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7.最強の味方

(今日は疲れた・・・。早く寝よ・・・)


昨日に引き続き、今日もとんでもない日だった。

もう、お夕食を作る気分にもなれない。コンビニ弁当で済まして、さっさと寝よう。


香織はそう考えながら、ダラダラと家路に向かって歩いていた。


アパートに着くと、自分の部屋の扉の前に、一人の女性が立っていた。


「??」


香織は怪訝そうに近づくと、足音に気が付いたのか、その女性はくるっと香織の方に振り向いた。


振り向いた女性は、美しく品のある中年の女性だった。

なぜか女性は、その美しさとは不釣り合いなほど、怒気に満ちた目で香織を見つめている。


この女性知っている!どこで会ったっけ??

どこで?どこで・・・?


(あ!思い出した!)


一昨日だ!そうだ!お見合いの席にいた、あの女性・・・・


香織が固まっていると、女性がつかつかと近寄ってきた。


「原田香織さんね?」


「はい・・・。こんばんは・・・」


「私、佐田綾子と申します。陽一の母です」


(やっぱり~~!)


「ちょっと、お話よろしいかしら?」


「・・・分かりました。汚いところですが、どうぞ部屋へ」


玄関に入ると、部屋に上がるように勧めたが、綾子は、


「ここで結構」


と言うと、ギロリと香織を睨みつけた。


「あなた、どういうおつもり?人のお見合いを壊しておいて!」


「う・・・、も、申し訳ございません・・・」


「その上、陽一と付き合っているなんて!どうやってうちの息子をたぶらかしたの?!」


「へ?」


「あなたのような女性は、うちの陽一とは不釣り合いなの!さっさと別れて頂戴!」


「あ、あの・・・。えっと・・・」


怒涛のように怒鳴りまくる綾子に、香織は言い訳する隙が無い。

何とか誤解を解こうとしても、綾子は止まらない。


「陽一は佐田財閥の長男なの!息子にふさわしいのは良家のお嬢さんです!あなたのような一般家庭の娘じゃないの!」


「誤解です!付き合っていません!」


「そう、一般家庭の娘に嫁が務まるような家ではないのよ、あいにく!」


「だから、付き合っていません!」


「分かったら、さっさと別れなさい!・・・え?」


「本当に、お付き合いしていません!誤解です!私も陽一さんには全くもって不釣り合いだと自覚しております!!」


香織は思わず、綾子に対して敬礼をした。


「・・・ふざけているの?あなた・・・」


「いいえ!至って真剣です!立ち話も何ですから、中へどうぞ。お茶を淹れます。どうか、私のお話も聞いて頂けないでしょうか?」


綾子は怪訝そうに香織を見ると、ふーっと溜息をついた。そして、無言で靴を脱ぎ始めた。

それを見て、香織は急いで、客用のスリッパを綾子の前に置いた。


「どうぞ、狭いですけど」


香織に促され、香織の六畳一間の部屋に入っていった。



                      ☆



「そう、ちゃんと交際を断ったのね?」


綾子は香織が入れたお茶を一口飲んで、湯呑をテーブルに置いた。


「はい」


香織は、土曜日から今日までの出来事を―――もちろん、ホテルの一件を除き―――説明した。

最初の方は、疑わし気に聞いていた綾子だが、自分の息子の性格に思い当たる節があるようで、ちょいちょい眉間に手を当てながら、悩まし気に聞いていた。


「職場は一緒ですが、フロアが違いますし、まず会うことはないと思いますが、私の方から陽一さん、いや、副社長に近づかないように致しますので・・・」


「そうね、そうして頂戴」


「あの・・・、それと、副社長のお母さまからもお口添え頂けると、助かるかなぁ、な~んて思ったりするのですが・・・」


「当然です。私からもあなたから手を引くように、ちゃんと息子に話しますから」


「よろしくお願いします!」


香織は勢いよく頭を下げた。

それを見て、綾子は残ったお茶を一気に飲み干すと、


「お茶をご馳走様。もう帰ります」


と言って、立ち上がった。


「あ、はい。駅までお送りしますね」


「車で来ているから、気にしないで」


「では、お車まで」


そう言って、香織は綾子を車まで見送るために、一緒にアパートを出た。


立派な黒塗りの車が、アパートの少し離れたところに止まっていた。

中から一人の男が出てきて、綾子に一礼すると、スッと車のドアを開けた。


(げ、運転手さん、ずっと待ってたんだ!)


「すいません・・・。長くお引止めしちゃって・・・」


綾子が後部座席に乗り込むんでいるところに、綾子と運転手に頭を下げた。


「気にしないで」


綾子は素っ気なく答えて座席に座った。

運転手は扉を閉め、香織ににっこりと会釈して、運転席に戻った。


「お話を聞いて頂いて、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください。おやすみなさい」


香織は改めて車に向かって一礼すると、走り去る車に手を振った。


これで、明日から平穏な日々に戻ると安堵した気持ちの中に、寂しい気持ちが込み上げてくるのを、ぐっと押さえながら、車が見えなくなるまで、手を振った。


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