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89.日本のお正月

二日は晴天だった。

香織の気持ちも晴天だった。昨日とは比べ物にならないくらい晴れ晴れとしている。

久々に実家に帰るのだ。嬉しくて心が弾む。


これで、太一郎だけではなく、綾子も一緒に行けたらどんなに楽しいだろう。


(でも、そう思うのは自分だけかな?)


チラッと陽一を見た。

陽一としては、綾子と一緒は気が重いかもしれない。

陽一の気持ちを考えると複雑だが、今日の綾子の返事がYESであることを願わずにはいられない。


そんな思いを抱きながら、陽一の後に付いて駐車場に向かった。


陽一が愛車の前を通り過ぎたので、


「あれ?どこに行くんですか?」


香織はNSXの前で立ち止まって陽一に声を掛けた。


「その車は二人乗りだろ。今日はこっちで行く」


「?」


スタスタ歩く陽一を追いかけると、一台の高級セダンの車の前で止まった。


「・・・」


香織が呆然と立っているのを尻目に、陽一はドアを開けて乗り込んだ。


「どうした?早く乗れ」


いつまでも突っ立っている香織に、陽一は窓から顔を出して声を掛けると、エンジンを掛けた。


(・・・そうだった。この人ブルジョワだった・・・)


昨日だって、散々佐田家との格差を思い知ったばかりだというのに、つい忘れてしまう。

自分が能天気な性格だということもあるが、陽一といると居心地がよくて、そのことを忘れてしまうのだ。

もちろん、育ちが違うと思うことは随所に見られるが、最近はあまり気に留めていなかった。


「お車を二台もお持ちとは存じませんでした・・・。どんだけ嫌味なんですか。って言うか必要ですか?二台も。会社だって社用車で送り迎えなのに」


香織は憎まれ口を叩きながら、助手席に座った。


「こう見えてもお坊ちゃまなんで」


いつもの香織の憎まれ口に、陽一もいつもの意地悪そう笑みを浮かべて答えると、車のアクセルを踏み込んだ。



                   ☆



太一郎の家に着くと、すぐに太一郎が家から出てきた。


「おはようございます」


香織は車から降りて、太一郎のところに駆け寄って挨拶をした。


「おはよう!香織ちゃん。今日は迎えに来てくれてありがとうな!」


満面の笑みで迎えてくれる太一郎の後ろに、綾子の姿があった。


「お母さま!!おはようございます!!」


香織は嬉しくなって叫ぶように挨拶をした。


「そんな大きな声を出さないでちょうだい、聞こえてるから。ご近所にご迷惑よ」


呆れ顔で言う綾子の嫌味など、耳に入らないほどに香織の気持ちは高揚した。

車から降りてきた陽一が香織の隣に立つと、


「どうするの?お袋は」


と素っ気なく聞いた。

綾子の返答を待つ香織に緊張が走る。

両手を胸の前に組み、凝視する香織の視線が綾子にバシバシ突き刺さる。

綾子はふっと小さく溜息をもらすと、


「元々原田さんのところには、近いうちにお伺いする予定だったの。丁度いいから新年のご挨拶をさせて頂くわ」


と、陽一に負けないほど素っ気なく答えたが、


「よかった!おじいちゃんもおばあちゃんも喜びます!」


香織の歓喜の声と太一郎のそうだ、そうだ!と言う声に、綾子陽一親子の間に流れる険悪な空気は瞬く間に散ってしまった。


香織は、上機嫌で太一郎と綾子が持っている手土産の袋を取り上げると、陽一の車のトランクに押し込めた。


「さあさあ、早くいきましょう!」


香織は車の後部座席の扉を開けて、太一郎と綾子を手招きした。



                   ☆



原田家に到着すると、想像通り熱烈な歓迎ぶりだった。


香織が客間の襖を開けると、昌子の手料理が出迎えてくれた。


「すごーい!おばあちゃん!」


真ん中に昌子特製のお節が置かれ、その周りを囲むように料理が並んでいる。

昌子の気合が伺える。

自分一人だけの帰省の時とは大違いだ。


「さあさあ、入って、入って!みんなで来るって言うから、おばあちゃん、張り切っちゃったよ!」


昌子は嬉しそうに皆を座敷に座らせた。


(これ!これだよ!日本の正月は!)


レストランの料理のように美しいわけではないが、いつもより豪勢な料理。

お節だって、昌子の作るものは田舎丸出しで、あまり色鮮やかではない。

それでもどこかホッとする優しさがある。


香織は感動しながら、陽一の隣にちょこんと座ると、


「ほら、香織。なにお客様になってるの!台所からビール持ってきて!」


と昌子に言われ、飛び上がり、慌てて台所に向かった。


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