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異世界で生活することになりました  作者: ないとう
人は見かけによらないこともある
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4

「そういえば襲われた原因がハッキリとじゃないけどわかったのに全然落ち着いてたよね。こう、もうちょっと怒るかとも思ったんだけど」

「あれはそんな命の危機ってわけでも無かったですし、何よりこんな経験が出来たなら悪くないなんて思ってしまって。だから僕にとって今回の一連の出来事は幸運だと言っても良いと思います」

「そういうものなの?」

「アハハ・・・。何を言ってるんですかユートさん。いっつもアリアに振り回されてればこんなの慣れっこですからね。ゴブリンごときむしろマシなくらいですよ」

「・・・大丈夫? 目が虚ろだよ?」

「そうだ、今回だってそうなんだ。前回だってランドウルフに襲われたし、その前だって・・・」

「・・・・・・」

「きっと次だってこうなるんだ。安全なはずの場所を選んで通っているはずなのになんでこんなトラブルばかり・・・なんで・・・」

「・・・・・・」



前回の精霊説明会が開始されてどれだけの時間がたったのだろうか。時刻はすっかり夕方だ。

徐々におなかが減り始めてきた頃にようやくアリアが一息入れるとすかさずウィルが帰りの相談を持ちかける。

二人とは少し離れていたので何を話していたのかはわからないが、最終的に馬車に戻ることが決定。


そのあとアーウェと別れの挨拶を済ませてから僕らは馬車に戻り、今こうして王都方面へ戻る馬車の上でまったりとした時間を過ごしているというわけだ。


「ねえ、エル」

「どうしたのだ?」

「エルってさ、実はご飯を食べなくても生きていけるってホント?」

「・・・・・・」


あれこれアーウェと話した結果、非常に衝撃的な事実が明らかになった。

精霊というのは高密度の魔力で構成された生き物なので魔力さえ供給されていれば生きていける。

つまり――――精霊に直接的な食事は不要。


冷静に考えてみれば当たり前だが普通の精霊は人里に下りてこない。

なので普通の食事だって無い。あって果物とか木の実とかそれくらい。

じゃあどうやって生活しているのかといえばその辺から魔力を回収していれば大丈夫なんだそうで。


僕からすれば点滴で生きるようなものに思えるので酷く味気なく感じてしまうが、精霊にとってはそれが普通なのだから気になるわけも無い。


“宿はどうでも良いから食事は取りたい”なんて最初のころから言ってたエルを考えればこの衝撃的な事実を理解するのに時間が掛かってしまったのは仕方が無いことだと思う。

ちなみに食べ物を魔力に変換する場合、変換に必要な魔力と得られる魔力の差がほとんどないので酷く非効率とも言われた。ナンテコッタイ。


「えっとだな、確かに妾はそこら辺で魔力を取り込めば食事をせずとも生きることが出来る。ただ、生というのはただ無為に過ごすだけでなく楽しむことも重要だとどこかの先人も言っているし――」

「エルの分の食事をカットするとかありえないからそんな焦らずとも大丈夫だよ」


やたらに焦ったようなエルを見たら頭で考えるよりも先に脊髄反射で言葉が出た。

大体散々世話になっているエルに対してそんな仕打ちは出来ないだろう、常識的に考えて。


「・・・実際問題、主の負担になっているのは間違いないのだぞ?」

「負担ってもそんな高いわけじゃない。それにいまさら一人で食事なんて悲しくなっちゃうよ」

「ホントかっ!? あーもう・・・、心配して損したではないかっ」


まるで捨てられた猫のような姿から一転、花が咲くような笑顔を浮かべるエルを見るとこちらまで嬉しくなってしまう。

これはがんばって料理を作らねば。


「あはは、心配させたお詫びに今日もがんばって料理を作るからさ」

「ありがとう。すごく楽しみだぞ。今日のメニューは何にするのだ?」

「オイル漬けのドライドトマトで作ったスパゲティと昨日と同じタイプのスープかな」

「ドライドトマト?」

「あー・・・。そういえばその辺の固有名詞も違うんだよね。ほら、ボロネーゼにも使うあの緑の丸っこい野菜だよ。あれを乾燥させて食用オイルと塩と香辛料で漬けた食べ物。なんにでも合うから便利なんだよ」


小首を傾げるエルだったが、僕の説明で納得したのか「ああ、ソラクムの実か」とつぶやいてから再び表情に笑顔が戻る。

なるほど、トマト=ソラクムね。ひとつ賢くなった。

・・・とても全てを覚えきれる気はしないが。


「それは凄くおいしそうだぞ。確かにあの香辛料の香りはなんにでも合いそうだな」

「そうそう、あれは結構なんにでもいけるよ。パンに挟んでも良いし、塩を控えたタイプのチーズとの相性も抜群。ほかにも今回みたいにスパゲティに使ったりね」


ドライドトマト使い道は極めて多い。

そのまま食べることだって出来るし、サラダにも良し、ピザに良し、基本的に和式な洋食にはなんにでも合う。

元の世界に居たときにはしょっちゅうデパートとかで購入していたものだが、こちらの世界にもあるとは思わなくて見つけたときには思わず飛びあがってしまった。

お値段は一瓶で銅貨13枚、美味しさと汎用性を考えると非常に安いんじゃないだろうか。


「うむ、どれも美味しそうだな。王都に戻ったらお店をめぐりたいぞ」

「ちょっと贅沢してなにか食べに行きたいね。・・・そういえばエルって昔からそんな風に食べ歩きとかを好んでしてたの? アーウェに聞いた限りだと人前を出歩く精霊なんて珍しい、というよりエルくらいしか見たことが無いって言ってたんだけど」

「そうだな、確かに人前を出歩く精霊は少ないぞ。妾とあと誰だったか・・・もう300年くらい前のことなので名前が出てこないがそのもう一人くらいだったな。食べ歩きは最初から好きだったぞ。自我がしっかりと出来上がった段階で既にあった外に対する興味が食事に向いたのではないかと思う」


自我が出来上がる?

ひょっとしてあの光の玉の状態では自我が薄いのか?

アーウェを認識して集まってたりしたから無いってわけじゃなさそうだし。

あ、でも確かに会話する能力とかは無かったな。


「自我がハッキリしたっていうのはいつぐらいからなの?」

「この姿になってからだな。人で例えるなら物心ついたころって言うのだと思う。その前の記憶も無いわけではないからなんとなくは覚えてはいるのだが、ちゃんと筋道立てて思い出せるのはこの姿になってからの記憶だぞ」

「ああ、やっぱり光の玉の状態だとそういう自我っていうのは薄いんだ」

「そうだぞ」

「僕のところじゃ全然そういう存在が無かったから、すごく不思議な感じ」

「妾からしてみれば主の所の人達は全員が精霊みたいなものなのではないかと思っているのだがな。ほんと主は妾たちと魔力の質が似ているのだ」


僕の世界の人々・・・。

魔術とか魔力なんて御伽噺の世界の住人だよね。

ガスコンロや電子レンジ、冷蔵庫のおかげである意味全員魔術師のような存在だけどさ。


「こっちじゃ魔力なんて全然だよ。前にも話した科学技術が発達しているからね」

「ふふっ、そうであったな。早く見つけたいぞ。妾は凄く主の故郷に行ってみたいのだ」

「前にも言ったけど歓迎するよ。こっちはこっちで良い所だけどあっちも楽しいところがたくさんあるからね。・・・さて、そろそろおなかが減ってきたな。ご飯作ろっか」


あ、そういえばエルと最初に会ったときって半透明だったな。

魔力の供給が~なんてこと言ってたから魔力不足に近い状態になってたんだろうけど、そもそもなんでそんな状態になってたんだろ?

・・・ま、どうでもいいか。今はご飯を作るのが最優先事項ですよっと。







ナイフを握るのは何のため?

そりゃあ飢えた三人組を満足させるためだね。

少なくとも武器としてナイフを握ることは今後も無いだろうと思う。


昨日と同じように大鍋に水を張り、火をかけてお湯を作ってから塩をだばっと入れてスパゲティを茹でる。

普段より塩の量が少し多いが、今回のソースはスパゲティ側の塩気をきつめにしておいてソース側を薄味にしておくと味のバランスが取りやすいためだ。・・・やりすぎると大惨事になるので要注意。


魔術で作った氷のまな板を少し削って皿状にして、この中にオイル漬けのドライドトマトを投入し、細かく刻んでおく。

次にタマネギをスライスしてからフライパンに投入。

面倒くさいので火力は強め、さっさとしんなりするまで炒める。


ちなみに僕の好みでにんにくを使用していないが、使用したほうが好きな人は多い。


数分でしんなりとしてくるので、そうなったら細かく刻んだドライドトマトをオイルごと投入。

今度は火力を下げてからタマネギが完全にあめ色になるまで炒める。

水分が少なくなって焦げそうになった場合は水を投入してあげるといい。


そうやってタマネギがあめ色になるまで炒めた後に塩で味付け。

本音を言えば胡椒が欲しいが、無かったので仕方が無い。


同時にスープも作る。

こちらは簡単で、携帯スープを投入してから先ほど刻んでおいたタマネギを投入するだけ。

すごく・・・インスタントです・・・。


ただ、それでも作るのには数分の時間が必要なので、そろそろスパゲティもちょうどいい頃のはず。

ためしに大鍋から一本取り出して味見してみるとやはりちょうど良い具合になっている。

本来はフライパンにスパゲティを入れるが、今回はフライパンのサイズの問題でなべにソースを投入。

ソースを絡めてからしっかりと混ぜればタマネギとドライドトマトのスパゲティの出来上がり。


「よし、いい感じだ。これで出来上がり、かな」


馬車の傍で食事を待つ三人を呼んでお皿にスパゲティとスープを盛って食事の準備は完璧。


「香りが凄い食欲をそそるわね・・・」

「毎回思うけどコレは反則的な出来だと思う」

「おおう・・・。毎回美味しそうだ。主の料理の幅は凄いな、同じ物食べた記憶が無いぞ」

「なるべく飽きられないように頑張るよ。さすがにそろそろ限界が近いけどね」


フォークでズルズルとスパゲティを食べる三人組みを見るとニヤニヤしてしまう。

自分の扱えるものが良い評価を受けるというのはやっぱり凄く嬉しいな。


「野菜の甘みとドライドトマトっていうんだっけ? あっさりしてるのに妙にうまみがあるもんだから量があるのにぺろりといけそう」

「ソース自体は薄味なのに噛み締めるとちょうど良い味加減になるのが不思議です」


二人の感想でさらに顔がニヤける。

ちなみにエルは無言でバクバクズルズルと食べ続けているので感想は食後じゃないと聞けそうに無い。

顔が楽しげなのでたぶん今回もなかなかの高評価を得ることが出来ただろう。


結局、あっという間にスパゲティもソースも片手間で作ったスープも完食されて鍋にはわずかな油が残るのみ。

これを高圧洗浄器でキレイにして馬車に積み込んで今日も無事に終了。


明日は何を作ろうかな。

いや、ほんとそろそろレパートリーが底を突きそうだ。

パスタの具に使ってないのはフリーズドライのキャベツくらいしか残ってないし、これも量があるわけじゃないからなぁ・・・。

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