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5日

 エミリの話を聞いていたリサが、ふと気づく。

「あ、4月も5月も、7日だったんですね。事件というか、人がいなくなったの。じゃあ、6月もだったんですか?」

「実は違うのよ。みんなそう予想してたんだけど……」

 眉間にしわを寄せながら、エミリは話を続ける。



 6月5日、双子座生まれの男子部員が病院で亡くなった。

 親とのいさかいが原因で神経を患い、大学にもめったに来ず、新年度になってからはずっと入院していた。

 そして6月5日の夜、病室を抜け出して病院の屋上から飛び降りた。

 看護師の話によると、ここしばらくは彼も安定しており、その日は友だちが数人お見舞いに来てくれて、笑顔も少し見られたという。

 屋上から飛び降りるなど誰も想像すらせず、突発的なものだったのではないかと考えられている。

 病院内ではあったが、深夜だったため発見が遅れ、彼は帰らぬ人となった。


 7月5日、今度はかに座生まれの女性部員が失踪した。

 彼女は、リサと同じ、今年入学したばかりの1年生。

 幼いころから海が好きで、海に近いこの大学を受験し、海の近くのアパートを借りて一人暮らしをしていた。

 レポート提出期限が迫ったこの日、一緒にやろうと約束していた友だちが訪ねたところ、彼女は部屋にいなかった。

 玄関の鍵はかかっておらず、入ってみるともぬけの殻だった。窓も開け放たれており、部屋にはただほのかに潮の香りが漂っていた。

 その後、彼女のレポートが提出されることはなく、彼女の姿を見た者はいない。



「でもな、リサ。一応、共通点というか、傾向みたいなのはあるんだよ。な? エミリ」

 サブリーダーのカイの言葉にエミリがうなずくと、

「ホワイトボードにまとめてやるから、ちょっと来いよ。リサと、ほかのヤツらも。あ、頭こんがらがってるヤツも、みんなまとめて復習しとこうぜ」

 カイはホワイトボードの前に立ち、日付や概要を箇条書きにまとめながら、集まってきたメンバーに改めて説明をし始めた。


 簡単にまとめると、傾向はこうだ。

 全員、この大学の占いサークルの部員であること。

 男女が交互であること。

 いなくなった部員の生まれ星座と、事件や失踪の日に太陽が進行していた星座が同じであること。

 2ヶ月連続で同じ日付であること。


「2ヶ月経って日付が2日ほど早くなったからさ、俺ら8月3日は警戒というか用心というか、まぁ気を付けてたわけよ。できるだけ単独行動をしないように。でも、いなくなっちまったんだよな……しし座生まれのヤツがさ」

 カイは8月の概要をホワイトボードに書き足していく。



 夏休みに入った8月3日、しし座生まれの男子部員が次に消えた。

 彼は研究仲間と研究室を訪れ、教授と3人で論文のテーマについて話していた。

 研究室を出て、部室に顔を出すと研究仲間に告げて一人になって、そのまま行方知れずとなってしまった。

 彼は、しし座のマークがモチーフのごついネックレスを愛用していた。高身長で、髪を美しい金色に染め、容姿もなかなかだ。

 ほんの一瞬でその場から消え失せるなんてことはまず考えられないほど、人ごみの中でも目立つ方だ。

 それでも、いなくなってしまったのだ。

 研究仲間が見送った背中、それが彼の最後の姿だ。



 カイの説明がひとまず終わり、室内は重苦しい沈黙に包まれた。

 その沈黙を破り、リサがカイに問いかける。

「でも、読みは当たったんですよね? 8月3日で、男子部員っていうのは」


 確かに、今はもう、何も分からないまま右往左往するばかりではない。

 傾向が分かれば、対策も講じられるというものだ。


 エミリもホワイトボードの前に立ち、

「読みは当たったから、これからは対策を練る段階に入らないとね。次のXデーは、9月3日。みんな、家にいても旅行に出かけてもいいけど、とにかく一人にならないようにね。これ以上誰も欠けることなく、大学祭を楽しむために! じゃ、今日はそろそろ解散しましょう。帰り道、気を付けてね」

 全員に注意を促した。


 みんなが帰り支度をしたりわらわらと部屋を出て行ったりする中、ホワイトボードを見つめてエミリが言う。

「ホント、こういうのまとめてみんなに伝えるのうまいよね、カイって。占いの方はからきしみたいだけど」

「うるせえ。ほっとけ」

 苦笑いするカイと、いたずらっぽい目をカイに向けるエミリ。

 そんな二人を見ながら、リサは微笑む。

 最後は3人そろって部室を出た。



 8月が終わって、9月になった。

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