表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/120

67.ヤキモチ

家に帰って、夕食の支度がひと段落すると、香織はリビングで陽一を待っていた。

その間、ローテーブルに貰って来たクッキーを置いて、ソファからそれをじっと見つめていた。


さっさと食べてしまえばよかったのに、なぜか食べる気がしない。


秘書室を出るときには、あんなにも罪悪感で胸がモヤモヤしていたのに、今は全然違ったモヤモヤが心を占めている。


(何も、急な仕事を頼んだからって、わざわざお礼なんてする必要ある?)


香織だって陽一からいろいろな物を貰っている。

それこそ高級菓子なんか足元にも及ばないほどに。

それなのに、このモヤモヤはなんだ!見苦しい!


そう自分に言い聞かせても、腹の底から黒々としたものが渦を巻いて、喉の辺りまで湧き上がってくる。

あの秘書だけを特別扱いしているようで、何とも嫌な気持ちになる。


(あ~!嫌だ嫌だ!こんなヤキモチ!)


香織はベシベシと両頬を叩いた。


(・・・よく考えたら、こんなことでヤキモチを焼いていたら、身が持たないや。なんせ相手は王子様なんだから)


そう気持ちを入れ替えた時に、陽一が帰ってきた。

折角、立ち直った気持ちが、陽一を見た途端、ぶり返してしまった。


「・・・おかえりなさいませ・・・」


「?なんだよ?機嫌悪いな」


陽一は不思議そうに香織を見ると、ぽつんと置いてあるクッキーに目を落とした。


「何?それ」


「・・・何って。誰かさんが坂上さんにプレゼントしたものじゃないですか」


「ああ、あれね。中身、そんなんだったんだ」


「そんなんだったって・・・。知らないで買ったんですか?」


香織は目を丸くした。

陽一は背広をソファに投げるように置くと、ネクタイを緩めた。


「まあね、適当に買ったから。中身まで気にしてない」


「・・・」


「で、なんでお前が持ってるの?貰ったの?」


「ええ!『副社長に頂きましたから、お一つどうぞ』って、超ご機嫌に言ってましたけど!」


そう言うと、プイっと顔を横に向けた。

陽一はその様子を可笑しそうに見ると、


「あー、バレちゃったんだよね。それこそ誰かさんが付けた痕跡が」


「え?!」


「それの口封じ的な?」


陽一はネクタイを取ると、襟を広げてみせた。

香織は言葉を詰まらせた。


「しかもタイミング良く、急ぎの用件を頼んだんでね。あんまり不自然じゃなくお礼として渡せたよ」


「・・・」


陽一は香織の傍にやってくると、ニヤリと笑って顔を覗き込んだ。


「あれ?もしかしてヤキモチ焼いちゃった?」


「ぐっ・・・」


香織は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

陽一は香織の顎を掴んで、自分の方に向かせた。

満足そうに笑う陽一の顔を、香織は軽く睨むと、ふっと目を逸らした。


「・・・でも、あんなことされたら、女子は期待しちゃいますよ・・・。坂上さんだって・・・」


モゴモゴ文句を言う香織の唇に、陽一は自分の唇を軽く合わせると、


「悪かったよ、もうしないって」


そう言って、今度は香織の頬を両手で包むと、もう一度しっかりと口づけた。



                ☆



あれからは秘書は終始ご機嫌だった。

そんな秘書と対面する度、香織の内に罪悪感が募る。

自分に対して当たりが良い分、尚更だ。


金曜日の夕方。

香織とよく一緒にお昼に行く女子社員から、女子会のお誘いを受けた。

丁度、陽一も会食と言っていた。夕食の支度はしなくていい。

しかも、女子会と銘打っているものであれば、参加しても問題ないだろう。

香織は是非とも!と二つ返事でOKした。


女子三人で帰りのエレベーターに乗り込むと、先に例の秘書二人組が乗っていた。


「お疲れ様です」


とお互い挨拶すると、陽一の秘書の坂上が香織たちに声を掛けてきた。


「もしかして、皆さんでお食事に行かれるのですか?」


「ええ、そうなんです」


第一課の女子社員がにっこりと応対した。


「そうなんですか。私たちも二人でご飯に行こうって言っているんですけど、どこか近くでお勧めなお店あります?」


「そうなんですか?私たちが今から行くお店もとってもお勧めですよ!」


「え、そうなんですか?あ、だったらご一緒しません?」


坂上がパンと両手を可愛らしく叩いた。


(げ!マジか?)


香織は青くなり、もう一人の常務の秘書を縋るように見つめた。

彼女は普段からちょっとツンとしていて、人付き合いはあまり好きではなさそうだ。

きっと、彼女は嫌がるのではないか・・・?


「ね?田島さん。どう?」


坂上に聞かれた田島は、表情を変えずに、


「そうね、折角だものね。第一課の方とはお世話になっていますし、ご一緒してもよろしいですか?」


と言ってきた。


(噓噓嘘!あんた、そんなキャラ?)


香織は目を剥いた。

第一課の二人の女子はもともと人好きだ。

人数が増えて嬉しそうに喜んで秘書二人を迎えている。

もう、香織には成す術は無い。


(断ればよかった・・・。耐えられるかな・・・私・・・)


香織はガックリ肩を落としながら、仲良く歩く四人の後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ