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異世界で生活することになりました  作者: ないとう
選択肢とは、選べるようで選べない
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僕はほぼ毎日何かしらの薬草採取の依頼を受け、終わってからリーナさんとゆっくりと会話をする日々を過ごすこと10日間。


話の内容は依頼中の面白かった出来事や、自分の世界の話をこちら風にアレンジしたものなど。後者の話は比較的面白いらしく、リーナさんだけじゃなくてタミナさんやエルまで聞いていた。


最初はおっかなびっくりだったリーナさんもだんだんと慣れてきて、4日目にはもう僕に笑顔を見せてくれるくらいに。そのときはリーナさんの強さに心の底から驚いた。

表現的にあってるのかはちょっと分からないが、そこからはもう坂道を転がるかのように回復して、タミナさんいわくもう普段と変わらないくらいだそうだ。


ともかく今日もお仕事頑張りますか。





「おい、ユート。お前ちょっと王都まで護衛の仕事を請けてみないか?」


今日もギルドで採取系の依頼を受けるつもりだったのだが。


護衛ってあれだよね、危険だから必要なんだよね?

あんまり僕に似合ってるとは思えないなぁ。

・・・大体僕もエルも人前で戦うのは苦手だ。いろいろと。


「ちなみにそれにはなにか理由があるんですか?」

「お前、”気分だ”って返したら断りそうだな」

「そもそもカーディスさんはランクE如きの冒険者に一体どんな戦闘能力を求めているんですか? どちらかと言えば僕は護衛”される側”だと思いますよ」

「ギルドとしては仕事を見てある程度できそうな奴に相応の仕事を振る。そして全体の底上げを行う。コレが俺たちギルドマスターの仕事だ」

「それは買いかぶりだと思うのですが」


期待されるのは嬉しいのだけど、荷が重くないかな。

人の命どころか物まで守るっていうのは簡単じゃない。


「うーん・・・」

「さすがに一人でやれと言っているわけじゃないから安心してくれ。お前さんもこの手の仕事が初めてで勝手が分からないだろうから、今回に関してはちゃんと熟練の冒険者をつける」

「そうですか・・・。それなら大丈夫そうですね」

「主は気にしすぎだ、主と妾ならどんな依頼だって大丈夫だぞ」

「ほら、お前の従者もそういってるぞ」

「分相応の依頼を受けてないといつか痛い目にあいます。僕は平凡で十分です」


素人が高難易度の依頼を受けての急激なレベルアップとかはゲームの中だけで十分だ。

死んだら教会で復活するわけでもないし、十数秒後に指定地点でリスポーンということもない。

重傷を負って倒れたら衛生兵にAEDを押し付けられるだけで健康体に戻るなんてことももちろんない。

最終的な目的のため、少しずつレベルアップをしていきたいとは思う、が、短時間でのリスキーなレベルアップは勘弁こうむる。


「ともかく仕事は頼むぞ。その辺のテーブルで小一時間も待っていれば今回のパートナーになる冒険者が来るはずだから仕事の内容はそいつに聞いてくれ。ついでに王都では武技大会が開催される予定だ。折角だから楽しんで来い、帰ってくるのはその後でいいぞ」

「武技大会ですか? それはちょっと楽しみですね」

「ああ、楽しんで来い」


にやりと笑うカーディスさん。

多分、格闘技とか好きなんだろうな。

僕も格闘技の観戦は嫌いじゃないし、意外と楽しみだ。

異世界だけあって魔法とかで派手だろうし、下手すれば自分の世界の格闘技よりも見ごたえがあるかもしれない。


ギルドの軽食屋で小一時間をつぶすことになった僕は、フィーネさんにジュースとスコーンのようなものを2つずつ注文する。

最近は仕事も安定してきたのでこのくらいの出費なら大丈夫。


しかし小一時間と言うのは何もすることがない場合結構もてあますなぁ。

・・・あ、そうだ。どうせ暇なんだからエルと音楽でも聴くか。

最近異世界談義ネタで携帯MP3プレイヤーの話をしたばかりだし、バッグのなかにはiPodらしきもの(微妙に形が違う)とイヤホンもある。


バッグからiPodモドキとイヤホンを取り出してエルに見せる。


『ほら、前に話してた音楽を携帯できる機械だよ』

『こんな小さな箱で音楽が聴けるのか?』


周りに聞こえるとちょっと厄介かもしれないので一応会話には念話を使う。

エルにイヤホンの片方を渡してつけ方を教えると興味津々といった具合で早速耳につける。

曲の一覧を表示すると知らない曲ばかりなのでシャッフルの文字を選択。


スイッチONにするとエルの表情が変わった。


『主! 主! これは、凄いな!』

『ちょっとした暇を潰すに当たってコレより便利なものはなかなか存在しないと思うよ』


iPodモドキからはどこかで聞いたことのあるクラシックが流れており、エルはとても楽しそうな表情をして音楽を聞いている。


・・・それにしてもバッテリーマークが満タンに近いのは不思議。

リチウムイオンバッテリーって普通長時間放置すると目減りしなかったっけ?




「こんにちは、ユート君」


暇な時間を知らないクラシックで潰していると突然話しかけられる。

顔だけ向けると知らない女性。

年齢は多分20歳くらいだと思う。比較的整ったほうだと思われる顔立ちに青い瞳、茶色の髪の毛をポニーテールでまとめていて、いかにも冒険者といった服装をしている。

左腰には無骨な剣を吊るしていて、正直似合わないと思ってしまった。


「えーっと、どちらさまでしょうか?」

「私はミリア、今回依頼を一緒に行う冒険者よ」


予想してしかるべきだった気がする。

失礼なことしちゃったな。


「・・・気がつくのが遅れてすいません。僕の名前は・・・なんだかもうご存知みたいですが、ユートです」


エルはまだ音楽に夢中だ。

僕はiPodモドキのスイッチを切って片付けつつ念話で一言。


『エル、今回の仕事のパートナーの人が来たから挨拶してくれ』

『う・・・うむ。すまぬ、音楽に夢中で気がつかなかった』


「妾はエルシディアだ、主の従者をしている」


エルの言葉を聞くとなんだか驚いたような表情のミリアさん。

一体何なんだ?


「貴族が冒険者をやっているとは思わなかったわ」


へ?


「貴族って・・・ひょっとして僕のことですか?」

「ええ」

「いや、全然そんなんじゃないですから」

「え? じゃあ何で従者なんて連れてるの? それに服装も縫い目とかかなり綺麗だし、どう見ても上等。とても一般的な冒険者の着ている服じゃないわ」


あー、どうしたもんか。


「服装に関しては・・・まあちょっとあれなので割愛させてください。エルは僕の従者ですけど、偶然の結果そうなってしまっただけです」

「その言い方だとまるいで嫌々みたいに聞こえるのだが」

「ごめんごめん、そんなことないって」

「なんか主従関係を感じさせないわね」

「そもそも僕はエルを従者と思ったことはないです。大事なパートナーですから」

「そういう風に言われるとちょっと恥ずかしいぞ」


何を恥ずかしがってるんだろ?

この世界で唯一僕の秘密を知るパートナー。

そんな存在を従者として扱うなんてつもりは毛頭ない。


「ふーん・・・。まあ確かに冒険者にはいろいろいるし、余計な詮索はやめとくわ」

「申し訳ないです」


ミリアさんは微妙な目で僕たちを見るが、それは当然だろう。

なんせ質問にまるで答えてないし、それで信用しろっていうほうが無茶な話。

でもまあ、知ってる限りを話したところで”なにこの痛い人”ってなるだけだからなぁ。


”異世界からやってきました、この世界のことなぞ何も知りません”なんていう奴が僕の前に現れたら確実に救急車と警察を呼ぶ。


「ともかく仕事をカーディスから頼まれてるから話を進めるわ」

「はい」

「今回の依頼人はバースという商人の護衛で王都までの移動で、期間は予定だけど5日間。報酬は銀貨14枚。何か質問はあるかしら?」


んー、特に気になることはないな。


『エルは気になることある?』

『特にないぞ、主と妾なら大抵の問題は大丈夫だ』

『ミリアさんや依頼主の前で全力はいろいろ問題があるでしょうに』

『バレなければよいと思うぞ』


・・・そういう問題じゃないと思うんだが。


「ん、特にないです」

「そう、それじゃあ早速向かいましょうか」





北門に着くと一台の荷馬車が待機していた。

荷馬車はかなり大きい馬を二頭立てで繋いでおり、荷台自体もかなり大きい。

どう見ても大量のものを運ぶことが可能で、荷物の重量の合計はぱっと見で数百キログラムはありそうだ。

ほかには馬車が見当たらないため、おそらくはこの馬車の持ち主が護衛対象だろう。


「こんにちは、君たちが依頼してた冒険者かな? 私はバースだ。よろしく頼むよ」

「冒険者ギルドのミリアです。よろしくお願いしますね」


僕たちが馬車に近づくと向こうから挨拶があった。

非常ににこやかな表情をした25歳くらいの男性で、どうみても美形。

赤い髪は清潔感があるように短く整えられていて僕から見てもとても好印象。

服装は今まで見たことがないタイプで、ローブとジャケットを足して二で割ったような感じ。


「こちらこそよろしく頼むよ。最近はなにかと物騒だからね」

「依頼を受けた以上ベストを尽くすわ。安心して頂戴」

「そちらの二人は?」

「彼らは私のパートナーよ、ランクはEだけどギルドマスターが推薦するレベル。実力は心配しなくていいと思うわ」

「へぇ・・・あのカーディスが推薦か。そりゃあ期待ができるね。まだ子供だろうに」


「冒険者ギルドのユートです。若輩ゆえ、ご期待に沿えるかどうかなかなか心配ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」

「妾はエルシディアだ。主の従者をしている。短い間だと思うがよろしく頼むぞ」


エルの挨拶を聞くと驚いたような顔をするバースさん。

というより僕とエルの関係を初めて聞く人って大抵驚くんだろうなぁ。


そんな感じで軽く挨拶を済ませてから僕とエルは荷台に乗り込む。

ミリアさんはどうも御者台で護衛を行うらしい。


さあ、王都に向けて出発だ!



・・・何もなければいいんだけど、なんだか全然そんな気がしないんだよなぁ。


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