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異世界で生活することになりました  作者: ないとう
こんにちは異世界
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3

昨日から引き続き草原を歩くこと約2時間、腕時計は10時を示している。

僕の目の前にはガルトの町が広がっていた。

エルから人口や住居などは聞いていたが、数千人の人口を抱える町の光景は想像を超える。


木で出来たRPGに登場するような家や商店、宿屋。

まだ昼前だというのに薄暗い雰囲気を漂わせている酒場。

個人的にはちょっとわくわくするものが置いてあるであろう武器屋と防具屋。

自分の世界には無かった魔法の道具などを扱う雑貨屋。

活気のある町並み、行きかう人々は異世界らしくジェリービーンズのようにカラフルだ。

ただ、ジェリービーンズのようにカラフルなので黒髪の人は今のところ一人も見ていない。

(サルミアッキ味とか人気ないだろうしね)


あちこち見て回るもの全てが初めてで凄く楽しい。

どうしてこんな世界に来たのかは全く知らないが、とりあえず今は観光を楽しもう。

しかし、観光といえば金がかかる。

あたりまえだけど僕は無一文なわけで、どうしたもんか。

何とかしてお金を稼いで塩気のある料理を食べたい。


「なあ、エル」

「どうした?」

「昨日の昼過ぎに換金可能な薬草を拾ったよね。あれを換金しにいかない? 塩気のあるご飯が食べたいんだけど、僕たちって無一文だからさ」

「そうであった、このままでは食事も取れぬ。先に冒険者ギルドで換金してしまおう。ついでに主のギルド登録もだな」





歩くこと10分ほどで目的地についた。

冒険者ギルドはしっかりした石造りの建築物。

木で出来た看板には剣と杖をクロスさせたような絵が焼きこまれている。


中に入るとそこはまさしく冒険者ギルド。

左手奥にはおそらく依頼なのだろう、大量のメモが壁に貼り付けられている。

右手側は軽い食事や酒を出すための小さな丸テーブルと椅子がならんでいて、

まだ昼だというのに酒を飲んで騒いでいる何人かの冒険者たち。

そして中央のカウンターにはギルドの店長らしき彫りの深い顔のおっさんがいる。


「こんにちは」

「ガキが何のようだ、市場は西のほうだぞ」


店長さんに挨拶するなりいきなりひどい事をいわれた気がする。


「いえ、冒険者ギルドの登録と薬草をの換金をお願いしたくて」

「薬草はともかくギルドの登録は15歳からだ。ガキは登録できない、死ぬだけだからな」

「ちょっと待ってください、僕は21歳です! 一体いくつに見えたって言うんですか?」

「嘘をつくな嘘を。お前は15,6、隣のお嬢ちゃんはそれよりもう少し上か?」


エルのほうが上に見えるのか。

かなりショックだ。


「仮に15歳だったとしても登録可能な年齢じゃないですか。」

「さっきも言ったがガキは登録しない、ギルドの仕事は遊びじゃないし、何より死ぬやつも多い。そんなところに15歳ぎりぎりの奴を入れると思うか?」


店長さんに言葉の刃で切り裂かれているとエルが一歩前に出て僕を見た。

なるほど、僕のことを援護してくれるんだな。


「主は成人しておったのか! てっきり15くらいだと思っておった」

「・・・・・・・」

「しかし、身長といい顔といい。・・・いや、すまぬ。」


ええ、そうですよ。

僕はちびですよ、そうですよ。

しょうがないじゃないか、身長なんて遺伝子で決まってるんだから!

牛乳を毎日飲んでもわずか160cmですよ。

顔だってなんだか子供のままでちっとも大人っぽくなりませんよ。

・・・グスン。


「その、すまぬ。そんなに落ち込まないでくれ」

「ありがとう・・・大丈夫だから」


エルが慰めてくれるが、凹むなぁ。

でもまあ、とりあえず今は目的を達成しないと。


「店長さん、どうにかなりませんか? ギルド登録できないと僕たち飢えちゃうんですよ。」


飢える、という単語を伝えると店長さんはなんだか悩んだ表情をしだしてしばらく悩み始めた。



「仕方ない、登録を許可しよう。無茶して死ぬんじゃねえぞ」

「ありがとうございます」

「登録は二人でいいのか?」

「妾の登録は不要だ、登録は主だけでよい」

「わかった。必要事項に記入するから二つ質問に答えろ」


紙を渡さないってことはあれか、識字率とかの問題なのかな。

発展途上国などは字がかけない人も多いだろうし、異世界ならなおさらかな?

さらっとエルが”妾”とか”主”などといってるけど無反応かよ。

僕の世界で”妾”なんていう奴がいたら注目の的だぞ、いろんな意味で。


「まずは名前だ」

『主、このあたりでは名前が先だぞ』

『ありがと、普通に答えるところだった』


念話で素早いサポートが入る。

エルがいなかったらいろいろ困っていたんだろうな。

異世界生活初日からお世話になりっぱなし、エルに何かしてあげられることがあればいいんだけど。


「ユート カンザキです」

「変わった名前だな。次は戦闘手段なんだが・・・正直お前に出来ることがあるとは思ってない」

「それ、ひどくないですか? 確かに戦ったことなんて無いですけど。あー、でも魔法得意ですよ、たぶん」

「ほら、戦闘したこともないだろうが。しかも魔法?お前杖も持ってないだろうが。ともかく聞くことはこれで終了だ。そこの椅子にでも座ってちょっとまっとけ」

「わりかました、ありがとうございます」


店長さんの視線の先を見ると軽食屋の椅子とテーブルがあるのでそこで待っていろということなのだろう。

ちょっとが果たしてどの程度だかは分からないが、ともかくある程度の時間がかかるのだろう。

とりあえず一番近くの椅子に座るとテーブル挟んでの対面にエルが座った。



「さて、これからどうしようか?」

「どうするもこうするも元の場所に帰る方法を探すのではないのか?」

「いや、まあそうなんだけどさ。さすがにノーヒントだとどこから探ればいいのやら」


最終目標は自宅に帰る道を探すことだけど、いきなりその目標を達成するのはかなりハードルが高い。

なにせほぼノーヒントなのだ。

分かっていることは誰かに拉致されて来た可能性がかなり高いってことくらい。

ほかにはなーんもヒントがない、どうしろと?


「それならば古代の遺跡の探索はどうだろうか?」

「ひょっとして技術レベルが現代より高かったり?」

「かなり高いな。実際主の状況を現在の魔法で行うことは不可能だ、あるとすれば古代遺跡の遺物くらいだと考えている」


古代遺跡か、ロマンあるよね。ついでにヒントもありそうだ。

懸念事項としてやはり安全性か。


「その古代遺跡の探索は魅力的なんだけどさ、危険なんじゃないの?」

「非常に危険だ」

「いや、そんなハッキリスッキリスッパリ言われても困る。僕は知っての通りこっち来てから日が浅いし、非常に安全な国に住んでいたから戦闘能力なんて欠片も無いぞ。確かに身体能力や魔力はあるんだろうけど、それをうまく使えないんだよ」

「う、そうであったな」

「あー、でもそうか・・・」


しばらくうだうだと実の無い会話をエルと続けていると

ギルドマスターが手に小さなカードのようなものをもって近づいてきて口を開く。


「おい、ガキ、登録が出来たぞ。こいつがカードだ、無くすと次から有料だから大事にもっておけよ?」

「ありがとうございます、無くさないように大事にバッグにしまっておきます」


カードは金属のような質感だが非常に軽く、油断すると割ってしまいそうだ。

僕はカードをバッグにしまうと、代わりに薬草を取り出す。


「あと、薬草を買い取っていただきたいのですが」

「プランタ草か、良くこんな大量に見つけたな」

「見つけたのは僕じゃなくてエルですけどね」

「そうなのか、あのお嬢ちゃんなかなかやるじゃないか。ともかく薬草は買い取るぞ。銀貨3枚と銅貨25枚でどうだ」


店長さんがそういって銀貨3枚と銅貨25枚を丸テーブルの上に置くが、貨幣価値が分からないのでちょっと困る。

あ、でもまああんまり酷ければエルが反論してくれるか。

僕は丸テーブルの上のお金を小袋にまとめて入れた後、バッグにしまう。


「買い取っていただいてありがとうございます」

「おう、また薬草を見つけたらもってこい。依頼を完遂するなら街中の作業にしとけよ、食うには十分稼げるはずだ」


そういってから店長さんはカウンターに戻った。

これでここでやるべきことは済ませたかな。

最後にさらっと言われただけだが、安全な仕事もあるようだ。

これで今後の食事には困らないだろう。


とりあえず今はおなかが減ったし食事に行きたい。


「さて、お金も手に入ったところでご飯食べ行こうか」

「うむ!塩気のあるものは久しぶりだ」


これってはたから見たらかなり悲しい二人組みに見えるんだろうなー。

僕とエルはギルドを出て・・・あれ、どっちが飯屋だろう?

さっき市場は西のほうって言われたが・・・。

まあいいか、飯屋なんてどこにでもあるでしょ。





適当に町並みを歩くとちょうど昼時ということもあってあちこちで食べ物が売られている。

屋台や定食屋はそこら辺に結構存在するようだ。


「どれにしようか?」

「妾はどの店でも良いぞ。好き嫌いなどはないからな」

「ん、そっか。じゃあ適当にその辺に入ろう」


僕は近くにあった定食屋らしきお店に入る。

外にはテーブルと椅子が並んでおり、今日の天気なら外で食べるのも悪くはない。


「こんにちはー」

「あら、いらっしゃいませ。どうぞ空いている席にお座りください」


店に入ると30くらいの恰幅の良い女性が対応してくれる。

僕とエルが一度外に出て開いている二人用テーブルに座ると先ほどの女性が黒板を持ってこちらに来た。

黒板にはミミズがのたくった様な字でなにやらメニューが書いてある。

メニューの後ろの数字はおそらく値段だろう。


「・・・・・」


「主、どうかしたか?」

「お客様、どうしましたか?」

「いや、なんでもないです。ホロワ鳥のから揚げ定食をひとつください。・・・あ、エルはどうする?」

「妾はこのコルム茸の炒め物定食がよい」

「かしこまりました。ただいまお作りしてまいりますので少々お待ちくださいね」


女性がキッチンに向かい、注文の内容を伝えると再び入り口に戻る。


「主、メニューを見たとき沈黙していたがどうしたのだ?」

「文字がさ、読めるんだよね。生まれてはじめてみる文字なのにさ、こう、ネイティブのように理解できるんだ」


そう、僕は文字が読めるし意味も理解できる。

しかも生まれて初めて見る文字が。

知らないはずなのに知っているという世にも奇妙な感覚が僕の頭の中をぐるぐると回る。


「なんだそんなことか。それは妾との契約によるものだな。基本的にどこの言語にも対応している」

「それは・・・凄いな」

「そうか?」

「普通に凄いよ! 仮に僕が契約せずにこの町まで着いていたとしたら途方にくれてたよ! ・・・エルがいなかったら僕は野垂れ死んでいたかも」

「たいしたことでもないのだが、そんなに喜ばれると妾もうれしいぞ」


さらっと言ってるが本当に凄い!

この能力があれば僕はどこでもぺらぺらネイティブなわけだ。

ああ、エルと共に元の世界に返れたら確実にTOEICを受けに行くぞ。

ライティングはエルと契約している時点で無敵、リスニングはエルと同化しておけば無敵。

間違いなく950点以上だ。素晴らしい!

あっと、思考が変なほうにすっ飛んだ。

今後の方針についてエルと話さないと。


「そうだ、今後の方向についていいかな? さっきはなんだかうだうだ実の無い話になっちゃったからさ」

「うむ、確かに目標と方向性は決めておいたほうがいいな」


「えーっと、まずね。最終目標については元の世界に変える方法を見つけることなんだけど、コレには僕をこちらに連れてきた人がいるわけだ。なので、ちょっと目標をブレイクダウンしてこの人を見つけるって言うのを目標とする。んで、コレも探すのは至難の業だと思うので、次点で可能性の高そうな古代遺跡を探索したい」

「なるほど、しかし古代遺跡はかなりの危険を伴うがいいのか?」

「そうなんだよ、古代遺跡の探索はさっきのエルの話を聞く限りかなり危険。しかも数自体も少なくてたまにしか無いんでしょ?」


なので、と一拍置いてから。


「古代遺跡探索は当面さくっとあきらめて僕は適当に生活していこうと思う」


・・・エルの顔に縦線が三本ほど入った気がする。


「ちなみに、僕はエルをかなり戦力としてみているんだけどどうだろう?」

「主に頼られるのは嬉しいのだが・・・。精霊というのはそれほど戦闘能力に秀でた種族ではないのだ。確かに妾は精霊の中では力を持つほうではあるが、あまり期待をされると困る」

「そっか、了解。幸い魔方陣不要で魔法が使えるみたいだし、身体能力もそこそこあるみたいだからね。訓練しだいで結構がんばれるようになるでしょ」


実際経験があれば後はずいぶんマシになると思うんだ。

なにせいくら走ってもまるで疲れない体に、大量の魔力。

二日目、三日目にいろいろ試したけどバトルライフル程度の威力の魔法ならディレイなしでいくらでも使用できる。

もちろん本物のバトルライフルに比べて精度はかなり落ちるけど、中世レベルの文化の交戦距離では必中も狙えるだろう。


「うむ、主ならきっと大丈夫だ。・・・お、料理が来たようだぞ」

「お待たせしました。ホロワ鳥のから揚げ定食とコルム茸の炒め物定食です」

「ありがとうございます」


僕は料理を受け取りお礼を言う。

目の前に用意された定食は日本でも良く見る鳥のから揚げ定食にそっくりだ。

黄金色の衣に付け合せのキャベツのような野菜。

付属のスープはなんだかよく分からないが、十分にうまみが出ているように思える。

残念ながら主食はご飯ではなくパンになっているが、それでも十分においしそうだ。


「いっただっきまーす」


まずはホロワ鳥のから揚げを一口。

うおおおおお、久しぶりの肉!そして塩気!

から揚げの中に閉じ込められたうまみが油と共に口に広がる!

異世界漂流5日目にしてようやくちゃんとした食べ物が食べれた!


次にスープを一口。

香草の香りがちょっと引っかかるが味自体はとてもおいしい。

鶏がらスープと胡椒の風味が完璧にマッチしており、全体的に非常にバランスが取れている。


最後にパンを一口。

・・・これはちょっといただけない。

全体的にボソボソした食感で、おそらくちゃんと均一な粉を使っていないのだろう。

焼いてから時間が経ってしまっているのも原因のひとつだと思う。

ただ、これについてはから揚げと一緒に食べたり、スープに浸しながら食べると結構改善する。


全体的な評価としては非常においしく、とても満足だ。


・・・ん?

エルが空になった自分の器とから揚げ皿を交互に見ている。

精霊って意外と食べるんだね。


「エル、一個食べる?」

「いいのか!ありがとう!」


ニコニコしながらから揚げをほお張るエルは見ていてとても微笑ましかった。


食事を取り終えたらあとは宿屋とって安全な依頼をこなしにいきますか、と。

「そういえばさ、銅貨とか銀貨とかってどのくらいの価値なの?」

「銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚だな」

「食事のお金が二人分で一食銅貨12枚だったよね」

「うむ、味の割りに安かったと思うぞ」


なんだか自分の世界のお金に直すと銅貨1枚100円くらいなのかな。

そうすると数日の内に金欠になるのはほぼ確定か。

早いところ金策しないとな。

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