連行
「高橋さんは…何か事情があって、この世に留まってるんですよね?」
「私のせいで居場所を失ってしまったかもしれないと思うと…」
「私は別に公園にいてもいいんですよ。気にしないで。」
私はもう死んでいる。だから、雨にぬれることも、こごえることもなく、この子以外に干渉されることもない。
あの部屋にいた理由なんて、他に会社か公園にしか行けない私が、一番落ち着ける場所だったから、それだけのこと。
生きている人に気を使ってもらって、部屋に戻るなんてことは絶対にない。
「た、高橋さん、」
隣で眉間に皺をよせて、何か考えていた彼女が、声を裏返らせる。
「私と同居、しませんか。」
正気か?
「いや待って。どうしたんですか。」
「私の話し相手になってください!」
「私幽霊なんだけど!」
「人と話すの苦手なんです。練習させてください!」
これ本気の目だ。どうしよう。
「それに、私の大学とこの公園、そんなに離れてないですし、駅に行くならここ通りますし、どうせまた会いますよ!」
確かに会ったら気まずい。と、いうか勢いすごい。
「い、いやいや幽霊が住み着くんだよ!」
「面白そうじゃないですか?」
「いやいや…」
「とにかく一旦帰りましょう。」
「ちょっと!」
この子私に触れるのか!いや、無理やり連れて行こうとしないで!さっきまでのコミュ障な雰囲気は?いや、一周回ってコミュ障だ、これ。
「わかったから、一旦帰ります!」
かくして、私たちは303号室に帰ってきたのだった。