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異世界で生活することになりました  作者: ないとう
人は見かけによらないこともある
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2

チェネスという場所はどうも王都とガルトの間くらいで、そこまでは大体一日とちょっとで着くらしい。

依頼終了後にその辺で降ろしてもらってガルトまでのショートカットだ、なんて思ったんだけど周辺に集落なんてものは存在しないらしくて完全にぬか喜びをしてしまった。

ちょっと考えてみれば食べ物を前もって4日分も買っているし当たり前か。


交渉次第で分からないところもあるけど、おそらくこの依頼を終えてから一度王都に戻り、その後乗合馬車であちこち経由しながらのんびりとガルトに戻ることになりそうだ。


馬車の乗り心地は意外なことに前よりもかなり良好で、速度の割りに振動が非常に少なくて快適。

さらに木で出来た居室の上に座ったり寝そべったり出来るので風景をパノラマで楽しむことだって出来る。

こんなだったら馬車の旅も悪くはないなぁ。


・・・自分より若い人間に御者台を任せてボケッとするというのもどうかと思うんだけど、実際問題できることは何一つ無い。

僕に出来ることといえばご飯を作ることと何らかの敵が現れたときにそれを迎撃すること位だ。

依頼の内容的には全く問題ないはずなんだけど、それでも心情的に・・・ね。


御者台に座るウィルとアリアの方に目と耳を向ければ相変わらず適当な会話を続けているが、よく話の種が尽きないものだと思う。

あんまり聞き耳立てるのもあれなので微妙に聞こえる会話のみが頭に入るが、学校の話が多くて思わず自分の大学生活を思い出してしまった。


「主が学生だった頃はどんな生活をしていたのだ?」

「いや、今も学生なんだけど・・・」


既に一ヶ月以上自主休校してるけど僕は大学生ですからね?


「そういえばそうであったな」

『なら、主の学生生活について教えてくれ』


エルは学生二人の話に触発されて随分と気になっているらしい。

わざわざ念話でってことはもう包み隠さず話してくれって事に違いない。

が、今はともかくとしてただの大学生の生活にそれほど面白い点があるかというとまた微妙なんだよなぁ。


『基本的に学生なんだから勉強してるだけだよ?』

『どんなことを勉強していたのだ? ほかにも“げーむせんたー”だったかで遊んでいたと言っていたではないか』

『うーん・・・。まず僕はいわゆる情報系で主にコンピュータに関する勉強をしていたよ。コンピュータっていうのは・・・なんだろ、こちらの世界に対応するものが無いからちょっと説明しづらいんだけど、人の生活を豊かにする形の無いものを作るための道具だと思ってくれればいいかな』

『形が無いのに豊かになる? 魔術のようなものか?』

『ある意味近いのかも。たとえばこの世界で商売するときにさ、買い物してもらった相手の性別、年齢、季節、金額なんかを全て記録しておいてさ、来年からはその記録を使って“コレを沢山仕入れとけば売れる”とか“これはちょっとでいい”なんて自動的に判断してくれたりしたら便利でしょ?』

『そ、そんなことが出来るのかっ!』

『いろいろ手続きが必要だけど出来るよ。とにかくコンピュータっていうのは膨大な量の情報を集めて丸めて扱いやすい形にするのが得意なんだ』

『・・・凄い、な。主はそういったことを勉強していたのだな』

『うん、でも学生だからまだそんなにあれこれ出来るワケじゃないけどね。あとは一般教養とかだからこっちと同じだと思う』


あれこれ聞き続けるエルに対して律儀に答え続けること30分くらい。

話題はいつの間にか大学の内容から普段の生活に移り、僕のぐーたら生活が半分以上あらわになってしまった。・・・エルが相手じゃなかったらまず話してないな。


『なるほどな。じゃあ“げーむせんたー”とはなんだ? ゲームというくらいなのだから遊ぶ場所なのだろう?』

『ゲームセンターは僕らの世界における割りと一般的な娯楽施設で、たとえば魔術で作られた仮想のターゲットが次々出てくるからそれを魔術で迎撃し続けるとか、やっぱり魔術で作られた仮想の馬でレースしたりとか、そういうゲームが出来る場所だよ』


たぶん、間違ってないはず?

微妙に違ったとしてもエルは興味津々といった具合に目を輝かせているので期待には沿えたと思って良さそうだ。


『魔術で遊ぶ、か。今まであまり考えたことが無かったが言われてみればいろいろ出来そうだな』

『出来ると思うよ。たとえば今から出来る手軽なので考えれば・・・。そうだな、一人が空に円盤状の氷を撃ちだしてもう一人はそれを何らかの魔術で撃ち落すとかさ。やるとしたら円盤を投げるのは僕じゃ無理だからエルにお願いすることになると思うけど』


僕が投げると多分超高速でかっ飛んで行ってしまう。

調整の出来ない自分の体がちょっともどかしいなぁ。


『それは面白いかも知れぬ、ちょっとやってみたいぞっ』

『僕らだけでやるといろいろ問題かもだからアリアとウィルも巻き込んでみようか』

『うむ』


のそのそと居室の上から御者台に頭だけ出すと暇そうなアリアにそれを優しい目で見るウィル。

なんとも仲が良さそうだ、というより長期休暇で一緒に旅行に行くくらいなんだから当たり前か。


「暇ねー。なんか面白いこととか無いのかしら」

「さすがに馬車だからね。でも魔獣の襲撃とかがないのはほっとするよ」

「来たら来たで片付けてやるわよ」

「そういって前も危なかったじゃないか」

「・・・まさかあんなにゴブリンの群れが襲ってくるとは思ってなかったのよ」


ん、幸い暇してるな。

これなら食いついてくれるかもしれない。


「暇ならちょっとゲームを考案したからやってみない?」

「暇だしやるわ、ウィルは?」

「僕は馬車があるから・・・」

「それさ、ちょっと教えてもらえないかな? 簡単そうなら僕が代わるよ」


ちなみにこの質問は最初馬車に乗るときにもしているのだが、ウィルに「唯でさえ安い値段で手伝ってもらってるのに~」みたいなことを言われて断られてしまったのだ。

そんな気にすることじゃないのにね。


「え、でも、ほんと申し訳ないですから・・・」

「いいじゃない、ウィルだってずっと手綱を引いてたら暇でしょ。折角代わってくれるって言ってるんだから」

「そうそう、ウィルも遠慮しないで使えるものは使ったほうがいいよ。あとね、僕は今までの人生で馬なんてロクに触ったことがないから凄く興味があるんだ」


にっこり笑ってそういうとウィルはかなり悩んだあとにようやく僕に手綱の引き方を教えることに納得してくれた。

馬車の手綱の引き方は意外と単純で、少なくとも直線がひたすらに続くこの道ではほとんど操作がいらないことも同時にわかった。

これなら裏方作業(魔術で氷の円盤を作る役)をやりながら馬車の操作も出来そうだ。


「さて、それじゃあそろそろゲームの説明を始めるよ。ゲームのルールはとても単純。エルがこのくらいの大きさの円盤を空に投げるからそれを魔術で撃ち落すだけ。速度のある円盤に魔術を命中させるのは簡単じゃないと思うけど、その辺の難易度は円盤のサイズを調整することで解決するから後で感想を聞かせて欲しいな」

「わかりました」「やってやるわ」「待っていたぞ」


馬車の速度をやや落とした後、杖から直径40cmほどの氷の円盤を作り出して皆に見せるとすぐに納得したような表情で頷いてくれた。

おっけ、掴みはよし。あとは実戦だな。


「じゃあとりあえずデモってことで僕が一度やるよ。エル、円盤はコレを使ってくれ」

「了解だぞ」


そういってからエルに作成した氷の円盤を渡して準備完了。


「準備おっけ、いつでも飛ばしてくれて構わないよ」

「主、行くぞっ!」


エルが前方というにはやや斜めに円盤を撃ち出す。

円盤を確認してから魔力を練り上げて直径3mm程度の極小の氷の礫を無数に作成、着弾までのタイムラグから円盤の場所を予想して発射。

相変わらず気の抜ける音と共に撃ち出された無数の礫は僕の狙い通りに命中し、円盤を粉砕して空に氷をばら撒く。

・・・あー、命中してよかった。これで外してたらカッコがつかない。


「と、いう具合かな。ルールは単純でしょ? ちなみにいまさら気づいたけど馬は大丈夫かな。僕の知識だと馬って音に敏感らしいんだけど」

「いつも魔術が飛び交う学院の馬なので大丈夫です、安心してください」

「そ、そうなの? そりゃよかった」


え゛・・・。いつも魔術が飛び交う?

ま、まあ、あのおとなしいウィルが言うくらいだから僕が思ってるほどの危険地帯ってワケではないんだろうけど・・・。


「んじゃ僕は円盤を作っておくから適当に遊んでみてくれ、エルは投げ方とか調整してあげると楽しみやすいかもしれないからよろしくね」

「うむ、了解だぞ。さて、どちらからやるのだ?」

「アリアからやったら? さっきから目がキラキラしてるよ」

「ありがと、ちょっと待って、今杖を用意するから」


楽しそうな声を背中に受けながら僕は馬車の操作、ちょっと地味かもしれないがコレが意外と面白いのだ。

たまに変な方向に進もうとしてしまうのを手綱を引いて調整したり、速度をいじったりするのは単純ながらなんとも奥深い。

これをきちんと操作できるようになるには結構な量の訓練が必要になりそうだ。


「投げるぞ?」

「大丈夫よ。・・・っ! 風よっ!」


僕のときに比べるといくらか低速の円盤めがけてアリアが魔術を放つ。

風の塊と思しき(大気って普通見えないから)緑の塊は円盤めがけて吸い込まれるように進んで行くが、斜めに飛ぶ円盤の動きを予想しきれなかったために失中してしまった。


「おしい。これ、時間があれば杖の魔法陣を書き換えたいかも」

「確かにユートみたいな散弾状の魔術に切り替えたほうが当てやすそうね。ただあんまり威力を下げると今度は円盤が割れないかも知れないわ」

「その辺は調整していくしか無いと思うよ」


なんだか凄く魔術の学校の生徒らしいセリフが聞けた気がする。

僕もエルもそういうのいらないから気にしたことも無かったよ。


「さあ、もう一度行くぞ。準備はいいか?」

「もちろんっ!」







途中ウィルと交代してもらって四人で遊びながら進むと時刻はすっかり夕暮れ。

エルは自分で投げて自分で命中させるのを嫌がったので僕が試しに投げてみたら予想通り円盤が空へと向かって高速でかっ飛んで行き、あっという間に見えなくなってしまった。

ま、その代わりにウィルとアリアが交代で投げてくれたので結果オーライだとは思う。


「いやー。面白かったわ。あんな大きい円盤に当てるのがこれほど難しいとは思わなかったわ」

「そうだね、面白いだけじゃなくて魔術の制御能力の訓練にもいいかもしれないくらいだった」


クレー射撃もどきはかなり好評、楽しんでもらえたようで何よりだ。

最初はなかなか命中しなかったのに、後半からはかなり当ててくるようになったので円盤の直径を途中から小さくしたくらいだ。


「楽しんでもらえてなにより、さて、とりあえずこの辺で野営しよっか」

「わかったわ」「はい」


と、いっても前と同じでやることは意外と少ない。

今回は全員が馬車の居室で寝れるほどなのでテントすら不要。

やることといえばかまどくらいだが、これも僕のバッグから取り出した携帯用のグリル台でほとんど解決する。

大鍋はグリル台に乗らないので地面を掘って竈を作成したけど作業量としては凄く少ない。とてもアウトドアしてるとは思えないくらいだ。


「エルー、鍋に水を張っておくから沸かしておいてくれー」

「了解だぞ」


エルに鍋を任せ、その間に僕はソースを作る。

グリル台の上に置いたクッカーに食用オイルと若干のにんにくと唐辛子を投入。

オイルに十分に香りが移った段階で角切りのベーコンと塩を入れる。

数分でベーコンがカリッと焼き上がり、辺りに香ばしい香りを振りまく。


非常におなかが減る香りだが、状況としてみるならばまだ中盤もいいところ。

お湯が沸くまでじっと我慢で待つこと数分。


「主、鍋の水が沸いたぞ」

「よっしゃ、待ってた」


スパゲティはどれくらい食べられるかわからないのでとりあえず4人で1kgくらいでいいか。

どうせあまったら僕かエルが食べるし。


鍋の中に塩をどばっと入れてからスパゲティを投入し、待つこと7分。

60秒ズレるだけで麺のコシがあっという間になくなってしまうので茹で時間というのは正確に測るのが非常に重要。


「どれどれ・・・。ん、まあまあ」


麺を一本取り出して食べてみると大体アルデンテな感じ、太さがばらついているので若干危険かもしれないが食べれないほどじゃないと思うので全然おっけー。


「主・・・」

「いや、これは試食っていうよりも確認だから。そんな目で見ないでよ」


ジト目でこちらを見つめるエルに苦笑しながらも、茹で汁と固形鶏がらスープをクッカーに投入し、残りの茹で汁を全て捨ててほぼ完成。

スパゲティがさめないうちにクッカーの中のソースを沸騰させ、今度はスパゲティを茹でた鍋にそれを投入してかき混ぜる。

これでベーコン入りのペペロンチーノが完成。いぇい。


「いい香りだな。やっぱり主は料理が上手いと思うぞ」

「ありがと」


バイト代が入る前とか、そういうびんぼぅな時は毎回スパゲティだったからなぁ。

その経験がまさかこんなタイミングで役に立つとは全く思っていなかった。

人生何が役に立つかなんて全くわからんね。


ついでにクッカーに再度水を張り、携帯スープとベーコンを入れて暖めておく。

凄く投げやりだが、これでスープも完成。


「・・・今私が見ているのは現実かしら?」「・・・たぶん」

「大丈夫? ご飯できたよ?」

「え、ええ。作ってくれてありがとう。ほら、ウィルもいつまでもそんな風になってないでしゃんとしなさい」

「すいません。今お皿の準備をしますね」


いそいそとウィルが馬車の中から食器の類を取り出して僕に渡してくるので、それにペペロンチーノをよそって出来上がり。

残念ながらアウトドアなので3品以上作る余裕は無いが、それでもこの世界における野外料理よりは遥かにマシな物に仕上がったと思う。


全員に食事がいきわたった後に一口食べてみる。

ベーコンとにんにくの旨みが染み込んだスパゲティはシンプルながらも唐辛子のアクセントが後引く感じで結構上出来かな?


「このスパゲティは凄く美味しいぞ。塩味のソースなのに辛味が絶妙で飽きが来ないようになっているところが特に良いな」

「そういってもらえると工夫した甲斐があるよ。二人は大丈夫? 抑えたつもりだけど辛すぎたりはしてない?」

「そんなことないです。まさか野外でこんな美味しいものを食べられるとは思いませんでした」

「そうね。十分すぎるほど美味しいわ。もし好みを言わせてもらえるならばもう少し辛くてもいいと思うわ」


うん、どうやら好評のようでなにより。

自分が作った物を食べてもらうときって結構緊張するんだけど、こう言ってもらえると胸のつかえが取れた感じがして凄くほっとする。


「ユート達って携帯糧食とか食べるの? いや、食べられるの?」

「食べられるけど食べたくないよ。あれ不味いし」

「そうだな、あれを食べるのは追い詰められてからで良いぞ」

「ま、そりゃそうよね。こんな美味い食事をする冒険者なんてたぶんユート達くらいよ? ほとんどの冒険者達は携帯糧食で、運がよければ罠で取れた動物が食べられるくらいだもの。全くとんでもない冒険者に仕事を依頼しちゃったかしらね。これからは一体どうやって携帯糧食を食べればいいのよ」

「その辺は・・・たぶん努力じゃない? ユートさんみたいな真似は僕らじゃ出来ないし」

「うわっ、正論過ぎて言葉もないわね。確かに対応策なんて思いつかないけど」


わいわいと会話をしながらも食事は続き、結局やや多めに作ったつもりのスパゲティとスープは少しも残ることなく完食。

こんなにも綺麗に平らげてもらうのは嬉しくて、ついつい気合を入れて食器類を洗ってしまう。

水はね防止のために魔力障壁を展開しながら高圧洗浄器で汚れを落とし、エルの魔術で一気に乾燥。

新品のようにぴかぴかになったそれらを馬車に片付けて食事の後始末も終了。


前と違って美味いものも食べれたし、今日はきっとよく眠れそうだ。

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