人里に降りし神
秋津洲を、雲が如く漂し神があった。
なにやら地上より穏やかな気を受け、その神は見やる。
そこには一本の幼木が在った..。
皇紀二六**年
一本のある子桜が植樹された。
新たに地に根を下ろしたその大島桜は、記念樹としての人の想いが込められており、偶然にその近くを漂っていた一柱の神の目に留まった。
「ほう...、なかなかどうして。おぬし、心地の良い想いを受けておるのう。」
「おぬしも遠き地より旅をして来て、この地に根を張り始めたのじゃな。」
まだ幼木の大島桜に神は言葉を続ける。
「わしも秋津の地を流れ流れて漂て、今、この地にて、うぬと、出逢うた。」
「これも縁であろう、お互い遠き旅の果てにこの地に辿り着いた。」
「わしからも、この地に根を下ろし生き初めたおぬしに、言祝ぎを賜うぞ。良き大樹となれよ。」
この幼木からは穏やかな気が溢れている。
優しい想いに満ち溢れているこの幼木のなんとも心地の良いことか...。
「....ふむ、これも奇なる縁じゃな。わしは今世を見、巡りとうある。此の縁に依らせて貰おうかの。ぬし、わしの依代となれ。」
かくして、なんの変哲もない一地方の、一農村の山あいの地に、神は降りた。
されば、ささやかなる物語を、この地にて語らう。
かくして、神は地に足をつけ、意識を覚醒させる。
そしてこの地を、豊穣の気が包み出した。