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1.見合い乗っ取り

ある土曜日の夕方。

香織は久々に自分の祖父と食事の約束をしていた。


「おじいちゃん。久しぶりだね~!おばあちゃんは何で来ないの?」


「ばあさんは、お友達とバス旅行だって。お前によろしくと言ってたぞ」


香織は幼くして両親を亡くし、母方の祖父母に育てられた。

今はその祖父母からも独立し、都内で社会人として独り暮らしをしている。

そんな香織を心配してか、郊外で農家をしている祖父母は、よく香織に会いに東京に来てくれる。


「でも、今日はなんかいいお店なんでしょ?綺麗な格好してこいなんて言ってさ。おばあちゃん、のけ者にされたって怒るんじゃない?」


「だ、大丈夫!大丈夫!ハハハ!」


「???」


香織は歯切れが悪い祖父を不思議に思いながらも、予約している料亭に向かった。



                  ☆



料亭に着くと、すぐにスタッフが迎えてくれた。

立派な割烹料理の料亭だ。靴を脱ぎ、並べられたスリッパに足を通す


「17時に佐藤で予約しています」


「は?」


香織は驚いた。

『佐藤』って誰?うちは『原田』って苗字だけど・・・


受付のスタッフも予約帳を見ながら、渋い顔をしている。


「佐藤様・・・ですか・・・。予約時間は16時に変更されておりまして・・・、既にもう全員お揃いですが・・・」


「は?」


スタッフの回答に香織の祖父が驚いていると、別のスタッフがすぐに駆け寄ってきた。


「少々お待ちください」


そう言うと、傍にあるベンチ式の椅子で待つように促された。

香織は訳が分からない。どういうことか祖父に聞こうとした時だった。奥から一人の老人が慌てたようにやって来た。


「幸ちゃん、すまない!」


「どういうことだよ!太一郎」


(え?なになに?知り合い??)


二人の老人の掛け合いに、香織は固まった。

『幸ちゃん』とは自分の祖父の『幸之助』のことだ。で、この『タイチロウ』って言うおじいさんは誰?


「幸ちゃん!見合いが!孫同士の見合いが、娘に乗っ取られた!」


「なに?娘って、綾子ちゃんか?」


「そうだ。アイツ、俺が陽一を香織ちゃんに引き合わせることに気が付いて、勝手に予約時間変更して、佐田家の息子として、取引先の令嬢と見合いを組んじまったんだ」


「・・・」


「佐田の舅も出席している。俺も来た時は、先方さんもご両親共々揃って、見合いが始まってた・・・」


香織はこの会話が理解できない。何言ってんの?この二人。見合いって何?


「く~、なにやってんだよ、太一郎!」


「すまねぇ。幸ちゃん」


「太一郎、行くぞ!可愛い孫娘の顔に泥を塗られて黙っていられるか!いくらお前の可愛い娘相手と言ってもな!」


「・・・すまねぇ。幸ちゃん」


二人は、奥の部屋にずんずん歩き出した。

スタッフは慌てて止めるが、既にその部屋の客である太一郎がスタッフを宥める。


(何??? ホント、何が起こったの?)


二人を追いかけるスタッフに続くように、香織も慌ててついて行った。

良く分からないが、不穏な空気なのは確かだ。何かあったら止めなと!・・・っていうか今止めないとまずい?


そんなこと考えている間に、幸之助は一室の襖を開けてしまった。



                   ☆



そこは、『THE・見合い』という席だった。


美しい和服の女性を真ん中に、品のある服装の両親が両脇に座っている。そして向かいには若い男性を間にして、厳格そうな老人と美しい中年女性が座っていた。


その厳格な雰囲気に、幸之助は一瞬たじろいだ。

その隙にスタッフが幸之助の傍に行き、


「お客様・・・。どうぞロビーの方へ・・・」


と小声で声を掛けた。そのスタッフの声に、幸之助は我に返った


「綾子ちゃん!これはないだろう!今日は、陽一君はうちの孫と見合いのはずだったんだ!」


「どういうことだ?綾子」


静かな声で、席に座っている老人が、中年女性に尋ねた。

中年女性は首を傾げた。


「さあ?」


「綾子!お前が見合いを勝手に変えたんだろう!」


太一郎が幸之助の後ろから、綾子という女性を指差した。

綾子はピクッと眉を動かすと、太一郎を睨んだ。それを見ると、太一郎は幸之助の後ろに隠れた。


「ふう・・・」


綾子は深くため息をつくと、スタッフに向かって


「早くこの方達に下がっていただいて!」


そう言うと、そっぽを向いた。


「お客様。こちらへ」


「離せ!まだ、話は終わっていない!」


「おじいちゃん!いい加減にして!」


粘る幸之助に焦った香織が飛び出した。そしてそのままの勢いて、見合いの席に向かって頭を下げた。


「お騒がせして、誠に申し訳ございません。すぐに下がりますので!」


香織はクルッと振り向くと、ギロッと幸之助を睨んだ。


「おじいちゃん!帰るわよ!!急いで!」


「しかし、香織・・・」


「何? 私も何にも話聞かされてないけど?」


「・・・」


香織は黙った幸之助を廊下に押しやり、最後に振り向いて、もう一度頭を下げた。


「本当に申し訳ありませんでした!」


そう言うと、静かに襖を閉めた。

そして、二人の老人の首根っこを押さえ、無理やり料亭から引っ張り出した。


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