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現在時刻は11時。
昨日に引き続き僕は薬草採取の依頼を受けた上でガルト西の森にいる。
「エル、これは・・・」
「間違いなく攻撃魔術によるものだが、この辺りには野生動物も多いため無関係の冒険者によるものかもしれん」
薬草の採取中に見つけた木は炎系の攻撃魔術によって黒く焦げていて、その辺りをみるとほかにも鋭利な断面の枝や折れ曲がった木に残る血痕など、戦いの痕跡があちこちに残っていた。
10分ほど捜索したが、見つかったのは戦闘の形跡のみ。
エルを見るとなんだか考え込んだような表情をしている。
「妙だな」
「ん、なにが?」
「この辺りにいるのは大抵がガルトウルフというこの地域固有の狼なのだが、討伐系の依頼で受ける場合持って帰るのは特徴的な尻尾だけで問題ない。死骸がないのは不自然だ」
「そういえば死骸が無いね。でもほかの野生生物が食べちゃったんじゃない?」
「それなら骨が残るか肉が散乱するものだ。ほら、この部分の地面は大量の血が染み込んで変色している。おそらくここで止めを刺したのだな」
「うわっ・・・その黒いの血なのか、なんだか食欲のなくなる光景だ」
「うーむ、ひょっとしたらこれは野盗共が食べるために取ったのかも知れぬぞ」
「そうだと死骸が無いのも納得できるけどさ、冒険者が食べるためにっていう可能性は考えなくていいの?」
「ガルトウルフの肉は非常にまずいので普通冒険者は食べたりしない。食べるとすれば町に入って食べ物を得ることが出来ない奴ら、ということになる」
「正直、携帯食料のほうがマシな肉ってちょっと想像つかないんだけど」
「妾は食べたことがないが、どうも硬くて欠片ほどのうまみも無く、非常に臭い。そんなにまずいはずが無いといって食べた冒険者の一人が青い顔をして倒れていたっていう話もあるくらいだ」
「野盗っていうのは味覚が死んでいるのか?」
「・・・主、たぶんそういう問題ではないと思うぞ」
どんな光景を見たからといっておなかは減る。
レパートリーを増やすに当たって必要な材料の入手が出来なかったため、残念ながら食事は昨日と全く同じメニュー。
それでもどうでもいい話(今回は携帯電話の話をした)をしながら食べるのは結構面白く、今後へのモチベーションも向上する。
「さて、そろそろ行こっか」
「わかった、ただ、後ろの馬鹿共を潰してからだぞ?」
え? 後ろの馬鹿共?
後ろを振り向くと藪がゆれて人影が出てくる。その数5人。
全員が帯刀しており、薄汚い服を着ている。
ひげも剃っていないので非常に不潔に見える。
・・・なんとまあ、つけられてたのか。全く気がつかなかった。
「勘のいいお譲ちゃんだな、そっちのガキはまるで気がついていなかったのに」
「大方炊煙でも見つけてこっちに来たのであろう? 来ると分かっていれば見つけることは難しくないのでな」
「随分と余裕があるようで・・・まさかお前らこのまま逃げられるとおもってんのか?」
「逃げる? フンッ、それは妾たちがお前らにいうセリフだな」
それにしても野盗の集団か。
2対5という状況はともかく、うまいこと捕まえることができれば一気にリーナさんの身柄に近づくことになるかもしれない。
こいつらが完全にリーナさんと無関係って可能性もあるけど、いずれにせよ逃げられる状況ではない。
異世界生活12日目、ひょっとしたら僕は人殺しを経験することになるかもしれない。
先日と同じように左手には射出系魔術を待機状態にして右手にはスタンロッド。
出力は最低、全身に強い痺れが残るが死なないレベル、だと思う。
イメージがゲームのスタンロッドで、効果が無力化だったので、正確にイメージできているならばちゃんとそういう効果で具現化できているはずだ。
現代の住人である僕には銃のイメージが強すぎて射出系の魔術の威力が落とせない。
命は地球より重いなんていうつもりは毛頭ないが、リーナさんの身柄を考えると最低でも一人、自殺や脅しを考えると出来れば二人以上を捕縛したい。
となると頼みの綱はこのスタンロッドか。
『エル、最低でも一人は捕縛する方向で! 僕は右の奴からやる』
『左の奴は任せろ!』
僕は完全に油断してニヤニヤしている野盗の一人にステップイン。
この後どうしてやろうかとでも思っているのか完全に油断している。
一足飛びで5mは移動してから男の首にスタンロッドを押し付けると若干の反動とともに衝撃音。崩れ落ちて動かなくなる男が泡を吹いているのを確認してから次のターゲットへ。
「糞っ! 男は殺せ! 女はなんとしても捕らえろ、後で売り払って金にするぞ」
なんだかとんでもないことを言われた気がするけど、大量のアドレナリンのおかげで特に恐怖感とかはない。
エルのほうをチラッとみると、既にエルの足元には一人が転がっており、魔力障壁”で”ひっぱたかれてそれは二人になった。
ああ、やっぱりエルは強いな。
あんまり種族的に強くないとかいってたけどあれ絶対嘘でしょ。
こちらを向いている二人は自分たちで最後であることに気がついていない。
エルみたいな華奢な体格の美少女が大の大人を声も出させずに無力化できるとは思っていないのだろう。
一人はこちらに向かって剣を振り回してくるが、あまりにも遅い。
魔力障壁で剣を受けてからお返しにスタンロッドで頭をしばく。
情けない悲鳴を上げて倒れる野盗。残りは一名。
「吹き飛ぶが良いぞ!」
あ、エルが完全に無防備な背中に向かって風の魔術(エルの場合魔法?)を使った。
ヒュゴッ!っというような不思議な音とともに最後の一名が全力でこちらに向かって吹っ飛んでくる。
・・・ん?
・・・ちょ、やばい! こっちに全力で吹っ飛んできてるって!
「わわっ・・・」
あわてて魔力障壁を斜めに展開して男がぶつかると同時に押し返す。
男はピンボールの玉のようにベクトルを変えて再度吹き飛ぶと地面を10m以上転がっていき、木に衝突してからようやく止まった。
「すまぬ、主。久しぶりに攻撃魔術を使ったので気が高ぶって周りが見えていなかった」
「なんとか対応できたから大丈夫だよ、それよりもこいつら縛っておかないと」
バッグからパラコードを取り出して野盗たちの腕と足を縛る。
直径は4mmしかないがアホみたいに頑丈なので腕力で千切られるということはまず考えなくて大丈夫。
「ふうっ・・・。さて、これから”話し合い”をするわけだけどさ」
「どうした?」
「こういう暴力を前提とした話し合いなんてものは生まれて初めてだからどうやって聞けばいいかなー、と」
「うーむ・・・。妾もこういった経験はないぞ。あまり力になれそうに無い」
「じゃあ出たとこ勝負でいくしかないか」
「なかなかおきないねー」
「水でもかけてみるべきか」
「早速やってみよう」
10分以上も待っているが彼らのうちで起きているものは一人もいない。
幸いにも全員脈があるので死んでいないことは分かっている。
僕は一番怪我の無い野盗の頭にじゃばじゃばと水をかける。
・・・だめだこれ、起きないぞ。漫画とかだとすぐ起きてたと思うんだけど。
衛兵の人に報告に行くのが理想なんだろうけど。ここからだといって来いで4時間以上かかる。その間に逃げられたら目も当てられないし、僕かエルのどちらかのみが向かうとなるとそれもちょっとトラブル対応的に怖いものがある。
「ん・・・ぐぅ・・・糞、イテエ・・・」
あれからさらに20分ほど待つとようやく一人が起きる。
随分と時間がかかったなあ。薬草採取もまだ微妙に終わってないし、先に済ましてしまえばよかった。
「どうもこんにちは、僕は先ほど襲われた人です。今から質問を行うので可能な限り答えていただけると助かります」
「こんなことしてただで済むと思ってんのか!」
「どちらかというとただで済まないのはそちら様だと思いますけどね。ともかく質問に答えていただけますか?」
「・・・・」
あれ、なんかおかしい、なんだかぜんぜん怖がられてない気がする。
『精一杯怖いオーラ出してみたんだけどどう?』
『主よ・・・すまないが丁寧なだけで全く脅せてないぞ』
『う~ん、じゃあ二人でやろうか』
駄目か、この口調疲れるからやめよ。
「エル、この人駄目だ。どうしようか」
「縛って放置しておけば野生生物のちょうど良いえさになるな。それとも魔術の練習に使うか?」
「どういうこと?」
「主は射出系魔術の威力を下げられないことをちょっと気にしておったろう? 魔術というのは実際に使う機会がないとなかなかうまくならぬ」
「なるほど」
「妾も対象の治療を行いつつ練習すれば、一人当たり複数回魔術の練習ができるはずだ」
「ん、ありがと。早速やろうか」
男の顔を見ると先ほどとは異なり、真っ青になっている。
ここらでいけるかな?
『主、いい感じだぞ。そろそろ話し合いに参加してくれそうだ』
『了解』
「さて、話すか魔術の実験か、好きなほうを選んでもらっていい?」
「何でも話す、何でも話すから・・・だからやめてくれ!」
「そりゃよかった。じゃあ質問に答えてもらおうかな」
「ああ、な、なにを話せばいいんだ」
「最近リーナという薄い水色の目と髪を持つ少女が誘拐された。何か知っていることは?」
「薄い水色・・・? すまねえ、俺たちが捕まえた。可愛かったから奴隷商に売ることになっている、すまねえ!」
「いつ?」
「今夜だっ、ひっ、やめてくれ、殺さないでくれ!」
こいつらがリーナさんを誘拐したのは確定。
それにしてもやっぱり奴隷商とかあるのか、さすが異世界。
アジトの場所を聞くためにもう少し脅そう。
スタンロッドを最大出力で具現化させて、男の首に近づける。
最大出力のスタンロッドは時折空気が裂ける音とともに紫電が飛び散るので見た目が大変に恐ろしい。
「主、一瞬でも間違えて当てると全身黒焦げになってしまうぞ」
その言葉で男の顔がこわばる。
今から仲間を裏切ってもらうわけだから、コレくらいじゃないと話さないだろう。
「彼女は今どこに?」
「俺たちのアジトだ、ここから北に20分ほど歩くと洞窟がある。さあ、話した、だから、殺さないで・・・」
「わかった、殺さないでいてやる。もう二度とやるんじゃないぞ。わかったな?」
男は言葉は発しなかったものの、真っ青になりながら全力で首を振っている。
それにしても即答するとは思わなかった。
さて、リーナさん救出に必要な情報は揃った。
仮に嘘だったら戻ってもう一度脅しなおせばいいか。
問題なのは今夜奴隷商に売る、という事実。
現在時刻は14時ちょっと過ぎ。
戻って報告したとしたら行って来いで18時になる。
そうなると時間オーバーな可能性が捨てきれない。
幸い野盗の戦闘能力は高くなさそうなので、油断さえしなければ僕とエルの二人で救助も可能だと思われる。
・・・よし、やるか。
「時間的に厳しいから二人で救助に向かいたいのだけど、エルはそれでいい?」
「妾もそれでかまわぬ。あまり時間が無いから早く向かったほうが良さそうだ」
◆
幸いにもあの男は嘘をついていなかったようだ。
僕から見て50mほど先には洞窟の入り口がぽっかりと空いており、その入り口を守るように二人の野盗がいる。
さらに洞窟の入り口周辺の木は完全に伐採されており、これ以上ステルスで近づくのは不可能だ。
強行突破した場合、一番まずいのはリーナさんが人質に取られてしまうこと。
そうなると僕は結構どうにもならなくなる気がする。
だからこんなところで気づかれるわけには行かない。
気づかれるならもうちょっと進んでからじゃないと。
うん、覚悟はしていたけど、僕は今日、人殺しをする。
『ここからあの見張りを排除するよ』
『主・・・』
『大丈夫、任せて』
僕は右手と右目に魔力を集中。
右目でライフルスコープと指向性マイクをイメージすると視界が拡大され、50m先の男の表情まではっきりと分かるようになる。
「それにしてもよ。あの女今日売っちまうんだってな、全く勿体ねーよ」
「そういうなよ、やっちまうと価値が半分以下だぜ?」
「だけどなぁ・・・」
13歳の少女に対してあいつらは一体何をするつもりだったのだろうか。
このままでは照準が安定しないので姿勢を体育座りに変更。
右手首を左手で固定し、ひざの骨の上にひじの骨を置いて右腕全体を支えると狙点がぶれなくなる。
右手の先に魔力を集中、氷の魔術を発動していつでも撃てる状態に。
息を止めて、撃つ。
気の抜ける音と共に発射された氷の弾丸は50m先の男の頭に正確に突き刺さり、鼻から上を吹き飛ばす。
あまりの出来事に呆然となっているもう一人にもすぐさま狙いを定めて射撃し、同じように絶命させる。
『気づかれるまでの時間はそんな無いと思う、進もう』
『わかった』
洞窟は広く暗い、あまりたいまつなどは用意していないみたいだ。
魔術を扱えるものたちなら自分の周りをライトの魔術で照らせばいいけど、それが出来ないのにもかかわらず暗いのは如何なものか。
洞窟の中は昼だっていうのに暗いし、普段の生活はどうしてるんだろう?
今回はそれがありがたいけどさ。
さくさく進んで早いところリーナさんを見つけないと。
エルには僕の中に戻ってもらい、何人かの野盗をやり過ごしつつ奥へと向かう。
さっきも言ったけどとにかく暗いので、端っこでじっとしてれば見つかる可能性はかなり低い。
注意して歩かないとこけてしまって自分がばれるなんていう間抜けな展開になりかねないのがたまにキズ。
5分ほど中を歩き、ひどい臭いのするドアを開けるとそこは牢屋だった。
生まれて初めて見た実物の牢屋はなんとも嫌な雰囲気で、できればこんなところからは一刻も早く抜け出したい。
牢屋の数は全部4つ、左手奥の牢屋にリーナさんはいた。
薄暗くて服装や髪の色はよく分からないが、ほかの牢屋には誰もいないので間違いない。
「こんばんは」
「誰っ!」
歳相応の可愛らしい声だが、恐怖によって震えているのがはっきりと分かる。
「あなたのお母さんの経営する宿でお世話になってる冒険者で、ユートっていいます」
「わ・・・わたしはリーナです。え・・っと、ユートさんはどうしてここに?」
身長160cm(四捨五入)で童顔の僕が来たところで、そりゃあ救助に来たとは思わないか。
「リーナさんを助けにですよ。そのドアを開けるのでちょっと待ってくださいね」
「え? あ、はい」
右手に魔力を集中、かんぬきの動きを阻害する鍵を氷の魔術で無理やり壊してドアを開ける。
・・・今後こういうことを考えてブリーチ用の魔術とか練習しよ。
「おっけ、じゃあついてき――」
「御頭! 表でイーザとフルカスが死んでやがった、誰かが紛れ込んだかもしれねえ!」
すぐ側で男の叫ぶ声が聞こえた。
チッ、ステルスもここまでか。
慌しい足音も聞こえる、こりゃヤバイかもしれない。
『エル、リーナさんの護衛を!』
『わかった』
一瞬光が出たと思うとそこにはエルがいつものように立っている。
いまさら疑問に思うけど、僕が箱に詰められた状態でエルを顕現するとどうなっちゃうんだろう。
さすがにやる気は無いけどさ。
「わわっ・・・あ、あなたは?」
「妾はエルシディア、主の命令に従い貴女を守るぞ」
「は、はい、ありがとうございます。わたしはリーナです。よろしくお願いします」
「うむ、安心するとよいぞ。主は強いし、妾も三下の盗賊ごとき相手にならぬ」
僕を立ててくれるのはうれしいがどう考えてもエルのが強いでしょーに。
ともかくこれでリーナさんの防備は完璧。
このアジトの野盗集団でエルの魔力障壁を貫通できる奴がいるとはとても思えない。
あとはもうランボーのごとく戦って最終的に脱出だ。
ステルス時に確認した野盗の残数は14人。
相手に魔術師がいないならここでバリケ組み立てて篭城作戦もありだけど、わからない以上リスクは犯せない。
「突破するよ、ついてきて」
「援護は妾に任せろ」
と、意気込んでドアを開けたはいいもののそこは無人。
・・・アレ?
「さっきすぐ側で声が聞こえたのになんで無人?」
「わからぬが注意したほうが良さそうだ」
軍用懐中電灯で辺りを照らすがそこには粗末なイスとテーブルがあるくらいで、ほかには何も無い。
辺りを照らしながら進み、不意打ちを避ける為にドアなどは全てクリアしてから先に進むが、やはり誰もいない。
「これって出口でガン待ちってことだよね」
「今度こそ間違いないだろう」
「・・・・・」
リーナさんが不安そうな目でエルを見ている。
確かにこの状況で不安にならないはずも無いか。
時刻は16時半くらい、こちら側は暗く、向こう側は明るいためこちらから一方的に外の様子を伺える。
・・・うわ、いるよ。
狭い室内での戦闘による各個撃破を恐れていたのか、野盗たちは広い外で待機している。
あいつら僕たちのことを数で押すつもりだな。
入り口からチョビチョビ撃たれた場合、入り口を封鎖して僕たちを生き埋めにすることも考えているだろう。
ただ、見える範囲にいる14名の野盗は全員剣で武装しているのが救いだと思う。
仮に見逃しの数名がいたとしても、飛び道具を使う奴は少ないとみて良さそうだ。
「今度こそ戦闘開始か、生き埋めのリスクを考えると外出るしかないね」
「彼女のことは妾に任せてもらって問題ない、僅かな傷も付けることなく守りきって見せる」
「了解、よろしく頼むよ」
僕とエルは魔力障壁を維持しながら外に出る。
10mくらい先でリーダーらしき野盗がニヤニヤとした汚い笑みを浮かべて待っていた。
負けるとは欠片も思っていないらしい。
13名の野盗はこちらを囲むように広がっていて、全員がギラギラとした目で剣を構えている。
「随分な余裕を持っているようで、さすが魔術師様だよ。お前ら全員で突っ込め、魔術は連射がきかねーから数で潰すぞ!」
「「「「やってやるぜええええ!」」」」
え? こいつら弓矢などの遠距離武器を持った奴を回りに伏せさせてないのか?
いきなり突撃を命令するとは思わなかった。こりゃ相手は自殺行為じゃないか。
しかも魔術は連射ができないとか何を言ってるんだ?
さすがにフルオートは出来ないけど、秒間2発程度には連射が利くぞ。
相手の意図が僕にはさっぱり分からないが、それでも迎撃の必要があることには変わりない。
こちらへ突っ込んでくるアホ共に対して魔術を撃ち込む。
狙うのは足、出来ればひざ。運がよければ助かるだろう。
エルは風の魔術で吹き飛ばしているらしく、骨の折れる嫌な音が何度か聞こえた。
氷の魔術を4発撃って中央付近の4人を無力化。
続いて最大出力のスタンロッドを具現化させて左翼に位置する3人のアホ共に突っ込む。
一人目が反応出来る前に首筋にスタンロッドを叩きつけると髪のこげる嫌な臭いがして一瞬で絶命する。
二人目が振るう剣を魔力障壁ではじき、三人目の剣にはスタンロッドを叩きつけて感電させる。その隙に胸を蹴りつけると2mは吹っ飛んだ後に動かなくなる。
一度ステップアウトし、左手の魔力を魔術に変換して2発撃ち込む。
チャージ量が少なかったため最初の魔術ほどの威力は無いが、それでもわき腹と右足を抉り、死亡していないものの戦闘不能状態にさせることができた。
これで半分の敵が無力化。
次はエルの援護と思ったけど、既に残り一名。
それもたった今風の魔術で吹き飛ばされて戦闘不能に。
リーナさんを完璧に守りながらも殲滅速度は僕とほぼ同じ。
もう全部エル一人でいいんじゃないかな。
野盗のリーダーは目の前の光景が理解できないのか完全に固まっている。
メンバーは全員が倒れており、既に戦闘の意欲は無い。
「まだ生きている人は多いですし、応急処置だけでもしたほうがいいですよ?」
「・・・見逃してくれるのか?」
「そもそも僕は快楽殺人者ではないので、こちらから攻撃することはありません」
「そうか・・・ありがとう」
うわっ、まさか野盗のリーダーにお礼を言われるとは思わなかった。
しかも口調がまるで違うので違和感が凄い。
・・・いや、違和感があるのはそれだけが原因じゃないな。
ほら、僕、なんせ、殺してるからね。
「・・・エル、リーナさん。帰ろう」
「わかった」「わかりました」
覚悟はしていたけどなんだか一線を越えた気がして嫌な気分になる。
帰っておいしいものでも食べて忘れてしまいたいが、忘れられるだろうか。