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異世界で生活することになりました  作者: ないとう
備え無ければ野垂れ死ぬ
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2

街中作業を一つ請け負い、終わらせる生活を続けること三日間。

僕のギルドランクはFとなり、簡単なものに限るが町の外の依頼を請け負えるようになった。

なので今回の僕の仕事は薬草回収。

外に出ることになるので危険が伴うが、目的が討伐ではないため危険度は高くない。

にもかかわらず街中作業と比べて報酬がかなり大きくなるのでこれらの依頼を受けない理由は無い。

何より1人日いくらで雇われる街中作業とは違うため、エルを顕現させておけるのが大きい。

エルだっていつまでも僕の中で待機は暇だと思うんだ。





時刻は午前10時。

ギルドからプランタ草20本を集める依頼を請け負った後、僕たちは朝食のために町を歩く。

朝食の時間には少し遅いが、さっと食べれるものを出す屋台があちこちにあり、街中を活気付けている。

どの料理もおいしそうで迷ってしまうが、今回はあそこのデカイ肉を焼いている屋台にしようかな。

近づいてみると香草の香りと肉の焼ける香ばしい香りが強くなり食欲をそそる。

販売しているのはどうやら焼いた肉を挟んだ惣菜パン。

値段を見てみると銅貨2枚とかなり安い。


「その惣菜パンを二つください」

「あいよ!」


ケバブを販売する屋台の店主に銅貨4枚を渡し、代わりに惣菜パンを二つ受け取る。

店主にお礼を言ってから一つをエルに渡し、もう一つにはそのままかじり付く。

工業的に生産したイーストが無いからか、パンにはちょっと酸味があるがフィリングの甘辛い味付けの肉と相性が良くおいしい。

個人的にはもう少しフィリングが薄味のほうが好み。

横目でエルを見るとニコニコしながらパンをほお張っている。


「コレも美味しい」

「この甘辛い味付けがたまらぬ」

「こっち来てからまずいものってあんまり食べた記憶がないや」

「・・・主はまずいものが食べたいのか? 妾は遠慮するぞ?」

「そうじゃなくてさ、この町に着いてからコレで8食目、無作為に選んだ店舗から料理を買っているのに一つも外れが無いなんて凄いな、と」

「この町だとこのように競合が多いからな、多分評判の悪い店はすぐに人が来なくなるんだとおもうぞ」

「確かに、コレだけ店が多いとなるとそれも納得」


惣菜パンを食べながら歩くと目の前には東門が見える。

これを抜けるといよいよ治安の良い街中は終わり。

出来れば素早く薬草を回収して終わらせたいところ。

そうなれば危険な生き物に出会うことなく依頼を達成できる。


門の両脇で構える兵士の方に軽く会釈をして門を抜ける。

来るときは気にも留めなかったけど、まるで検査とかされないのね。

この町の治安は果たして今後維持されるんだろうか?




さて、僕たちは薬草の生える森の中にやってきた。

東門を抜けてからここにいたるまでの描写は”何も無い草原をただひたすらに黙々と2時間歩く”という悲しいものなので詳細については割愛させてもらう。


「どうやって見つけようか?」

「歩いて探すしかないだろう」

「いい方法とか、群生しやすいとことか無いの? 前に銀貨3枚分も見つけてたじゃん」

「あれは完全に偶然だ、プランタ草が群生しているのは結構珍しいぞ」

「そっか・・・うーん・・・。しらみつぶしってなんだか非効率的な気がするんだけど、でもほかに方法ないもんね」

「お互いが見える範囲で少し離れて地面を探せばいいと思うぞ。それほど珍しいものではないし、20本くらいすぐに見つかるであろう」


こう、エルの知識でスパッとってわけにはいかないか。

探せば見つかるらしいし、とっとと見つけて帰ろう。

確かオオバコっぽいデザインだったはず。




・・・お、あった、これだ。

手元にはオオバコとよく似た植物。

相違点といえば群生していないことと、花が赤いことくらいか。

葉の形などはよく似ていると思うが、花の部分の印象が強くてその他はあいまいなのでひょっとするとずれた事を言っているかもしれない。

回収したプランタを左腰のドロップポーチに突っ込んで次を探す。

しかしこれで銀貨3枚か、冒険者じゃなくても儲かるんじゃないの?





結局3時間も探索した段階で僕が8本、エルが17本発見して依頼は十分に達成された。

後は帰るだけ。こういう探索では無事に帰るまでがお仕事です。



「「「グルルルルルルル」」」

「・・・・・・・・はあ」



・・・そう、帰るまでがお仕事です。

目の前にいるのは随分と好戦的な狼たち。

数は見える範囲で4匹。

なるほど、このリスクは冒険者に払わせるに限るのかもしれない。

仮に何の戦闘能力も持たない人が出会ったら人生が終わって食料に早替り。

Fランク冒険者の平均戦闘能力がどれほど高いのかは知らないが、これって結構きついんじゃないか?


「主! ボケッとするでない!」


どうでもいいことを考えてるうちに狼に距離を詰められたらしい。

エルは狼と僕の間に割り込み、魔力障壁を展開して狼の突撃をいなす。

続いて魔力障壁に頭をぶつけた狼に対してヤクザキックで対応。

狼はごろごろと転がったあと、動かなくなったところを見ると絶命したらしい。


「危なかった。ありがと」

「落ち着くのは後だ、まだ来るぞ」


というか僕も戦わないと、いつまでもエルにおんぶに抱っこってワケにはいかない。

個人的に戦えるのに戦わないのと、戦えないから戦わないの差は大きい。

脳内物質が大量に分泌されているのか戦うことに対する、命のやり取りをすることに対する恐怖心は全く感じない。


右手で腰のホルスターから軍用懐中電灯を引き抜いてからスタンロッドを具現化。

スタンロッドの出力は最大、今までのテストから触れたものが一瞬で黒焦げになるレベルの威力であることが分かっている。

左手の人差し指と中指には魔力を集中していつでも射撃系魔法が使用可能な状態にする。


こちらを伺う一匹の狼に照準を合わせて氷の魔法による射撃を試みる。

魔力によって硬質化した氷柱がライフル弾並の速度で狼の頭に突き刺さり、哀れ狼は血を辺りにばら撒きながら吹っ飛んだ。


もう一匹に対しても射撃を行うつもりだったが、すでにかなり距離を詰められている。

僕は一歩踏み込んで狼との距離を縮めてから右手を振るう。


スタンロッドは自分でも驚くほど正確に狼の頭を捉え、その威力を存分に発揮する。

一瞬で全身黒焦げになった狼は続くスタンロッドの物理的衝撃によって吹き飛ばされて視界から消える。


最後の一匹を確認しようとするとそれはすでにエルによって倒されており、僕の人生で初めての命のやり取りは終わった。




「ふう・・・」

「主、大丈夫か?」

「ん、大体大丈夫。生まれて初めて命のやり取りをしたからちょっと足が震えてるくらい」

「戦闘中は初めてというのが嘘のような落ち着きっぷりだったのだが」

「なんかねー、不思議な感覚だったよ。何も感じないんだもん」


今はよく分からない感情で足がプルプルと震えている。

死ぬかも知れなかった恐怖感によるものからなのか、生き残れたことによる安堵感によるものからなのかは分からない。

ただ、生き物を殺すことに対する嫌悪感っていうのは今も全く感じない。

これは予想になるけど、敵意を向けられているならば多分人だって殺せると思う。


「主・・・」

「大丈夫大丈夫、今はちょっと震えてるけど、すぐに慣れるよ」

「本当か? 妾は主が心配だぞ」

「ホントホント、心配要らないって。ほら、もう薬草だって集めてあるしさ、とっとと帰ろう」

「・・・」

「無理だけは駄目だからな」


そんなに心配しなくてもいいんだけどな。

ただ、その心遣いは確かに僕の心に響く。

がんばろう、きっと大丈夫だ。

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