オリエンテーションの日
「おはようございます。」
「早いね。10時くらいからじゃなかったっけ?」
時計を見ると、まだ7時を回ったところだった。今日は大学のオリエンテーションの日。緊張して4時間くらいしか眠れていないけれど、寝坊するよりはましだ。
「早めに出ます。余裕があれば、構内で迷っても大丈夫ですし。」
「確かに最初は迷ったなあ。」
県外の高校出身で、頼れる先輩も同級生もいないから不安もひとしおである。まあ、高校に親しい先輩も同級生もろくにいなかったけど。
「行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
高橋さんは律儀にあいさつを返してくれて、嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったい気持ちになる。幽霊なのに笑顔で話しかけてくれるし、しっかりした素敵な大人の女性だったんだろうなと思う。ちょっと気になるところがあるとすれば、スーツ姿なところと趣味や好きなもののことか。最初は気が動転しすぎて、白い服じゃないことなんてどうとも思っていなかった。
いろいろ考えていたら、大学の門が見えてきた。もうそれなりに人がいる。
指定の教室に入って端の席に座る。この教室の広さだと、結構詰めないと全員入らないかもしれない。
窓の外に満開の桜が見える。日の光を受けて柔らかい輝きを放っている。ぼうっと眺めていると人が続々と入ってきた。みんなおしゃれで華やか……少なくとも、私にはそう見える。
「隣いいですか?」
「あっ、はい。」
まつ毛長い。ピアスしてる?どうしよう。せめてメイクしてくるべきだったか。ここで友達つくっておいた方が……でも何を話せば?なんてことが頭の中を駆け巡る。
「はじめまして。私はー」
結局あっちから話しかけてもらって、名前は?出身は?というテンプレートに則った自己紹介が始まる。これだけでも大変だけど、問題はここからだ。まあ話が弾まない。
そのうちさらに人が座ってきて、彼女はその人としゃべりだす。入っていく勇気はなかった。卑屈すぎるけれど、私は、自分のことを、周りと対等な存在だと思えない。やっぱり大学に入るくらいで変わるわけなかった。
オリエンテーションが終わって門から出るまでに、もらったサークルのビラが大量。全部持って帰るけれど、全部意味ないかもしれない。桜の木の下で楽しそうに話す先輩や新入生……私には縁遠い存在だ。
「ただいま……です。」
「おかえりなさい。」