7日
占い師、また通りがかりで参加いたします。
8月下旬、夜のキャンパスは静寂に包まれていた。
月明かりが、少し古びた学び舎の影を長く引き伸ばす。
月に負けじと星が瞬き、まるで何かを告げるかのように空に輝いている。
まだ生温かい風が、枝葉からのぞく星を覆い隠すかのように、校舎沿いに並ぶ木々をざわつかせる。
ある日の夜、占いサークルの部室の窓には、薄暗いランプの光が揺れていた。
夏休みの真っただ中ではあるが、秋の大学祭に向けた準備のために、どこのサークルの部室も朝から晩まで毎日のように学生でにぎわっていた。
占いサークルもその一つだ。
「……そういえば、太陽がおとめ座に入ったね」
リーダーのエミリが、使い慣れた占星術の本をめくりながら、ぽつりと言った。
その言葉に、部室の空気が瞬時に凍りついた。
サークルの誰もが知っていた。ここ数ヶ月、毎月一人ずつ、サークルのメンバーがいなくなっていることを。
そして何人かはおびえていた。次は自分の番なのではないかと。
「……まさか、また誰かが……?」
しばらく沈黙が続いた後、新入生のリサが不安そうに呟いた。
「最初は4月……だったんですよね?」
「ああ、リサは入学直前だったし、この間うちに入ったばかりだし、あまり知らないかもしれないわね。……そう。春から毎月一人、このサークルの人がいなくなっててね……。学祭の出し物、いつもの鑑定ブースだけでなく、講堂を借りてこの事件についての考察も発表するかもだから、今日もみんなに集まってもらってるんだけど……」
学生課などでも少し調査を始めたようだが、やはり表立った話ではない上そのまま夏休みに入ってしまったため、不穏な噂や憶測はサークル内部だけにとどまっている。
「夏休み前にこのサークルに入ってきた人もいるし、ここで少しまとめておきましょうか」
そう言って、エミリはこのサークル内で起きているであろう事件について話し始めた。
4月7日、おひつじ座生まれの男子部員が突然姿を消した。
一人暮らしの彼の部屋には血のついた鉄製のスパナが残されており、彼はこのスパナで危害を加えられたとみられる。
スパナに指紋などは残っていない。スパナはその辺のホームセンターなどで容易に入手できるものだが新品ではないため、最近の購入者を特定したところで参考にはなりそうもない。
そもそも、殺されたのだとしても彼の遺体は発見されておらず、生死不明というよりは行方不明扱いとなっている。
気ままな一人旅に出たのではないかなど、大学生の気まぐれな雲隠れと言われてしまえばそれまでだ。
遺体の発見でもない限り、警察が積極的に捜査に乗り出すことはないだろう。
5月7日、おうし牛座生まれの女子部員が次に消えた。
おっとりしていて、進級してもなかなか新しい友達ができなかった彼女だが、4月も下旬に差し掛かったころ、ようやく新しい友だちに恵まれた。
ゴールデンウィークが明けたその日、彼女はその友だちとお茶をして帰るとのことで、サークルの部室に寄ることはなかった。
その日以降、彼女がサークルに顔を出すことはなく、また彼女を大学内で見かけた人もいない。
一緒にお茶を飲んだ友だちは、お茶をして別れたと言い、その後も変わらず授業に出ている。
彼女だけが行方知れずとなった。
「この2件だけならただの偶然だと思えなくもなかったんだけど、6月はいよいよ笑えない事件があってね……」
エミリが一息ついたところで、リサが言葉をはさむ。
「先輩、とりあえずランプで雰囲気出すのやめましょうよ……」
リサの言葉に、
「……だな」
「やっぱ薄暗いよね」
「オレ今、視力落ちてきてるし」
他の部員が口々に同意し、みんなでランプを消し、電気を付け始めた。