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会社ではできる女、家では同人作家。 私の描いた衣装が地下アイドルのステージで輝き始めました 〜衣装は物語を着る〜  作者: かも@ろん


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第1章 運命の衣装

第1話 会社ではできる女


「佐倉さん、この資料、今日中に見てもらえますか?」


「はい、十五分ください」


私は後輩の依頼を受けて、すぐにデスクに座った。

ページを開き、グラフを確認する。

数値を見て、前回データとの差分に目を通す。


(ここ、計算式が一個ズレてるな)


手早くキーボードを打つ。

数式を修正し、整形を施して、説明文を加える。


そして、

「終わりました」


後輩が驚きの声を上げた。


「えっ!?もう終わったんですか!?」


「確認お願いします」


私が送信した資料を見つめる後輩は、ぽつりと呟く。


「相変わらず、早いですね」


社内での私の評価は大体こんな感じだ。


仕事が早い


ミスが少ない


冷静


つまり、みんなが思っていることは一つ。

「できる女」だということ。


けれど、正直言うと、それだけじゃない。


(今日は原稿が進むから早く帰りたいな)


私が仕事を早く終わらせる理由は至って単純。

そう、早く帰りたいから。


理由は明確だ。

同人誌の原稿を描きたいから。


帰宅後、バッグを机に放り投げ、パソコンを起動させる。

ペンタブレットを手に取り、準備を整えてから一息ついた。


「さて……描くか」


私は同人作家だ。

ペンネームは桜咲さくらさき

活動歴は十年。

オリジナルのアイドルグループの物語を描いている。

テーマは友情と成長。

そして、ステージ衣装。


私が一番熱中しているのは衣装だ。

布の質感やデザイン、動きの美しさに心を奪われている。


私はよくこう言う。


「衣装って、動いた時が一番綺麗なんだよね」


スカートがジャンプの瞬間に広がったり、ターンした瞬間にリボンが舞う。

スポットライトが当たった瞬間に、宝石がまるで星のように輝く。

その瞬間こそ、衣装がただの布じゃなくなる時。


「物語になるんだよ」


資料フォルダを開き、目に飛び込んできたのは「海外ブランド新作発表会」のイベント。

私は思わず笑みをこぼした。


「これは……資料集めに行くしかないな」


その時、私はまだ知らなかった。

この発表会が、私の人生を大きく変えることになるなんて。


第2話 新作発表会


発表会の会場は、まるで舞台のようだった。

長いランウェイ。

天井から降り注ぐ白いスポットライト。

音楽が流れ、モデルたちが歩き出す。


最初の衣装は、白いシルクドレス。

肩から垂れた透明なオーガンジーが優雅に流れる。

裾には銀糸で刺繍された小さな星たち。

歩くたびに、その星が光を反射する。


「……綺麗」


私は思わず呟いたが、その瞬間、別の衣装に目を奪われた。


深い群青色のドレス。

夜空のような色合いで、胸元は緩やかなハートライン。

腰からスカートにかけて、グラデーションが美しく流れる。

濃い青から、淡い藍色へ。

スカートは三層構造になっていて、内側は光沢のあるサテン。

その上に細かなチュール、そして一番外側には透明なオーガンジーが重ねられている。

各層にはランダムに大小の星刺繍。


モデルが歩くたび、スカートが揺れ、サテンが光を反射し、チュールが風を含み、オーガンジーの星が静かに流れる。

まるで、夜空そのものが歩いているみたいだった。


「……これだ」


私は慌ててスケッチブックを取り出し、鉛筆を走らせる。

胸元のライン、腰の絞り、スカートの層、星刺繍の位置。

夢中で描き続ける。


その様子を、少し離れた場所から一人の男が見ていた。

神谷恒一、同じ会社の情報管理部主任だ。


彼はちらりとスケッチを覗き込み、

(……すごい)


布の落ち方、スカートの構造、光の反射。

数秒で分かった。

これはかなり正確なスケッチだと。


しかし、神谷は特に声をかけることなく、静かに会場を後にした。


第3話 同人作家のアレンジ


帰宅した私は、すぐに作業を始めた。

発表会で見た衣装を思い出しながら、改造を施す。


でも、そのままじゃダメ。

アイドルステージの衣装にするには、いくつか調整が必要だ。


まず、スカートが長すぎる。

アイドルは踊るから、膝上まで短くする。

三層構造はそのまま残して、内側のサテン、チュール、オーガンジー。

星刺繍をもっと増やして、ライトを浴びて輝くように。

そして、肩に透明なオーガンジーのマントを追加。

端に細かい星刺繍。

走るとふわっと浮き、ターンすると弧を描く。


「これ、絶対ライブで綺麗だろうな」


完成したイラストを見て、私は満足げに微笑んだ。

そして、SNSを開き、イラストをアップする。


「次回作表紙ラフ」


送信ボタンを押すと、遠く離れた場所で、同じイラストを見つけた男がいた。


第4話 推しオタ主任


神谷恒一は困っていた。

スマホの向こうで、大学時代の友人が叫んでいる。


「その衣装どんなだった!?」


男の名前は、朝倉凛。

元有名ブランドデザイナー。

今は地下アイドルグループ

Lumiere Stage

の衣装担当だ。


「写真送ってるだろ」

神谷が言う。


「細部が見えない!」

凛が言う。


「スカートの構造!!」


神谷はため息をついた。


「分かるか」


仕方なくネットで写真を探す。

その時、一枚の画像が目に入った。

アイドル衣装のイラスト。

神谷は少し首を傾げた。


(……ん?)


どこかで見た気がする。

少し考える。

そして思い出した。

発表会の衣装。


「凛」


「何」


「これ、あの衣装に似てないか」


スマホを見せる。


第5話 天才デザイナーの衝撃


凛は画面を見た。

数秒。

沈黙。


そして、


「何これ」


さらに画面に顔を近づける。


「スカート三層構造……」

指が画面をなぞる。


「でもアレンジしてる」

胸元はステージ仕様。

宝石装飾。


さらに。


「このマント」

透明オーガンジー。

星刺繍。


凛は言った。


「これ」


「うん」


「動いたら綺麗なやつ」


神谷は少し驚いた。

凛の目が、完全にデザイナーの目だったからだ。


凛は立ち上がる。


「神谷」


「なんだ」


凛は言った。


「この衣装作る」


「は?」


「作る」


「いや」


「作る」


そして、静かに笑った。


「うちのアイドルに着せる」


神谷はため息をついた。


だが、凛の目を見て気づいた。

大学時代、ファッションを語っていた時の目。


神谷は呟いた。


「……このイラスト描いた人、誰なんだ」


この時、神谷はまだ知らない。

この作家が、同じ会社の同僚だということを。

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