プロポーズのお手紙殺到
うーん。この歌、ぱっとしないわね。官位も低いし、出世はできそうにないわ。
父が、村上天皇の大嘗会で和歌を披露して以来、沢山の殿方から文が届くようになった。
よりどりみどり…と言いたいが、どれもこれも心に響くようなものがない。
村上天皇の父である醍醐天皇の母君は、我が家から出仕された。血筋から言っても、和歌の才能から言っても、現在の私は、売り手市場。この機に、よいご縁をつかみたい。
乳母や乳兄弟の彩乃を通じて、よい情報を流し、殿方の情報もつかむ。
和歌を頂いた殿方から、有望な貴公子を三人に絞り込み、お返事をしたためる。
まずは、「そんなことをおっしゃても、わたくしのことなどすぐに飽きてしまわれるのでしょう?」と、気のない素振りのお歌を添える。
相手の使った言葉を取り入れ、縁語や掛詞を使って、知的な女性アピールをする。
さあ、どのように、さらに良い歌にしてお返しになる?
この駆け引きは、なかなか面白かったが、満足できるお相手は、なかなか見つからない。はじめの三人は、あえなく撃沈。
そんなことを何度か繰り返した。
ねえ、彩乃。最近お文があまり来なくなったわね。
「ひめ様があまり技巧に走ったお歌を送られるからですよ。とても自分ではお相手が務まらない、と引いてしまわれるのですわ。」
そうなの?
「もう少し、お手柔らかになさっては?」
うーん。難しいものだ。
そうこうしているうちに、難攻不落のうわさを聞き付け、『腕に覚えあり』の貴公子からのお文が届いた。よし、今度こそ勝負を掛けよう。