悪役令嬢に転生したので婚約者の運命を原作改変しまくります
ファイエット七歳。彼女は今まさに、前世の記憶を思い出したところである。
そして悟った。自分は『悪役令嬢』だ。
というのも時を遡って三時間前。彼女は『愛する人』に出会ってしまったのだ。
前世、地球という世界の日本という国でぬくぬくと育ってきた女子高生の彼女は【貴族学園に特待生として通い始めた私は、何故か公爵様から愛されています】というコテコテのなろう小説に惚れ込んでいた。
その小説のメインヒーローであるノアが特にお気に入り…というか最早ガチ恋していた彼女は、今世でノアと出会った瞬間頭に電流が流れたような飛び抜けた衝撃を受け意識を飛ばし、前世の記憶を取り戻したのである。
「まさか悪役令嬢に転生するなんて…前世も突然の事故で終わりを迎えたし、本当に最悪…とはいえ」
そう、とはいえ。
今の彼女は大好きなノアの婚約者。
そこだけは救いだった。
たとえ貴族学園に通い始めたらヒロインに彼を取られるとしても、それでも良かった。
これから悲惨な運命を辿ることになる、彼を助けられるのならば…。
彼女は前世の記憶を取り戻したのち、速攻で動いた。
父と母にこれから先国で起こる様々な出来事を予言した。
小説の後書きに書いてあった年表を暗記するほど小説にハマっていた甲斐があったと彼女は自画自賛したが、それはともかく。
結果的に彼女は『予言の乙女』として教会から聖女認定されることとなる。
その後彼女はさらに『予言の乙女』として婚約者であるノアにこれから降りかかるであろう様々な不幸を予言して、回避する方法を授けた。
「これから流行病でご両親と妹を亡くすことになるでしょう。手洗いうがいとマスクの着用、アルコール消毒を徹底してください。それと人混みに行かないように。あとしばらくは白魔術で免疫力を極限まで上げてください」
「これから馬車でのお出かけで山賊に襲われて左腕を失くすでしょう。馬車でのお出かけをしばらくは控えてください」
「これから腹違いの兄と出会うでしょう。彼は悪人ではないですから、無下に扱わないように」
ノアはファイエットの言葉を信じて実行して、そして己が身に降り注ぐはずだった様々な不幸を回避した。
ノアはファイエットに心から感謝することとなった。
そんな生活を送ること十年、ファイエットとノアは十七歳になった。
今では貴族学園に通っている。
…あと一年したら、ヒロインが貴族学園に通い出すだろう。
しかし、ファイエットとノアの関係は小説と違っていた。
「ファイエット、今日もとても深く愛してるよ」
「やめて。私は愛してないわ」
「でも僕は愛してる」
ノアはファイエットのおかげで幸せな幼少期を過ごした。
両親も妹も自身の片腕も失わず、腹違いの兄とも仲良くなり、公爵の爵位を幼くして継ぐこともなく、将来の公爵として真っ当に育った。
彼の腹違いの兄は野心がある人ではなく、ノアやノアの家族にタカることもなく普通に平民として身の丈に合った生活を送っていて、特に拗れることもなくノアにとって良き兄となった。
ノアはファイエットに感謝して、それはいつしか愛に変わった。
ノアはファイエットを心から溺愛している。
「予言したはずよ。貴方はこれから、最愛の女性と出会うわ」
「うん、予言されたね。ファイエットが予言を外すなんて初めてだ」
「外れないわよ」
「外れるよ」
これはファイエットにとって誤算だった。
たしかにファイエットは、ノアのためにわざわざ『予言の乙女』となり予言と称してノアを導いてきた。
しかし、ノア本人にはキツく当たってきた。
ノアとヒロインの邪魔にならないためだ。
だというのにノアはキツく当たられても意に介さない。
「なんで貴方はめげないのよ」
「だって、ファイエットは当たりはきついけどいつも僕を見る時は優しい目をしてるから」
「…っ!」
真っ赤になるファイエット。
そんなファイエットに微笑むノア。
誰がどう見ても、ただのラブラブイチャイチャカップルである。
「愛してるよ」
「私は愛してないわ」
「ふふ」
「なんなのよ…」
ファイエットは、来年を迎えるのが怖い。
今は自分に夢中なこの人が、ヒロインに惹かれていくのを見るのが怖い。
だから、ファイエットは反則技を使うことにした。
ファイエット十八歳。
彼女は今、貴族学園の寮ではなく実家の侯爵家にいる。
貴族学園で既に卒業に必要な単位を全て取ったので、あとは通う必要がないからだ。
何故そこまでして実家に戻ったのかといえば、ノアとヒロインの恋の過程を見たくないからである。
ファイエットはため息をつく。
「私も、意気地なしね」
悪役令嬢がいた方が恋は盛り上がるだろうけれど、ファイエットに苛烈な悪役ムーブは無理だ。
ならば、いない方がマシだろう。
そう言い訳して、ベッドに潜る。
「…どうか、お幸せに」
原作のように婚約破棄するほど関係が拗れることはないだろうし、穏便に解消してお互いの幸せを願えばいい。
婚約を解消されてからの身の振り方は、その後に考えればいいだろう。
そう自分に言い聞かせて、眠る。
胸が締め付けられるこの感じは、ずっとずっと不快なままに残り続けた。
ファイエットがそんなことになっているのは知らず、ヒロインと出会ったノア。
ノアはこの人生において公爵にはまだなっていないし、ファイエットにベタ惚れだし、不幸な目にも遭っていない。
この時点で原作改変極まれるのだが、ヒロインとの関係も原作とは全く違った。
原作では、ヒロインに一目惚れしたノア。
しかしファイエットを愛している今のノアは、ヒロインに惚れることはなかった。
ヒロインの方は、ノアと出会っても原作通り惚れることはなかった。
ヒロインは特待生として平民なのに貴族学院に通うのを生意気だとして貴族の子女に虐められてしまったが、そこをノアに助けられた。
しかし原作通り感謝するだけで、惚れたりはしなかった。
その後も虐められるヒロインを気にかけて優しく接するノアだったが、恋に発展することはお互いになく。
小説の方ではノアがヒロインにぐいぐい行ってヒロインと恋仲になるので、ノアがぐいぐい行かなければそもそも発展のしようがなかった。
二人の仲が噂になる…ということもない。ノアがファイエットにゾッコンなのは有名なので変な噂も起こりようがなかった。
つまり、すべてはファイエットの杞憂となったのだ。
ファイエットとノアにとって、貴族学院最後の冬休み。
ノアはファイエットに会いに行った。
「やあ、ファイエット」
「ノア…とうとう、この時が来たのね」
「ん?」
「あの子と出会ったでしょう?恋仲になったのよね?婚約を解消するのよね?」
「…はぁ」
ノアは、あの子というのがヒロインのことだろうとは予想がついた。
しかし、それは全て的外れなのだ。
「ファイエット、僕は彼女と出会ったけれど、恋仲にはなってないよ」
「…え?」
「僕が惚れたのは、君だけだ。愛する婚約者と婚約解消などしないよ」
ぽかん、と口を開けて間抜けな顔をするファイエットの頬をノアは引っ張る。
「いひゃいわ、ノア」
「僕は本当に君を愛してる。浮気はしてない、婚約解消もしない。わかってくれた?」
「………」
ファイエットは困惑した表情。
ノアはファイエットの頬から手を離すと、ファイエットを抱きしめた。
「ひゃっ?!」
「僕がこんなことをするのは君だけだ」
「ノア…」
ファイエットはやっと、ノアの言葉を信じた。
「…わかったわ。本当に婚約解消しなくていいのね?」
「もちろん」
「これから先、ずっと貴方のそばで貴方を愛していいのね?」
「…!もちろん!!!」
「………やっと言える。愛してるわ、ノア。今更かしら」
ノアは凄い勢いで首を横に振る。
「今更なんて言わない!嬉しい、嬉しいよファイエット!」
「ふふ、ありがとう。こんなに愛してくれて、本当に…ありがとう」
ファイエットの目に涙が溢れた。
まさか悪役令嬢に転生した自分に、こんな幸せがあると思わなかったからだ。
ノアはファイエットの涙を拭う。
「愛してるよ、本当に。これから先、ずっと一緒にいよう」
「ええ、もちろんよ」
こうしてファイエットは悪役令嬢に転生したものの、無事幸せを手に入れたのだった。
その後ファイエットは予言の力が無くなったと教会に申告して、普通の侯爵令嬢に戻りやがてノアと結婚した。
そして子宝にも恵まれ、いつまでも仲睦まじい夫婦となったのだった。
ということで如何でしたでしょうか。
ノアも主人公にゾッコンでしたが、主人公こそノアにゾッコンでしたね。
主人公の想いが報われてよかったですね。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
ここからは宣伝になりますが、
『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』
というお話が電子書籍として発売されています。
よろしければご覧ください!




