とりあえず
「それで、私と同居するっていうのは本気なの?」
勢いのままに私を連れてきた彼女(確か倉田さん)は、落ち着いてきたのか、気まずそうに黙り込んでいる。
「はい。」
「この部屋そんなに広くないし、幽霊いたら気になるでしょう?」
「構いません。」
「でも、」
「もし嫌でしたら、とりあえず、3日でいいので私に付き合ってください。」
そこまで言われてしまうと逃げ道が見つからない。
「わかりました。」
「それじゃあ、もう少し詳しく自己紹介させていただきます。」
彼女、倉田由実さんは4月に近所のA大学理工学部の1年生になるらしい。地元は静岡県の田舎町。人と話すのが苦手で友達がいない。趣味は読書、漫画、ゲーム、J-Popと結構普通かつ雑食である。
「私は去年死んじゃって、そのとき28歳だった。生きてたら来月29歳。」
「あの公園の近くで働いてた。趣味は…特に無かったなあ。」
「好きなものとか聞いていいですか?」
「え?うーん…甘いものは好きだった…気がする。」
最近特に何もしてなかったし、好きなものとかあまり思いつかない。死んでから何も食べてないし、テレビも見てないし、買い物もしてない。
「他には?」
「……」
「…もしかして、生前のこと、あまり思い出せない感じですか?」
まさか。はっきり覚えている。それなのに、記憶を丁寧にたどっても、思いつかない。
「すみません。聞きすぎましたよね。」
気まずそうな顔でフォローされて、申し訳ない気持ちになる。
「高橋さんには、ちょっと私の話し相手になってほしいというだけなので。」
「なるべく楽しい話ができるように頑張ります。」
あっ、でも食べるものないので買い物に行ってきます。と言って出て行ってしまった。会話を続けるのが苦手そうだ。終始顔が赤かったし、大丈夫だろうか、この同居生活。
しかしもう受け入れたわけだし、倉田さんの助けにならないと。それに、気を使わせないように、ちゃんと答えられるようにしないとな。