第八話 告白
「……聞きたいことって、何?」
訓練場裏の廃倉庫。その静けさが、まるで舞台装置のようにリアムの真剣さを際立たせていた。セレンは覚悟を決めるように立ち尽くし、リアムを見つめる。
リアムは目を伏せてから、ぽつりと呟いた。
「……君、“この国”の人間じゃないだろう?」
「……っ」
「発音、所作、戦い方、雰囲気……全部、俺の知ってる“男の国”の人間とは違う。最初は気のせいだと思った。けど、何度もよく見てるうちに、もう無視できなくなった。君、本当は女の子だろう?」
セレンは口元をひくつかせた。心臓が暴れていた。
リアムの目が真っ直ぐにセレンを貫く。
「……好きなんだ、セレン。初めて見たときから。あの目が、声が、笑い方が、全部……ずっと惹かれてた」
言葉が刃のように突き刺さった。
──やめて。
セレンは言いたかった。けれど、声が出なかった。
リアムの感情は重く、純粋すぎて、怖かった。今の自分は“女”として育てられた過去を背負っている。その上で“男”として隠れて生きている。だから、リアムのように真っすぐな想いを向けられると、どうしても居場所をなくしてしまう。
「……僕は、君の気持ちには応えられない」
絞り出すような声だった。リアムは少しだけ目を見開いた。
「……誰か、他に好きな奴がいるの?」
「そうじゃない。僕は──」
言いかけて、喉が詰まる。
(“僕は男じゃない”。でも、“私は女でもない”。言えば、全て終わる)
リアムは一歩踏み出した。
「だったら、チャンスをくれないか?僕は本気だ。出自がどうだって構わない。アルデリアの人間だって、僕は敵じゃないと思ってる。君が、君でいてくれるなら──それだけで」
「……リアム、お願い。もう、これ以上は……っ」
セレンは振り切るようにその場を走り去った。
真剣で優しい彼に対する行動が逃げであった事をセレンは恥じながらそうするしか無かったのである。
リアムは追わなかった。ただ、廃倉庫の片隅で膝をつき、頭を抱えた。
その夜、セレンは部屋のベッドで眠れずにいた。
リアムの告白。彼の疑念。そして、自分の弱さ。
(私は……僕は、どうすればよかったんだろう)
もう逃げられない気がした。リアムはほぼ真実に辿り着いている。軍にバレれば──二人とも「処刑」もありうる。
だけど。
リアムのあの目が、声が、あの言葉が、頭から離れなかった。
怖い。でも、嬉しかった。
──それが、もっとも恐ろしい感情だった。