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会社ではできる女、家では同人作家。 私の描いた衣装が地下アイドルのステージで輝き始めました 〜衣装は物語を着る〜  作者: かも@ろん


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第4章 星が踊る夜

第14話 初めての地下アイドルライブ


ライブ当日。

美咲は駅の改札前で立ち止まった。手に握られたスマートフォンは少し汗ばんでいる。画面には、神谷から送られたQRコード、電子チケットが表示されていた。


「……本当に来ちゃった」


小さく呟く。地下アイドルライブ、もちろん初めてだ。SNSで何度も見たことがあるが、実際に会場に足を運ぶのは今日が初めてだった。


会場の前にはすでに人が集まっている。若者たち、スーツ姿の社会人、Tシャツ姿でグッズを手にしたファンたち。どこかしら楽しげな雰囲気が漂う。


「こんなにいるんだ……」


驚きながら、少し恐る恐る入口に向かう。受付でスマートフォンを見せると、スタッフがにっこりと微笑みながら手続きを進めてくれた。


「はい、どうぞ!」


あっさり入場できた。神谷の言葉通り、対面チケットは必要なかった。


会場内に入ると、暗いフロアと小さなステージが目の前に広がっていた。天井から吊るされた照明が、まだ開演前なのに少しだけ熱気を感じさせていた。


美咲は壁際に立ち、バッグの中から大事に包んだイラスト集を取り出す。


「……ちゃんと渡せるかな」


期待と不安が入り混じった気持ちで、ステージをじっと見つめる。ライブの始まりを待ちながら、美咲はその瞬間を静かに感じていた。


第15話 光のステージ


客席の照明が落ちる。会場のざわめきが広がり、ファンたちは一斉にペンライトを手にして構える。ついに音楽が流れた。ドラムとシンセが奏でる高揚感のあるイントロ。すると、スポットライトが一気にステージを照らす。


その瞬間、アイドルたちが飛び出してきた。


「おおおお!!」


会場が一気に沸き上がる。

美咲は目を見開いた。ステージに現れたのは、Lumiere Stageの五人のアイドルたちだった。


最初に目に飛び込んできたのは、白いオーガンジーのマントをまとい、星刺繍が散りばめられたセンター・白峰ひかり。彼女は太陽のように明るい笑顔で手を振りながら、観客を一瞬で魅了した。彼女が目を合わせると、会場全体が光に包まれたように感じられた。


次に登場したのは、紫色のフリルドレスを纏った黒瀬レイ。彼女は静かに歌い始め、その歌声は会場の空気を震わせ、観客の心に直接響く力を持っていた。しばらくは声を出せないほどの圧倒的な存在感だった。


桃原みゆはピンクのリボンとフリルをあしらった衣装で、天真爛漫な笑顔を振り撒きながらファン一人ひとりの名前を呼んでいた。その優しさが溢れ、胸が熱くなる。


青柳ユイはダンスリーダーとして、青い衣装でステージを縦横無尽に駆け回る。彼女の動きは力強く、かつ柔らかさも兼ね備えていて、グループ全体の調和を引き締めていた。


最後に現れたのは、金色の衣装に宝石装飾を施した星乃ルナ。まだ最年少ながら、その甘えた笑顔と手振りで観客を虜にしていた。その小さな身体から放たれる輝きは、まるで夜空に流れ星が現れたように美しかった。


美咲は息を呑んだ。自分が描いた衣装が、今ここで生き生きと踊り、歌い、光を浴びている——その感動は、イラストで表現した以上のものだった。


第16話 知的な主任のギャップ


ライブも後半に差しかかり、美咲はステージの端で緊張しながらもイラスト集を抱えて立っていた。ペンライトが交差し、フロアの観客たちがコール&レスポンスを繰り広げる。


「うわ……」


思わず小さく息をつく。ステージ上のアイドルたちの活躍だけでなく、観客たちの熱量も凄まじかった。ファンたちは皆、アイドルと一緒に熱狂していた。


その中で、美咲の目に飛び込んできたのは、あの知的な印象の男性、神谷恒一だった。


彼はスーツ姿で真面目な顔をしている。会議室では冷静沈着、情報整理の鬼として周囲に知られている存在。しかし、今──


両手でペンライトを振り、タイミングを計りながら大声でコールを主導している。


「ひかり! 右! 左! ジャンプ! ジャンプ!」


その正確無比なリズムに、周囲のファンも自然と合わせていく。その姿は、まるで別人のようだった。


美咲は目を丸くする。


(……主任、こんなこともできるんだ……)


胸の奥で何かが熱くなる。知的で落ち着いている人物が、ここまで声を張り上げて熱狂している姿。そのギャップに、思わず心を揺さぶられる。


美咲は自分でも驚いた。


──なんだ、この感覚。

尊敬? 憧れ? 照れくさいけれど、間違いなく胸がワクワクしている。


神谷はコールの合間に観客を見渡し、その視線はステージ上のアイドルとファンを繋いでいる統率者のものだった。

美咲はその姿を静かに見つめ、心の中で呟いた。


「……かっこいい……」


その一言が自分でも驚くほど自然に口からこぼれた。

ライブはさらに加速し、アイドルたちが動くたびに観客も声を合わせる。そして神谷──冷静な主任──は、全力でその波に乗っていた。


美咲は胸の高鳴りを感じながら、そっとイラスト集を抱え直す。


(この人の感覚に応えられるイラストを描きたい……)


ライブの熱気と、主任のギャップ。その二つが美咲の創作意欲を強く刺激していた。


第17話 勇気の一声


コンサートが終わり、熱気がまだ耳に残っていた。

美咲はバッグからイラスト集を取り出し、待ち合わせ場所へと向かう。会場の外で、ひときわ背筋を伸ばして立つ人物を見つけた。


それは、あの神谷恒一だった。


「……あの人……神谷さん……」


心臓が大きく跳ねる。声をかけなければならない。

少し震える声で、美咲は呼びかける。


「神谷さん……桜咲です。イラスト集を……」


神谷は驚きの表情を浮かべた。


「……桜咲!? 会社の……君か!」


美咲は頷く。


「はい……先ほどのコール&レスポンス、すごかったです」


神谷は笑いながらも、画面越しに見た美咲の精密なイラストを思い出していた。


「ああ……なるほど、だからこんなに正確に衣装を描けたんだな」


少し気恥ずかしい空気が流れる中、美咲はイラスト集を差し出した。

神谷は受け取り、ページをめくる。


「……これは……一枚じゃないのか?」


彼は思わず息を呑む。一冊にまとまったイラスト集——自分が想像していた以上だった。


「……すごいな……」


神谷は少し間を置き、口を開いた。


「……この素晴らしいイラスト集、凛に渡してほしいんだ」


美咲は首をかしげる。


「凛って…。」


神谷は言葉に慌てて言い直した。


「ああ、わるい、衣装担当だ」


美咲は頷いた。


「分かりました」


神谷に案内され、イラスト集を受け渡す相手の元へ向かう。

神谷のいう凛とは男性であり、Lumiere Stageの衣装担当だった。ステージ衣装を作り続けてきた人物。


その人物を目の前にして、美咲は少し緊張しながらイラスト集を差し出した。


「……こちらです」


凛は手を伸ばし、イラスト集を受け取る。その手がページをめくるたびに、まるで時間が止まったかのように感じられた。Lumiere Stageのアイドルたちが、まるで今にも踊り出しそうに生き生きと描かれている。


「俺がデザインしたLumiere Stageの衣装を着たアイドル……全部か」


凛の声が震えていた。その手が止まらない。美咲は頷き、静かに微笑む。


「はい。依頼通り、衣装の細部も忠実に描きました」


凛は息をつき、目を細めた。


「……すごい……本当に、ここまで……」


少し間を置いて、凛は神谷を見る。


「なあ……神谷、どういうつもりだ?」


神谷は少し気まずそうに笑う。


「……いや、ちょっと思ったんだ。凛が業界に戻ると思って、急いでお願いしたんだ」


凛は目を見開き、声を荒げた。


「業界に戻る……だと? 俺はまだ、衣装担当をやめるつもりなんかない! 今、一番やりがいがある仕事だっていうのに!」


神谷は驚き、言葉に詰まる。


「そ、そうだったのか……」


凛は息を整え、真剣な目で神谷を見つめる。


「俺はこの仕事で、このアイドルたちを輝かせるのが楽しいんだ。衣装を作って、ステージで彼女たちが動く瞬間を見るのが、この仕事の全てだ」


神谷は少し微笑み、頭を下げる。


「……すまなかった。勘違いしていた。でも、桜咲さんに依頼したのは正解だったな」


凛は少し肩の力を抜き、ページをめくる手を止める。


「確かにな……これは……嬉しいな」


美咲は二人のやり取りをそっと見つめていた。

仕事に対する情熱。互いを信じる心。男同士の友情が、ここにある——


凛は笑った。


「……神谷、ありがとうな」


神谷も笑い返す。


「いや、こちらこそ。凛の気持ち、わかってよかった」


イラスト集はただの作品ではない。Lumiere Stageの一年間の努力、凛の情熱、神谷の思い、そして美咲の想い——すべてが詰まった、一冊の宝物だ。


美咲は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。


「……描いてよかった」


第18話 イラストでよみがえる衣装


美咲からイラスト集を受け取った凛は、ページをめくる手が止まらなかった。


「……俺がデザインしたLumiere Stageの衣装を着たアイドル……全部か」


指先でページをなぞるたび、胸が高鳴る。美咲が描いた衣装の細部が、まるで目の前に実物があるかのように感じられた。


「布の重なり、光の反射、動きの表現……全部計算されて描かれてる! ただ描いてるだけじゃない、動きを理解して描いてるんだ!」


神谷は少し離れた場所で、柔らかく笑って見守っていた。


「桜咲さん、やっぱりすごいな……」


凛は顔を上げ、友人に向き直る。


「神谷! 見ろよ、これ! 袖の揺れ、スカートの広がり、マントのふわり感! 全部だ! ステージで踊る姿がそのまま紙の上にある!」


神谷は笑みを深めて頷く。


「凛、お前の衣装の価値を、こうして形にしてくれる人がいたってことだ」


凛はページをめくる手を止めずに言う。


「アイドル一人ひとりの個性も考慮されてる。表情、立ち姿、ターンしたときの布の広がり……全部、完璧だ。桜咲さんには本当に感謝してる」


美咲は少し恥ずかしそうに視線を落とす。だが凛の熱量は止まらない。


「神谷、俺はずっと衣装を作ってきた。だけど、このイラスト集を見ると、衣装が紙の上でまた生き返ったように感じる。これも、お前が頼んだからこそだ。……ありがとう、友よ」


神谷は軽く笑い、凛の肩を叩く。


「いや、凛がこの仕事に本気だからこそだろ。桜咲さんのイラストは、その熱意を見事に映してる」


凛は冊子を胸に抱え、目を閉じて深呼吸する。


「これからも、この仕事、この衣装、このアイドルたち……全部、大事にしていく。桜咲さんの力も借りてな」


ページをめくる音が、静かなアトリエに響く。Lumiere Stageの衣装は、紙の上で再び踊り出し、凛の情熱と神谷との友情、美咲の想いが交わった瞬間だった。

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