20.南国(?)旅行
「一体なぜ、ここに?」
香織は目の前の景色を前にボーゼンと立ち尽くした。
今日は土曜日だ。
夏の日差しが眩しい、透けるような青空。
目の前には美しいヤシの木が均等に並ぶ大きな道路。
そしてその奥には、青く美しい海がキラキラ輝いている。
「なぜ、八丈島?」
☆
今日の早朝、香織は突然やって来た祖父母に叩き起こされた。
そしてあれよあれよという間に、外に連れ出され、タクシーに乗せられた。
向かった先は羽田空港。
待っていたのは、当然・・・。
「おー!待たせたなー、太一郎!おはよう!陽一君」
「おはよう!幸ちゃん、香織ちゃん。お久しぶりです、奥さん!お元気でしたか?」
年寄三人の和気あいあいとした会話を、唖然と見ている香織の荷物を、陽一は当然のように取り上げた。
「・・・!ちょっと!」
慌てる香織を尻目に、陽一は年寄のもとに近づき、挨拶を済ませた。
年寄りに対する態度は、香織へそれと全く違い、傲慢さの欠片もなく、どこから見ても好青年の御曹司だ。
香織が苦み潰した顔で陽一を見ていると、それに気が付いたのか、意地悪そうな笑みを向けてくる。
(くっ・・・)
香織はそっぽを向いた。あの余裕が気に入らない!
それだけではない。あの笑みが危ないのだ・・・。
意地悪そうなのに、なぜか心臓に悪い。トクントクン鳴り始める。
「ほら、行くぞ」
陽一は近くに来ると、香織の頭をコツンと叩いた。
「だから、行くってどこに??」
スタスタ歩く陽一の後を、香織は小走りで追いかけた。
その二人の後を、年寄三人はペラペラと楽しそうにおしゃべりをしながら付いてくる。
そして辿り着いた先が・・・。
(なぜ、八丈島?)
普通、大金持ちの御曹司って、もっと南国の島を選ぶもんじゃないの?
よくドラマや漫画であるじゃない。無理やり連れてきた先が、グアムとかハワイとか・・・。せめて沖縄・・・?
(なぜ、ここをチョイス・・・?)
可愛らしいコテージ風の宿を背に、夏の風に吹かれながら、香織は呆然と海を眺めた。
「思っていることが、ダダ洩れだぞ」
陽一が香織の頭を小突いた。
「言っておくが、ここを選んだのは佐藤のじいさんのためだ」
「へ?」
「好きなんだよ、八丈島が。それに年寄連れてくるには近くて丁度いい」
そして、香織の顔を覗き込むと、
「悪かったな、南国の島じゃなくて」
と意地悪そうに笑った。
「う・・・」
香織は図星を突かれて、気まずそうに目を逸らした。
その目の先には、浮かれてはしゃぎまわっている年寄三人の姿。
香織は、キッと陽一を見返した。
「年寄三人を出汁に使うなんて卑怯ですよ!」
「お袋とつるんでるお前に言われたくないね」
「う・・・」
香織が言葉に詰まっているところに、香織の祖母の昌子が興奮気味に近づいてきた。
「香織たちは海に行くの?おじいちゃんたちは海釣り行くって!」
「突然連れて来られたんだから、水着なんて持ってきてないよっ」
香織は少し八つ当たり気味に答えた。
「買いに行けばいいだろ?」
横から陽一が口を挟んだ。
(出た!金持ち思考!)
「俺たちは海に行くんで。うちの祖父をお願いします」
陽一は香織の肩を抱くと、別人のように爽やかな笑みで答えた。
「はいはい!今日の夜はバーベキューなんでしょ?釣った魚もたくさん並ぶように、おばあちゃんも頑張ってくるからね~!」
昌子はスキップするかのように、祖父たちのところに戻って行くと、二人を連れて出かけてしまった。
(・・・とにかく、副社長のお母さまに連絡しないと・・・!)
香織は、陽一が昌子たちに手を振っている横で、こっそりスマホと取り出した。
陽一に拉致されたところまでは、なんとかメッセージを送れたが、その先はまだだ。
(とりあえず、場所を・・・)
「ったく、諦めが悪い奴だな」
するっと伸びた陽一の手に、香織のスマホは奪われた。
「連絡入れなくても、どうせお袋にはすぐバレるって。するだけ無駄」
そう言うと、香織のスマホをセキュリティーボックスに仕舞い、鍵を掛けてしまった。
「!!!ちょっと!何してるんですか!?」
「海で落としたら不味いだろ?」
「落としませんって!無い方がまずい!って言うか不便!」
「水着買いに行くぞ」
陽一は香織の抗議を無視し、手首を掴むと車に向かって歩き出した。
そして香織を助手席に押し込めると、そのまま車を発進させた。




