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「あっ、忘れてた!」
「突然どうしたのだ?」
「昼過ぎのあいつら、放置したままだった」
「・・・ああ、そういえばそうであったな」
どうでも良さそうにエルが答える。
そう、僕らは昼過ぎにパラコードで縛っておいた野盗の集団を完全に忘れていた。
現在時刻は17時過ぎ。あのときから既に3時間が経過している。
「それでどうするのだ?」
「衛兵に突き出そうかと思う」
リーナさんを直接誘拐した奴らだし、正直そのまま放置でもいいんだけどさ。
衛兵に突き出しておいたほうがいろいろ今後の処理が楽になる気がする。
それにこの世界ではパラコードのような細くて丈夫な紐は貴重品なのでみすみす無くしたくはない。
「リーナさんに誘拐犯を会わせるなんて事はしたくないから、僕が行ってくるよ」
「主・・・。気をつけるのだぞ」
「大丈夫大丈夫。合流は町でいっか、なにかあったら念話で情報共有しよう」
実際問題、僕はリーナさんと一緒にいないほうがいい。
それは僕が嫌われているとかそういう問題に近いのだけど、野盗に誘拐されてあとちょっとで奴隷商に売られるところだったから、近くにいくら童顔で小さいとはいえ男がいると怖いんじゃないかなって思うんだよね。
「エル、リーナさんを頼んだよ」
「任された。完璧を期待してよいぞ」
「エルシディアさん。ありがとうございます」
「うむ、リーナ殿には指一本触れさせるつもりはないから安心して欲しい」
「その・・・リーナって呼んでもらってもいいですか? そんな風に呼ばれると恥ずかしくて・・・」
「む、それならば妾のことはエルでよいぞ」
「命の恩人にそんな呼び方できません!」
「そ、そんな大声を出すでない。驚くではないか」
ん、コミュニケーションはエルに任せておけば大丈夫そうだな。
今はなんだか硬い感じがするけど、徐々に軟化するでしょ。
◆
辺りはかなり暗くなっており、昼の場所を掴むのには随分と手間取った。
なんとか僕がそこにたどり着くと昼と同じように彼らはそこにいる。
手足を縛られて木に括り付けられている彼らが全員横になっている光景はなんともシュールで笑ってしまいそうになる。
「お待たせしました。リーナさんの救助は無事に済んだので次はあなた達の移動です」
「仲間はどうなったっ!」
「一人を除いて全滅です」
「・・・・・っ」
気が滅入るな。最初が仲間の心配か。
テンプレートな悪役が相手ならこういう気分にならなくて済むのに。
僕の一言のせいでなんとも嫌な沈黙があたりを包む。
ともかく移動したいので彼らの足の拘束を解いて歩かせる。
剣は捨て、もちろん腕の拘束はそのまま。
「さあ、歩いてください」
「・・・いつか殺してやる」
「早く歩いてください」
血走った目で一人が僕を見ている。
・・・ああ、僕一人で本当に良かった。
こんなところにリーナさんをつれてくることが無くて本当に良かった。
きっとトラウマになってしまっただろう。そうならなくて本当に良かった。
それにしても歩き出すのが遅いな、少し脅しておくか。
僕は地面に向かって氷柱を射出し、地面にちょっとしたクレーターを作る。
一人を除いて怯える全員を見てもう一度言う。
「さあ、早く歩いてください。僕は後ろであなたたちを監視しますので」
時刻は20時、空の二つの月が輝いて辛うじて大地を照らす。
月明かりに照らされた風景はなんとも綺麗だけどこういうのは出来ればかわいい女の子と見たいところだ。
残念ながら側にいるのは鬱陶しい男が5人。理想と違いすぎて涙が出るね。
西の森からガルトの西門はそれほど遠くない。
身体能力の低い彼らと歩いたとしても3時間もあれば着く。
確か衛兵の詰め所は門のすぐ側っていってたな。
というかあれか、門のとこの衛兵の人に話せばいいのか。
「夜分に申し訳ありません。僕はユート、冒険者です。リーナさんの誘拐の件でご報告したいことがありまして、ただいま少々お時間よろしいでしょうか?」
「なにか分かったことがあったのかっ!?」
なんかもお、凄い反応。
一瞬でこちらの側に来たかと思うとつばがかかるかもしれないくらい近づいてきたんだけど。そんなに近寄らなくても聞こえるって。
「分かったというか解決というかですが。まずはそこの5名がリーナさんの誘拐の実行犯です、彼らのアジトの場所も聞けば答えてくれます。リーナさん自身は救助済みですので、もうしばらくしたら町に到着します」
ぽかんとした表情で野盗たちを見る。
おそらく子供みたいな外見の僕がつれてきたもんだから狐につままれたような気持ちになっているんだろう。
「この後の彼らの処遇に関してはお任せしてしまってよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。すまない、ちょっと驚いてしまって。彼らの処遇に関しては私たちに任せてくれれば問題ない」
「ありがとうございます。お手数ですが拘束具をつけてもらって良いですか? 今彼らを拘束しているロープは僕の私物なので回収したいのです」
「わかった。少しだけ待っててくれ」
そういうと衛兵の人がすぐ側の詰め所に走っていく。
今のうちにエルの確認をしておこう。
『エル、そっちは今どの辺? こちらは西門について野盗を衛兵の方に引き渡してるとこ』
『もう森は抜けた。あと20分程度でそちらに着くぞ』
『了解、西門抜けたとこの池で待ってるよ』
意外と近いぞ、エルのライトの魔術でも使えばもう見えるんじゃないか?
ぬお、衛兵の人も早い。もう拘束具を持ってきてる。
僕は拘束具のつけ方が今ひとつ分からないので衛兵の人たちの使い方を見ているだけ。
どうもギロチンの拘束具のような感じで頭と両手を固定することで自由な動きを拘束するタイプみたい。
確かに両腕と首が一枚の板で固定されたらまともに動けんよね。
でも当然それをつけるためにはパラコードによる拘束を解く必要があるわけで。
拘束具を着けていない最後の一名、僕を血走った目で見ていた奴だ。
彼ははパラコードの拘束を解かれた瞬間に衛兵の人を振り切ってこちらに突っ込んでくる。
衛兵さんなにしてんのさって思ったら自分の肩抑えてるぞ。あいつ何やった?
彼を良く見ると手には血のついたナイフ。一体どこに隠していたんだろう?
・・・そういえばボディチェックなんてしてないからどこでもありえるか。
はあ、こうなるならちゃんとヤっておけばよかった。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
叫び声と共に彼が突っ込んでくるが、低出力のスタンロッドでナイフを防ぐと半ば自爆のような形で彼が感電して動けなくなる。
どうでもいいけど”あぁぁぁぁ!”みたいな気勢を上げつつ突っ込んできて後半はそれが悲鳴に変わってるとちょっと情けないよね。
「すまない! 大丈夫か!?」
「ええ、問題ありません。それよりもそちら様の一人は大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと斬られたくらいだ。戻って治療を受ければすぐに治る」
「それは良かったです。さて、僕は仲間と合流するのでここらで失礼します」
パラコードを衛兵の人から受け取り、町の憩いの場の池で待つこと5分弱。
僕はエルとリーナさんと合流し、宿に戻った。
宿のドアをくぐった時のリーナさんとタミナさんの表情を僕は生涯忘れないだろう。
怯えた雰囲気を出す少女が、一転して満面の笑みを浮かべて母の元へ走る。母は彼女を見て驚いたような表情を見せたが、次の瞬間にはやわらかい笑みを浮かべて彼女を抱きしめる。
「お母さん、ただいまっ!」
「無事でよかった・・・お帰りなさい、リーナ」
そんな親子が抱きしめあう光景は感動的なはずで、心温まるはずなのに。
すこし、胸がちくりとした。
『うーん、僕たち完全に邪魔者だから部屋に帰ろうか』
『外に出たほうが良いのではないか?』
『そうだね、その方が良さそうだ』
僕とエルは外に出てから少し歩いて町の憩い場の池に戻る。
もう随分と遅いおかげでここには誰もいない。
ベンチに座るとエルも僕の隣に座る。
「ねえ、エル」
「ん、どうしたのだ?」
「なんていうのかな、ちょっと自分でもよく分からないんだけどさ。たぶんね、僕はゲーム感覚だったんだと思う」
「・・・主、大丈夫か? 顔が青いぞ?」
「僕の世界にはね、RPGっていうジャンルのちょうどこんな世界に生きる主人公を追体験できるゲームがあってさ。ゲームの中にはいろいろとイベントが用意されていて、たとえば今回みたいな女の子が野盗に誘拐されました、助けましょう。なんてのもあって、大体の場合最終的には女の子を助けてハッピーエンドで終わる。・・・ぶっちゃけ僕の状況ってそれと大差ないよね。正直言えば僕はそういう気分で動いてた。人の命が懸かっているのにね」
「・・・・・・」
「ゲーム感覚であれこれ自分勝手に動いて、人を殺して、いまさら現実に戻って落ち込んで。なんなんだろう、自分自身が馬鹿すぎて涙でそう」
一気に喋ってからエルを見るとなんだか辛そうな表情をしている。
そりゃそうか、こんな気分を愚痴られた日には僕だって辛そうな表情になるだろう。
「妾が思うに、今回の主の行動は賞賛されこそすれ、非難されるような要素は一つもない。仮に主がいい加減な考えで行動したとしても、だ。主はこう言われるのは嫌かも知れぬが、何の力も持たぬ者の矢面に立って戦う姿はなんとも格好よく、確かに物語の主人公のようであったぞ。・・・だから、そんな風に意味も無く自分を責めるのはやめよ。主が悲しければ妾だって悲しい。逆だってそうなのだぞ」
エルに肯定されるとそれだけで心が軽くなる。
そんな自分の浅さが悲しいけど、ちょっと嬉しかった。