第7章 紙から舞台へ
第26話‐公式キャラクターとして
佐倉美咲は会社のビルを出て、夜風に当たりながら歩いていた。
神谷から先日かかってきた電話の内容が、頭の中で反芻される。
――「佐倉さん、先日お伝えしたイラストの件ですが、公式として活用されることになりました」
自分の描いたイラストが、現実のアイドルに関わる公式のものとして認められる。その現実を受け入れることに、少し圧倒される気持ちがあった。
「……公式ですか。やっぱり、現実のアイドルに関わるんですね」
手に持ったイラスト集を軽く抱きしめる。
公式として活用されるということは、ただの作品の評価を超えて、アイドルたちの魅力を現実の舞台に届ける存在になることを意味していた。
その重みを感じながらも、同時にわずかな高揚感が胸に広がっていく。
歩きながら、佐倉は回想する。控室で神谷にイラスト集を渡したときのこと——。
「年若いアイドルに迷惑をかけないようにしなければ」
「友人からの依頼で描く創作物と、現実のアイドルは区別しなければ」
あのときの自分の慎重さを振り返り、神谷が静かに感心してくれたことを思い出す。
「公式として認められた……」
自然と笑みがこぼれ、肩の力が少し抜けた。責任も感じる。だが、自分が描いてきた線や色、構図すべてが、アイドルたちの魅力を形にしたことを思うと胸が熱くなる。
「……やらなきゃ。もっと丁寧に、もっと伝わるように」
佐倉は決意を新たにし、手元のイラスト集をぎゅっと抱きしめた。
第27話‐紙の上の輝き
公式として認められたイラストは、すぐに公式サイトやステージ演出資料、グッズのデザインに反映され始めた。
クリアファイル、ポスター、キーホルダー——どれも佐倉の描いたイラストがそのまま使われ、アイドルたちの衣装や動き、表情が紙の上で生き生きと再現されている。
神谷は運営と連絡を取りながら、プログラム面や公式化手続きのサポートを行った。
「佐倉さんのイラストのおかげで、ステージの動きや衣装の細部も確認しやすくなりました」
運営スタッフの声に、佐倉は静かにうなずく。自分の作品が公式の一部として活用される——その重みを改めて感じていた。
第28話‐控室のにぎやかな時間
その日、レッスンの合間の控室はいつもより少しにぎやかだった。
テーブルの上には、神谷が持ってきたクリアファイルやポスターが並べられている。
そこに描かれているのは——佐倉美咲のイラストだった。
「わあっ!」
最初に声を上げたのは、星乃ルナだった。
「見て見て! これ、私たちだよね!?」
ルナはクリアファイルを両手で持ち、くるくると回りながら眺めている。
白峰ひかりも横からのぞき込み、目を輝かせた。
「ほんとだ……! 衣装までそのまま!」
ポスターに描かれた自分たちの姿は、まるでステージの一瞬を切り取ったように生き生きとしていた。
スカートの揺れ、ライトのきらめき、ジャンプしたときの髪の動きまで細かく描かれている。
青柳ユイは腕を組んだまま、じっと観察していた。
「このポーズ……去年の夏ライブのときじゃない?」
「えっ、ほんと!?」
ひかりが慌てて近づく。
ユイは指でポスターの端を指した。
「ここ。衣装のリボン、あのときのデザインだよ」
「ほんとだ……すごい……!」
桃原みゆは隣で小さく笑った。
「よく覚えてるね、ユイ」
「だって私たちのライブだし」
少し照れたように肩をすくめるユイ。
その横で、黒瀬レイは静かにポスターを見つめていた。
「……動いているみたいだな」
レイの言葉に、ルナが勢いよく振り向く。
「わかる! なんか今にもステージが始まりそう!」
ルナはポスターを持ったまま、軽くジャンプしてポーズを真似する。
「こういう感じだよね!」
「ちょっとルナ、ぶつかる!」
ひかりが慌てて笑いながら避ける。
控室には、くすくすとした笑い声が広がった。
みゆはクリアファイルを光にかざす。
「グッズになると、また雰囲気違うね」
「ファンの人たち、喜んでくれるかな?」
ひかりが少し照れながら言う。
ユイは肩をすくめた。
「絶対喜ぶよ。私たちでもちょっと嬉しいし」
その言葉に、ルナが元気よくうなずく。
「うん! 私、部屋に飾りたい!」
「それはさすがに……」
レイが小さく笑う。
神谷は少し離れた場所から、その様子を静かに見守っていた。
無邪気に楽しむ彼女たちの姿。
その中心にあるのは、佐倉美咲が描いたイラストだった。
紙の上のステージ。
そして、目の前で笑い合う本物のアイドルたち。
二つの世界が、穏やかに重なっていた。




