牛と海
量子は、伊勢佐木モールにある牛丼屋うし家に飛び込んだ。
腹が減っても戦はできるけれど。
食べながらでもメールは見れるである。
行儀は悪いので気をつけて。
「牛丼並お願いします」
「天津さんタブレットもありますからねえ」
いつも店員である。
「私には時間がないの」
「はーい」
すぐ出てきた。
早過ぎる。
メールを確認できない。
「助けてください」
とだけそのメールには書かれていた。
これに、どうしましたか、なんて返信してはいけない。
「どこ」
量子は二文字だけ送り、箸を取った。
返事は来ない。
「あつっ」
まだ熱い。
うまい。
「海岸通り、ベイサイドマンション501。怖くて出れない」
返信がきた。
事件性が高そうだ。
量子は最後の一口を口に入れると、
「すぐ行く」
と返信して店を出た。
スマートフォンでマンションを検索。
だいたい分かった。
関内駅の海側だ。
一瞬自転車で行こうかと思ったけど考え直し、早歩きで行くことにした。
最短で行けば大してかからない。
その方が近くで様子もうかがえる。
10分はかからなかった。
ベイサイドマンションは、県警本部にも近い、中クラスのマンションだった。
マンションを見つけ、まずは通り過ぎる。
これが大切だ。
私はこのマンションに用事ないですよー。
という雰囲気を漂わせる。
ぱっと見では、不審車両や人は見つけられなかった。
続いて周囲をぐるりと周る。
さりげなくね。
マンションは10階だ。
階数と入口、エレベーター、非常階段、このあたりは必ず確認しておかなくてはならない。
そして、二回目。
今度はこのマンションに元々用事があったように、スムーズに入る。
入口ドアを開け、ポストを流し見、501。
吉永と記載。
入口は問題なし。
どうするか。
エレベーターも誰も運んでいないようだ。
方法は2つ、エレベーターか階段か。
正攻法はエレベーターかな。
迷わず10階を押す。
誰も乗っていないエレベーターに乗り込み、10階に着く。
廊下が一通り見えるので助かる。
異状なし。
9階。
8階。
階段で降りながら各階を確認。
5階まで来て一瞬、501に急ぎたい衝動にかられたが、思い直して1階まで続ける。
戻ってきた、異状はない。
マンションの外を一度見る。
こちらも大丈夫そうだ。
では。
足が疲れるが、階段で501まで上りながら、メールを送る。
「インタホン押します」
「ピンポン」
押すとしばらくして、
「はい」
「天津と言います」
「あけます」
その声はおそるおそる言った。
まだ二十歳くらいの女性だった。
かわいい顔立ちをしているので、男にはモテるだろう。
「殺されるんじゃないかと。。。」
泣き出した。