命栄える季節。人と自然のせめぎ合い。
猛暑。
依代の幼木にとっては、エネルギー漲る栄えの季節。
人にとっては、毎年更新される最高気温に悩まされ、暑さに苦しむ季節。
神はその狭間で人の子を観察する。
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!もう無理ぃぃー!!」
神の目の前に人の子がいる。
その者は顔を真っ赤にし、大汗を流しながら崩れ落ちる。
季節は夏、猛暑の昼下がり。
大御神の恵みを受けながら、神は幼木の中で心地よくすごしながら、その者を観察していた。
...
ふむ、どうやら限界のようじゃの。
今まで草を刈っていた人の子が崩れ落ちるのを見て神は呟く。
暑さのせいかの?錯乱気味に吠えておるわw
...
とある田舎の、とある桜の幼木に宿る神、ミカワビメ。
ここに在る神には暑さという感覚は無い。
が、暑さという物は知っている。
かつて人の世に降りた時にその感覚は学んでいた。
...
暑いよのう。
うぬが気持ち、わかるぞ。
現世の身体に在るうちは、この暑さという物はなんとも耐えかねる物じゃよの。
苦痛とも言えるような感覚であったのう。
じゃが、その感覚こそが身体に季節を教え、その時なすべきことを示してくれる。
上手に耐えて、凌いで、それから必要なことに気づいていくのじゃぞ。
まぁ、わしはもう味わいたくはないがの♪
ある種高みの見物を決めながら人の子を見やると、箱の中から何かを取り出し口に運んでいる。
透明な器を手に持ち、白く粉にした氷に色とりどりの果実のような物が載った食べ物だ。
それはもう美味そうに食べている姿をみせられ神は思う。
...ふむ。美しく可愛らしき彩だのぅ。
暑さに苛まれれば、代わりにそこにある喜びも感じとれるということなのだのう。
そう考えると少し羨ましくもある。
久々にわしも、暑さを感じてみたくなってくるわ。
合わせてその美味そうな物も気になるのう。
かつての人の子はささやかなる涼を楽しんでおったが、今世の者達はこの暑さにどう向き合っておるのかのう。
興味は尽きぬ...。
神は今世の人の在り方と文化に、興味は尽きないようだった。
猛暑の暑さは苦しい。
だからこそ、それに伴った楽しみもあるということか。
今世の民は、美しく可愛らしい涼の食べ物を嗜んでいるようだ。
神は惹かれ、逆に羨ましくもなっていく。