2節
「…あのさ、一ついいかな?」
いつもは脳天気な白がめずらしく真面目な面持ちで質問する。
「ああ?なんだよ?」
反して黒はいつもと変わらぬトーンで答える…返り血まみれであることを除けばだが。
「やりすぎだよ!!!!!!」
襲撃犯たちは黒によって徹底的に叩きのめされていた…正確には壊し尽くされていた。
両手足がちぎれていたり、吹っ飛んで壁にめり込んでいる者など、死屍累々といった有様であった。
「仕方ねえだろ。こうでもしねえとこいつら止まらねえんだからよ、何せそういうふうにイジられてんだからよ。」
「はあ?どういうこと?ちゃんと説明してよ。」
「見りゃ分かるだろうが、コイツらの身体。」
黒に言われ、白は襲撃犯たち(だったモノ)を凝視する。黒の言うとおり確かに彼らは普通の身体ではなかった。機械のような部品や非人間の肉片や体液が散見された。
「げえっ、ナニコレ…?!気持ちわるっ。」
「改造人間(サイボーグ’)なんだよコイツらは。まあここまで大掛かりなのは珍しいけどな。しかもそれがこんな集団で行動してるのは特にな。」
“大暴走”以降、過酷となった環境で生き抜くために、人々は機械や砂漠地帯の生物の体組織を利用し自らを強化することを厭わなくなっていった。半機械、半人など通称をハーフと言われる人々である。メリットとしては、寿命や病気の克服、戦闘力の増加があった。デメリットとしては、人間らしさや記憶の欠如、時には獣のようになってしまうというものがあった。
「まあ、大なり小なり理由があってこんなザマになってるのは間違いねえんだろうが…」
(しかしいくらなんでも行動が過激で派手すぎるだろ?いくら早朝とはいえ、往来でしかも大人数で襲撃とかどうかしてるぜ)
黒が考え込んでいると、白が間の抜けた声で話しかけてきた。
「ねえ黒、この人達みんな同じペンダントしてるよ〜?ほら。」
白がペンダントを手に取り、黒の目の前に持ってくる。
「ああ?認識票とかじゃなくてか?てっきり傭兵かと思ったが、まさか宗教関連の奴らじゃねえだろうな。だとしたら相当面倒なことに…っておい待て、こいつはまさか。」
黒はペンダントを手に取り驚愕の表情をする。
「プラータ・ジャーマ(銀の炎)かよ。めんどくせえ事になりそうだな~、これ。」
’’プラータ・ジャーマ’’(銀の炎)。宗教団体の一つであり、’’大暴走’’直後に教祖となった人物が銀色の炎を目にしそれを神格化したことが、始まりとされている。元々は、神聖視していた銀の炎の元に集い、激変した環境下で助け合いをしていく慈善団体であった。しかしいつからか異教徒を害悪とし、’’大暴走’’を惑星の意志であると唱えるようになっていったのである。布教のためであれば脅迫、誘拐、殺人など手段を問わないならず者集団というのが世間の共通認識であった。
「もはや連中はカルトだからな。噂でしか知らなかったが、ここまで極端な連中だったとは。」
「でもさ〜、なんでそんなヤバい人達のところに人が集まるワケ?どういう団体かは皆知ってるわけでしょ?」
「人間てのは、追い詰められると何かに縋らずにはいられないんだよ。たとえそれが、どんなものであってもな。」
人としての尊厳や誇り、もしくは上手い飯や煙草や酒などの嗜好品があれば人は生きられるし耐えられる。しかし何もなくなれば、もうどうでもよくなる。なんにでも頼ってしまうのが、人間というものである。
「人間ほど脆い生き物も今となっちゃほとんどいねえ。責めるつもりは毛頭ねえが、他人に迷惑かけるのは勘弁してほしいもんだねぇ。」
黒は頭を掻きながら、ため息混じりにぼやいた。
「で、これからどうするのさ?宿は追い出されてるし、これだけ派手に暴れたんじゃもう無事に街から出られないと思うけど。」
「だろうな〜。こいつら以外にも同じようなの居そうだし、ここまでやられて黙ってるとも思えねえしな。」
白からの問いかけに、黒はより深刻そうに天を仰ぐ。
「いややりすぎたのは単純に黒のせいだよね。もっと手加減すればよかったのに。三分の一殺しみたいにさ。」
「それを言うなら半殺しな。まあとりあえずは…。」
そう言いながら、黒は懐からスキットルを取り出し口に運ぶが、空だったため喉を潤すことは叶わなかった。
「酒の調達だな。あと食料も。」
「いや何朝から呑もうとしてんの。あと食料がメインだからね、調達するのは。」
「俺は最悪酒があれば問題ねえ。」
「本当に酒クズだよね黒は。」
「うるせえ大食い娘。」
早朝の大通り、死体と瓦礫が散乱する中で2人の喧騒がしばらく響いていた。