見やる神
なんでもない山の中に、少しだけ開けた地がある。
自然の中に人の手が加わり、調和を生み出しているようにみえてくる。
そしてその中に在る神も、ひそかに喜んでいた。
度々に、ここに通って来る者がおる。
草を刈りに来たり、
竹を切りに来たり、
せっせと苗木を植えておったり。
時折は据え付けられておる石の台に座り、何やら思案しておる日もあるわ。
そやつ、見た目自体は割と端麗な顔立ちをしておる。
甲斐甲斐しく我が依代の小桜に話しかけ、愛でておる。
じゃが、現代語かの?
語尾に「でちゅか〜♪」とか、「でち〜♪」とかつけておるのう、聞いてる側としては、少し背筋が走るものがあるわ。
あと、奇行が多いのう。
見やっておれば、いきなり神楽のようなものを踊り出したり、うひひ♪やら、うひょ〜♪やら、掛け声かの?奇声が多い珍妙なる者じゃ。
まぁ、げにおもしろき者じゃ、見ておって飽きんのぅ。
近頃ではわしとしても、其奴が来ること自体楽しみになっておる。
して、その時に何やらをよく飲み食いしておるのじゃが、それがまっこと美味そうでな。
今世の旨しをわしも味わってみとうあるわ。
今度こやつに連れて行ってもらうかの?
そやつの世話のおかげじゃの。
ここは、まさに里山といった感じじゃのぅ。
適度に人の子の手が入りて、少しずつ地の気が澄んできておるようじゃ。
わしの神威もすんなりと吸収しておる。
植え付けた幼木達も、健やかに育つであろうよ。
今後もよろしく頼むの。
この者にも、わしが呪言をたもうぞ。
ますます良き地にしておくれよ...。
今世の物はとても興味深い。
古の神も、今世の物に関心が高まる。
静かに、唯、在る神は、世界に彩りを与えてくれる珍妙なる訪問者に好感を抱きつつあった。