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49.綾子宅

香織は酷い頭痛で目を覚ますと、見たことのない部屋に目を見張った。


(デ、デジャブ!)


香織は慌ててベッドの隣を見た。

誰もいない。

自分を見ると、ちゃんと服を着ている。


(よ、よかった・・・)


だが、不安は残る。


(ここはどこ・・・?)


香織は恐る恐るベッドから下りると、そっと部屋の扉を開けた

外の廊下を見ると、普通の家のようだ。


(とりあえず、トイレ行きたい・・・)


香織は廊下に出て、トイレを探そうと徘徊し始めた。

すると背後から声を掛けられた。


「あら、お目覚めですか?お嬢さん」


「ひゃあ!」


香織は声を上げて、飛び上がった。


「あらあら、ごめんなさい、驚かせちゃって」


香織が振り向くと、中年女性がにこにこしながら立っていた。


「あ、あの、お、おはようございます・・・。えっと、ここは・・・?」


おどおどしながら訪ねると、その中年女性の後ろから綾子が出てきた。


「やっと起きたのね。いつまで寝ているのかと思ったわ」


「お、お母さま?!」


香織はもう一度飛び上がった。

目を白黒させて、綾子と中年女性を交互に見た。

綾子は呆れた果てた目で香織を見ている。


「あの・・・、もしかして、私、やらかしました・・・?」


「話は後よ。シャワー浴びてらっしゃい。サワさん、この子をシャワールームへ案内してあげて」


「はい。奥様」


サワは、真っ青になって突っ立っている香織を引っ張るように、シャワールームへ連れて行った。


シャワーから上がってすっきり綺麗になると、香織は綾子の待つ居間に飛び込み、ソファに座る綾子の足元にスライディングするように土下座した。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでしたぁ!」


綾子は呆れるように香織を見下ろすと、


「いいから、まずは朝食を食べてちょうだい。サワさんが用意してるわ」


奥にある食卓のテーブルを指差した。

そのテーブルの横に、サワがにっこりと立っている。


「こちらへどうぞ、お嬢さん」


「・・・はい。ありがとうございます」


香織は立ち上がると、サワに頭を下げながらテーブルに近寄った。

席に着くと、サワが香織の前に朝食のプレートを置いた。


「わぁ!すごーい!!カフェみたい!」


美しいクラブハウスサンドとサラダとオレンジジュース。

デザートに果物のヨーグルト掛けまで付いている。

目の前の朝食に、香織は手をパチパチと叩いた。


「そんなに褒めてもらって嬉しいですね。若いお嬢さんだから、和食よりパンの方がいいと思って」


「すごくおいしそうです!写真に撮りたいくらいです!」


「あらあら、そこまでじゃないでしょう?」


サワは嬉しそうに笑うと、


「ホント、今の若い子は何でも写真に撮りたがるのね」


綾子はソファに座って新聞を読みながら、呆れたように言った。



                ☆



香織は朝食を食べ終わると、満足げに腹を摩りながらサワと綾子にお礼を言った。


「めちゃめちゃ美味しかったです。ご馳走様でした!」


「お粗末様でした」


サワはお皿を下げると、コーヒーを入れてくれた。

香織はお礼を言いながら、ちょこんと頭を下げた。


「ところで、昨日の事は覚えているの?」


ソファに座って新聞を広げたまま、綾子が香織に声を掛けた。


「うぐっ・・・」


香織はコーヒーを噴きかけた。

慌てて手で口を拭いて、カップを置くと、恐る恐る綾子を見た。


「実は・・・。その・・・」


「覚えてないの?」


「・・・はい」


綾子は溜息を付くと、新聞を自分の前のローテーブルに置いた。


「・・・あなた。これからは記憶を無くすまで飲むのはもう止めなさいね」


「はい・・・。本当に、最後の最後にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


香織は立ち上がると、綾子に向かって頭を下げた。


(最後って・・・)


本当に昨日の陽一とのやり取りを覚えていないようだ。

綾子は眉間に手を当てた。


「もういいわ。二日酔いはどう?大丈夫?」


「あ、はい。シャワーを浴びてすっきりしました」


実はまだ頭痛がするが、咄嗟に嘘を付いた。


「そう。・・・じゃあ、コーヒーを飲んだら、もう今日はお帰りなさい」


「・・・はい」


香織は寂し気に俯いた。

だが、ここにいつまでも居座る理由はない。

早くお暇しないと、綾子に迷惑だ。

そう思いながらも、香織はチビチビと時間をかけてゆっくりとコーヒーを飲んだ。


                     ☆



「本当にありがとうございました。お邪魔しました」


香織は玄関に来ると、改めて丁寧にお辞儀をした。


「・・・お元気でね」


綾子は無表情で香織に声を掛けた。


「はい!お母さまもお元気で!」


香織は寂しさを誤魔化すように、にっこりと笑って元気な声を出した、

そしてもう一度頭を下げると、玄関を開けて外に出た。


門から外に出ようとしたところを、サワが走ってきた。


「お嬢さん!ちょっと待って~!」


サワは香織の傍に来ると、手提げの紙袋を香織に手渡した。


「これ、奥様から手土産ですよ」


「え?」


香織は紙袋の中を見た。

包み紙に包まれた高級洋菓子の箱が二箱も入っている。


「そんな・・・、ご迷惑をおかけした上に、こんな高級な物いただくなんて・・・」


「いいじゃないの!貰っておきなさいな、ね?」


サワは笑いながら、香織の肩をポンと叩いた。


「では、お礼をお伝えください。あと、サワさんも朝食ありがとうございました」


香織はサワに頭を下げた。

そして門から出ると、最寄り駅に向かって歩いて行った。

その背中が見えなくなるまで、サワは香織を見送ってくれた。


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