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短編ハードボイルド

冬枯れの追憶 【短編ハードボイルド】

作者: イチカ
掲載日:2011/02/03

オンナたちよ!

オトコの胸のうちを聞きたくないかい?


徐々に初冬の陽が落ちてきた。

葉の抜けた木々が、痩せた老人のように立ち尽くしている。

日本海側のこの街で、太陽を見ることは滅多にない。

薄紫に染まった情景。

わたしの生き様みたいなものだ。

そこには空虚が広がっている。


今日も日付が変わり、一日が終わるだろう。

ここ数日、客先でのプログラム変更作業が早朝まで続いていた。

久しぶりにマンションに帰る日だった。


水銀灯の眩しいガソリンスタンドに入った。

夏場は「虫」が寄り付いて閉口する。

特に白いクルマはそうだ。

「いらっしゃい」

見慣れた店員が駆け寄ってくる。


高速を飛ばして移動するこのクルマも、一緒に戦う同志であった。

年間6万キロ。

積算計は20万キロに迫ろうとしている。

タイミングベルトの交換は7万キロごとだ。

3回目は再来月に予定している。

それだけ酷使しているからだ。

時速170キロに達する時もあれば、車内で睡眠を貪ることもある。

わたしと違い、よく働くタフな相棒だ。


「軽油満タン、洗車は換算しといてくれ」

3日に一度はここに立ち寄る。

言われなくても、1.800円のワックス洗車である。

すべて会社のカードである。

構わずエンジンオイルも、ガソリン換算で交換する。

壊すよりマシだ。

多分、上得意の部類なんだろう。

給油中、世間話をしてくる間柄だった。


20分後、ハンバーガーショップにカローラバンを滑り込ませた。

スピーカー越しに、注文を聞いてくる。

間欠ワイパーが一定のリズムで細雪を拭っている。


助手席にバーガーとポテト、エアコンの噴出しにLサイズのコーラ。

週に4日は同じものを、とりあえず胃に押込む。

食ったあと、いつも後悔していた。

身体が悲鳴を上げている。

いつまでこんなもの食わせるんだ。。。


少しネクタイを緩めた。

高速の入り口に鼻先を向ける。

交通情報と7時の時報。

いつものオンナの声。

過ぎ去っていく街路灯。

低く単調なエンジン音。

暑めのヒーターブロア。

染み付いた煙草の香り。

無残にも変わらない日常の情景。

胸に冷たい風が吹いていた。

いつの間にか薄紫から闇に変わっていた。


自分の存在を確認するため、夜毎街で飲んでいた。

深夜に仕事が終わっても、必ず一軒立ち寄った。

夜の蝶が仕事終わりに集まる「メシ屋」にも顔を出していた。




いつもの本屋で落ち合った。

わたしを確認すると、小走りにドアを開けた。

「雪ね」

メグミは呟いた。

「ふふ、またマックのセット?」

「ああ」

「このクルマの匂いだわ」

「一度帰ったのか?」

「んんん、お腹すいたわ」

大きくもない胸を反らしながらわたしを見た。

市街地へハンドルを切った。


「また店員さん見てるわよ」

「ん?」

「わたしと貴方じゃ援交に見えるみたい」

ビールグラスを片手に微笑んだ。

爪の綺麗なオンナだ。

「この前もそうだったよな」

そう思われても可笑しくない間柄だった。

14才の年齢差である。

「あたし同い年苦手だもんね」

「おっさん好きだよな」

「そう、あなたみたいなね」


少量の酒で赤くなるオンナだった。

法的には1年、飲酒できるまでには早かった。

取引先の娘である。

通っている短大のバス停で見かけたのが始まりだった。

「また横の大学生たちが合コンしようって、ったくいやらしいんだから」

「興味ねぇのか?」

「今はね、このままがいい」


スーツ姿の会社員に、タイトスカートの短大生。

恋人関係には微妙であるし、親子にはまだ早い。

愛人関係。

そのように見えるのが自然だろう。

「この前もそうよね」

「鰻屋だったよな」

「可笑しい」

「何が」

「わたしたち普通なのにね、不倫でもないし」


父親は5つの携帯電話に、家族には内緒で3つのマンションを持っている。

地場の不動産会社の専務である。

「ファザコンかもな」

「父親か」

「家庭サービスしてるか」

「先週は阿蘇にドライブ連れてってくれたよ」

「楽しかったか」

「全然。。。」

一瞬、メグミの目が彷徨った。

初めて感じたオンナの仕草だった。




緩んだネクタイを解く。

冷たい布団に潜り込む。

ささやかな温もりが次第に窓の結露となっていく。

酒が抜けた頃、明日のプログラムの変更をはじめる。

フロッピーが出来上がるのは、いつも午前1時過ぎである。

気がつくと、微かにオンナの匂いが残っていた。




3年後、わたしは地元に戻った。

新聞を広げると、メグミの父親の会社が倒れていた。

ふと、あの頃の刹那さが蘇った。

元気でいてくれよな。

晴れた窓の景色が霞んで見えた。




モノクロでソリッドな30代前半。。。


雪が降るたび、熊本のささくれた日々が甦る。

黄色の街路灯に照らされた白い小経。。。白い横顔。。。


わたしは40代半ばになっていた。


ブログで書いてきた、短編ハードボイルドです。

尊敬する北方謙三先生ほど遊んでませんが(笑)、オトコとオンナの

すれ違いを描いていきます。


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