3日
「月の星座だと思うんですけど、これ、カイ先輩はどう思いますか?」
自殺者が出て1週間くらいたったころ、日付のからくりに気付いたかに座の1年生に、カイはいきなり意見を求められた。
驚いた。同時に、少し気が抜けた。
これでようやく幕引きができる……!
自殺者まで出てしまったからには、さっさと終わらせたかったのだが、
「私、かに座なんですけど。1回くらいなら協力してくれそうな友だちも、いるにはいます」
かに座の1年生からの言葉に、カイは耳を疑った。
とりあえず事情を話し、ネタバレを考えていると伝えたところ、かに座の彼女はしし座とおとめ座にすでに声をかけてしまったという。
「人死にが出てしまったのは心苦しいけど」
と前置きしつつも、もし月の星座が正しかったら自分たちも仕掛ける側になってみないかと。
占いサークルの連中は、占いサークルを占いサークルだとは思っていないんじゃないか。何か別のサークルと勘違いしていないか。
カイの頭にはそんな疑念まで浮かんできた。
「……それで今に至るわけ……?」
ひととおり話を聞いて、エミリが半目でカイをにらむ。
室内の部員たちも、あきれていたり怒りの表情を浮かべていたりと、いろいろだ。
「はぁ……学生部とか警察にはちゃんと話をしなさいよ、カイ。とにかく、全員無事なら、明日からちゃんと来てほしいんだけど。あ、一人は近くにいるわよね、さっきまで部室にいたんだから。本当にもう、はぁ……」
もはや、ため息しか出ない。
「……いや、まぁその……悪かったよ、ホントに。エミリもリサも、みんなも。……反省してる」
カイはぺこりと頭を下げた。
いつも明るくポジティブなカイのその姿に、誰も罵声を浴びせる気にはならなかった。
まじめで潔癖なおとめ座の女子部員は、雑魚寝状態のカイの部屋に転がり込む気はなく、自分で終わらせることと、9月2日にカミングアウトすることをカイや他のメンバーに提案し、全員一致した。
「いつまでも続けるのは、いくら何でも無神経だと思う。死者が出ているっていうのに。仲間が本当に帰らぬ人となっているのに」
この言葉に、誰も何も言えなかった。
夏を迎え、狭い部屋で人口密度が高いと、エアコンの効きも悪い。リモート履修OKの授業もあるとはいうものの、全部が全部というわけでもない。
他のメンバーも、ほぼ引きこもりの生活に不便や限界を感じることが多くなったのだ。
ガチャリ。
室内が静まり返っている中、部室のドアが開き、おとめ座の女子部員が入ってきた。
「カイくん。もうカミングアウトしたよね? 他のメンツにこっちに来るようにって、カイくんの部屋のパソコンにメールしてあるよ。もうそろそろ着くんじゃないかな。スマホも電源入れてると思うよ。……エミリ、みんな、お騒がせしてごめんなさい」
全員を見渡し、腰を90度に曲げる。
カイも隣に並び、深く頭を下げた。
二人に頭を上げるように言ってから、エミリが全員に声をかける。
「さて。もう12時回って3日になったことだし、みんなで残りの連中を迎えに行きましょうか。とっちめてやらないとね!」
エミリにうながされ、全員席を立ち、ドアを出て正門へ向かう。
夜のキャンパスは静寂に包まれていた。
占いサークルの部員の話し声が、静かな夜に響き渡る。
月明かりが、少し古びた学び舎の影を長く引き伸ばす。
月に負けじと、星も瞬いている。
夜風はまだ暑苦しいが、心なしか秋を感じさせる。
「あ、あれかな? いたいた、おーい!」
正門まで来て、エミリは少し向こうに人影を見つけて手を振る。
エミリの声に気付き、おひつじ座からしし座までの5人が、手を振りながらサークルメンバーの待つ正門へと走り始めた。
月が星座を移動する日は、2024年のデータに基づきます。