分水嶺その1
どんなに、私が道長さまの出世が間違いなく、どれだけ大君の婿にふさわしいかを力説しても、雅信さまは聞く耳を持ってくださらない。
かくなる上は、実力行使をするしかない。
何しろ、転生者の私は、「藤原道長」の未来を知っているのだ。
だれも信じてくれそうにもないので、内緒にしているけれども。
まず、中の君の婿で道長さまの腹違いの兄である道綱さまを抱き込む。
いかに大君が美しく、教養にあふれていることか。もし、こんな良い姫の婿になれば、道綱さまと同様、道長様も幸せな未来間違いなし。道綱さまは、道長様に一生感謝されますよ。
一条帝の母である異母妹の藤原詮子さまも、この縁組には乗り気で、上手くいけば、国母である藤原詮子さまに恩を売ることができますよ。
素直で、まじめな(ちょろい)道綱さまは、すぐにその気になってくださり、道長様に橋渡しをしてくださった。
道綱さまの従者にうまい具合に袖の下を贈り、こちらからも、この婚儀成立のための土台作りを怠らない。
大君にも、大君の侍女にも話を通す。
準備万端整えて、見事に三日の餅まで事を運び、所顕に持ち込んだ。
こうなってしまえば、雅信さまも、認めるしかない。
かくして、我が自慢の娘、倫子は「藤原道長」の妻となった。
すぐ次の年には、倫子にそっくりの、玉のような姫君が生まれた。
「この姫君は、きっと女御になられるよ。」と、雅信さまは手放しで喜んでいらっしゃる。
この分水嶺、水はきちんと良いほうに流れた。