょう」
「口車?」
大成は驚いた。
「ああ、最近よく来る。でも敵に売る家はない。」




